付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜

咲月ねむと

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33話 見捨てられた村

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俺たちは、すぐに行き詰まりを見せていた。

「ダメですわ。お父様にお願いして宮廷書庫の記録を調べましたが、リリシア様の公式な経歴は、あまりにも清廉潔白。まるで、後から完璧な物語として……」

「こちらでも目立った成果はない。教会の内部記録は、当然ながら外部の者には固く閉ざされている。聖女個人の過去を探るなど不可能に近い」

ソフィア様とジュリアス様が揃ってため息をつく。やはり正面からの調査では、分厚い壁に阻まれてしまう。
そんな重苦しい空気の中、一筋の光を差し込んだのはエマさんの元気な声だった。

「聞いて聞いて! またまた王都の市場ですっごく気になる噂を掴んできたよ!」

エマさんの報告は衝撃的なものだった。

今からおよそ十年前。
王都のすぐ隣にあった「エルム村」という、小さな村。そこで『灰肺病』と呼ばれる、致死率の極めて高い謎の流行り病が発生した。
貴族も、教会も、その村を見捨てた。だが、そんな中、たった一人、村に残り最後まで病人の看病を続けた若い見習いシスターがいた、というのだ。

「追加情報として、そのシスターすごく献身的だったんだけど……結局、村は、ほとんどの人が亡くなって、廃村同然になっちゃったんだって。だから英雄譚として語られることもなくって……」

俺たちは四人で顔を見合わせた。
これだ。間違いなくこれだ。

見捨てられた村。
流行り病。
救えなかった大勢の人々。

リリシア様の、あの異常なまでの執着心を生み出すほどの深いトラウマ。その舞台として、これ以上ないほどしっくりとくる。

「その村、今もあるのか?」

ジュリアス様の問いに、エマさんはこくりと頷いた。

「うん。森の奥に廃墟としてまだ残ってるって」

俺たちの目的地が決まった。



問題はどうやってその村へ行くか、だ。
学生である俺たちが無断で学園を抜け出すわけにはいかない。

「それでしたらお任せくださいまし」

ソフィア様が優雅に微笑んだ。

「『古代流行病が、地域社会に与えた影響についての、歴史的考察』。このテーマで、私が担当教授から正式な週末の校外学習許可証をいただいてまいりますわ」

完璧な口実だった。
でも、そんな俺には、もう一つやらなければならないことがあった。

リリシア様への報告だ。
もう彼女からコソコソと隠れるのはやめたのだから。

俺は、あの日と同じ大聖堂の祈りの間で一人、祈りを捧げる彼女を見つけた。隣に膝をつくと、彼女の肩がびくりと震える。

「リリシア様。週末、友人たちと校外学習へ行くことになりました」

俺は努めて事務的な口調で告げた。

「行き先は、隣の、エルム村です」

『エルム村』。
その名を口にした瞬間。

リリシア様の、その完璧な聖女の仮面が初めて音を立てて砕け散った。
彼女の顔から、さっと血の気が引き、その翠色の瞳が激しく揺れ動く。

それは恐怖、後悔、どうしようもないほどの深い深い哀しみの色。

俺が今まで一度も見たことのない彼女の生の感情だった。

「……そうですか」

長い、長い沈黙の後。
彼女は、それだけを絞り出すように言った。

「……お気をつけて」

彼女はそう言うとよろけるように立ち上がり、俺に背を向けて、逃げるように、その場を去って行ったのだ。

その後ろ姿を呼び止めることができなかった。

だが、確信は得た。彼女の反応。エルム村。
そこがリリシア様の全ての始まりの場所なのだ。

俺は固く拳を握りしめた。

「リリシア様。あんたの過去、必ず俺が見つけ出してやる」

その重荷を俺が半分背負ってやる。
パートナーとして、ではなく。
一人の男として。

俺たちの真実を探す旅が、今、始まろうとしていた。
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