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後日談
1話 監督役の憂鬱
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聖女リリシアの『公式監督役』。
その前代未聞の役職に就任してから、俺の日常は、以前とは全く違う種類の頭痛の種に満ち溢れていた。
「――以上が、今週の聖女リリシア様の活動報告書となります。ご確認の上、サインを」
学園の一室。俺の目の前で、ジュリアス様が、羊皮紙の束を読み上げる。
そう。俺の監督役としての初仕事は、リリシアの行動を週一で教会と王家へ報告するという、お堅い事務作業だった。
「えーと……『月曜日。中庭にて、アラン様の御髪に止まった蝶をご覧になり、神の化身であらせられると、三時間にわたり、その蝶に祈りを捧げていた』……」
俺は、報告書の、その一文を読んだだけで、こめかみがズキズキと痛むのを感じた。
あの後、俺は祈りのせいで衰弱しきった蝶をそっと森へ逃がしてやったのだ。
「『火曜日。アラン様が、授業で居眠りをなされた際、その寝顔は、まるで、幼き日の天使のようだと、涙を流しながらスケッチに励んでいた』……。おい、ジュリアス様、このスケッチまで添付するのは、やめてくれ!」
「事実を、ありのままに報告するのが、僕の役目だからな。それに、このスケッチは芸術的価値が非常に高い」
ジュリアス様は涼しい顔で、俺の抗議をかわす。
「『水曜日。アラン様が、エマさんと親しげに会話をしていた際、その手に持っていた聖典から、黒いオーラが立ち上り、半径五メートル以内の植物がことごとく枯れた』……」
「これだ! これが問題なんだ!」
俺は机を叩いた。
「彼女は、もう俺をストーキングしたり、物理的に干渉したりはしない。だが、その代わり、無意識に、そのヤバい聖なる力?が、ダダ漏れになってるんだ!」
先日は、俺がくしゃみをしただけで「アラン様の体内に、邪気が!」と、教室ごと浄化されそうになった。その度に、俺が「監督役命令だ!」と叫んで、なんとか大惨事を食い止めている。
「フン。君も、ずいぶんと、あの聖女の扱いが上手くなったじゃないか」
「嬉しくない!」
俺は、頭を抱えた。
平穏は、訪れた。だが、それは、いつ爆発するか分からない、神聖爆弾を常に抱えているような、スリルとサスペンスに満ちた平穏だった。
◇◇◇
その日の放課後。
俺は、リリシアを連れて、教会の大聖堂に来ていた。
彼女の力のコントロール訓練に付き合うのも、監督役の重要な仕事の一つだ。
「いいか、リリシア。まずは、精神を集中して体内の、その聖なる力を感じてみるんだ。そして、それをゆっくりと外に出したり内に収めたり……」
俺がサバイバル本で読んだ、我流の呼吸法を偉そうに説明する。
「はい、アラン様!」
リリシアは素直にこくりと頷くと、目を閉じて、精神統一を始めた。
その横顔は、真剣で、そしてひたむきだ。
以前のように俺に幻を重ねるのではなく、俺の言葉をまっすぐに受け止めようとしてくれている。
そのことが、なんだかくすぐったくて、俺は少しだけ照れくさくなった。
ふわり、と。
彼女の体から、温かで、穏やかな、光の粒子が立ち上り始めた。
それは体育祭の時のような、攻撃的なものではなく、ただ優しく空間を満たしていく、心地よい光。
「……すごい。できてるじゃないか、リリシア」
俺が感心して声をかけると、彼女は嬉しそうに、ぱっと目を開けた。
「本当ですか!? これもアラン様の的確なご指導のおかげですわ!」
彼女が満面の笑みを俺に向けた、その瞬間。
ドッ!!
彼女から放たれていた穏やかな光が、一気に凝縮され、極太のレーザーとなって大聖堂の天井へと突き刺さった。
ガラガラガッシャーン!!
美しいステンドグラスが、木っ端微塵に砕け散り、天井には、ぽっかりと夜空の見える大きな穴が空いてしまった。
……やっちまった。
俺とリリシアは、二人顔を見合わせ、さっと青ざめた。
「あ、あの、アラン様……。これも、その、愛の、表現、と、いうことで……」
「誰が、教会を破壊しろと言った!」
俺は頭を抱えて、その場にへたり込んだ。
聖女リリシアの監督役。
その道は、俺が思っていた以上に険しく多額の修繕費が必要になりそうだった。
その前代未聞の役職に就任してから、俺の日常は、以前とは全く違う種類の頭痛の種に満ち溢れていた。
「――以上が、今週の聖女リリシア様の活動報告書となります。ご確認の上、サインを」
学園の一室。俺の目の前で、ジュリアス様が、羊皮紙の束を読み上げる。
そう。俺の監督役としての初仕事は、リリシアの行動を週一で教会と王家へ報告するという、お堅い事務作業だった。
「えーと……『月曜日。中庭にて、アラン様の御髪に止まった蝶をご覧になり、神の化身であらせられると、三時間にわたり、その蝶に祈りを捧げていた』……」
俺は、報告書の、その一文を読んだだけで、こめかみがズキズキと痛むのを感じた。
あの後、俺は祈りのせいで衰弱しきった蝶をそっと森へ逃がしてやったのだ。
「『火曜日。アラン様が、授業で居眠りをなされた際、その寝顔は、まるで、幼き日の天使のようだと、涙を流しながらスケッチに励んでいた』……。おい、ジュリアス様、このスケッチまで添付するのは、やめてくれ!」
「事実を、ありのままに報告するのが、僕の役目だからな。それに、このスケッチは芸術的価値が非常に高い」
ジュリアス様は涼しい顔で、俺の抗議をかわす。
「『水曜日。アラン様が、エマさんと親しげに会話をしていた際、その手に持っていた聖典から、黒いオーラが立ち上り、半径五メートル以内の植物がことごとく枯れた』……」
「これだ! これが問題なんだ!」
俺は机を叩いた。
「彼女は、もう俺をストーキングしたり、物理的に干渉したりはしない。だが、その代わり、無意識に、そのヤバい聖なる力?が、ダダ漏れになってるんだ!」
先日は、俺がくしゃみをしただけで「アラン様の体内に、邪気が!」と、教室ごと浄化されそうになった。その度に、俺が「監督役命令だ!」と叫んで、なんとか大惨事を食い止めている。
「フン。君も、ずいぶんと、あの聖女の扱いが上手くなったじゃないか」
「嬉しくない!」
俺は、頭を抱えた。
平穏は、訪れた。だが、それは、いつ爆発するか分からない、神聖爆弾を常に抱えているような、スリルとサスペンスに満ちた平穏だった。
◇◇◇
その日の放課後。
俺は、リリシアを連れて、教会の大聖堂に来ていた。
彼女の力のコントロール訓練に付き合うのも、監督役の重要な仕事の一つだ。
「いいか、リリシア。まずは、精神を集中して体内の、その聖なる力を感じてみるんだ。そして、それをゆっくりと外に出したり内に収めたり……」
俺がサバイバル本で読んだ、我流の呼吸法を偉そうに説明する。
「はい、アラン様!」
リリシアは素直にこくりと頷くと、目を閉じて、精神統一を始めた。
その横顔は、真剣で、そしてひたむきだ。
以前のように俺に幻を重ねるのではなく、俺の言葉をまっすぐに受け止めようとしてくれている。
そのことが、なんだかくすぐったくて、俺は少しだけ照れくさくなった。
ふわり、と。
彼女の体から、温かで、穏やかな、光の粒子が立ち上り始めた。
それは体育祭の時のような、攻撃的なものではなく、ただ優しく空間を満たしていく、心地よい光。
「……すごい。できてるじゃないか、リリシア」
俺が感心して声をかけると、彼女は嬉しそうに、ぱっと目を開けた。
「本当ですか!? これもアラン様の的確なご指導のおかげですわ!」
彼女が満面の笑みを俺に向けた、その瞬間。
ドッ!!
彼女から放たれていた穏やかな光が、一気に凝縮され、極太のレーザーとなって大聖堂の天井へと突き刺さった。
ガラガラガッシャーン!!
美しいステンドグラスが、木っ端微塵に砕け散り、天井には、ぽっかりと夜空の見える大きな穴が空いてしまった。
……やっちまった。
俺とリリシアは、二人顔を見合わせ、さっと青ざめた。
「あ、あの、アラン様……。これも、その、愛の、表現、と、いうことで……」
「誰が、教会を破壊しろと言った!」
俺は頭を抱えて、その場にへたり込んだ。
聖女リリシアの監督役。
その道は、俺が思っていた以上に険しく多額の修繕費が必要になりそうだった。
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