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第17話 泥まみれの厄災
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グオオオオオオオッ……!!
耳をつんざくような咆哮とともに、地割れから這い出した「それ」は、広場の空を覆い尽くすほどの巨体を見せつけた。
全身がドロドロとした黒い汚泥で構成された、竜の形をした化け物。
鼻が曲がりそうな腐敗臭が周囲に立ち込める。
「ひっ、ひいぃっ! な、なにこれぇ!?」
ステージ上のミリアが尻餅をついて悲鳴を上げた。彼女が呼び出したのは、花畑どころか、この土地の地下水脈に溜まっていた穢れそのもの――『腐泥竜』だったのだ。
「き、汚らわしい! 近寄らないでよ!」
ミリアは半狂乱になりながら杖を振り回した。
「消えなさい! 【聖なる光矢】!」
シュババッ!
無数の光の矢が腐泥竜に突き刺さる。
だが、それは逆効果だった。
光魔法を受けた泥は、ジュウジュウと音を立てて沸騰し、さらに活性化したのだ。
「なっ……効かない!? 嘘でしょ!?」
腐泥竜はギョロリと濁った眼球をミリアに向け、巨大な腕を振り上げた。
「ミリア、逃げろ!」
アレクセイ様が叫ぶがミリアは腰が抜けて動けない。
泥の腕が彼女を押しつぶそうとした、その瞬間。
ドォォォンッ!!
青白い閃光が走り、泥の腕が中空で凍りつき粉砕された。
「……チッ、硬いな」
割って入ったのはクラウス様だった。
抜身の剣には冷気が纏わりつき、彼の足元からは氷柱が伸びている。彼はミリアを背後に庇いつつ、油断なく敵を見据えていた。
「ク、クラウス様ぁ! 助けてぇ!」
ミリアが縋り付こうとするがクラウス様は冷たく言い放った。
「黙って下がっていろ。……貴様が余計な魔力を注いだせいで、奴は無尽蔵に再生するぞ」
その言葉通り、粉砕されたはずの泥の腕は、すぐにズルズルと再生を始めていた。
クラウス様が剣を振るうたびに、氷の刃が泥を切り裂き、凍結させる。
しかし、相手は不定形の流体だ。凍らせても次から次へと新しい泥が湧き出してくるのだ。
「くっ……キリがない!」
さすがの「氷の騎士」も守るべき対象――逃げ遅れた市民や役立たずの聖女たちを背負いながらでは防戦一方だ。
このままでは、いずれ押し切られる。
屋台の影でその様子を見ていた私は、あることに気がついた。
(……あの泥、ただの泥じゃない)
風に乗って漂ってくる強烈な悪臭。
それは生ゴミと排水溝、それに長年放置された油汚れが混ざったような匂いだった。
(あれは魔物というより……『汚れの集合体』だわ)
ミリアの聖女の力が土地の自浄作用を狂わせ、地下に溜まっていた「生活排水や穢れ」を一気に具現化させてしまったのだ。
だから、普通の攻撃魔法や剣技では倒せない。切っても切っても汚れは広がるだけだ。
――なら、どうする?
汚れを落とすには?
剣? いいえ。攻撃魔法? 違う。
私はエプロンの紐をキュッと締め直し、屋台から飛び出した。
手には武器の代わりに愛用の「巨大おたま」を握りしめて。
「エリーナ!? 馬鹿、出てくるな!!」
私に気づいたクラウス様が血相を変えて叫ぶ。
腐泥竜もまた、新たな獲物を見つけたとばかりに、私に向かってヘドロのブレスを吐き出そうと大きく口を開けた。
「危ないっ!!」
誰もが私が死ぬと思っただろう。
でも、私の目には、あの恐ろしい竜がただの「頑固な換気扇の油汚れ」にしか見えていなかった。
「クラウス様、下がってください! あれは『討伐』するんじゃありません!」
私は腐泥竜の鼻先まで駆け寄ると、大きく息を吸い込み、魔力を練り上げた。
かつて王城の厨房を一人でピカピカにし、廃墟同然の店舗を新築同様に蘇らせた、私の全魔力を込めて。
「『掃除』するんです!!」
私はおたまを高らかに掲げた。
「これでも食らいなさい! 超・特大出力――【完全漂白】!!!」
カッッッ!!!
ミリアの聖女の光とは比べ物にならない純白の、そして清潔感あふれる石鹸の香りのする光が広場全体を飲み込んだ。
耳をつんざくような咆哮とともに、地割れから這い出した「それ」は、広場の空を覆い尽くすほどの巨体を見せつけた。
全身がドロドロとした黒い汚泥で構成された、竜の形をした化け物。
鼻が曲がりそうな腐敗臭が周囲に立ち込める。
「ひっ、ひいぃっ! な、なにこれぇ!?」
ステージ上のミリアが尻餅をついて悲鳴を上げた。彼女が呼び出したのは、花畑どころか、この土地の地下水脈に溜まっていた穢れそのもの――『腐泥竜』だったのだ。
「き、汚らわしい! 近寄らないでよ!」
ミリアは半狂乱になりながら杖を振り回した。
「消えなさい! 【聖なる光矢】!」
シュババッ!
無数の光の矢が腐泥竜に突き刺さる。
だが、それは逆効果だった。
光魔法を受けた泥は、ジュウジュウと音を立てて沸騰し、さらに活性化したのだ。
「なっ……効かない!? 嘘でしょ!?」
腐泥竜はギョロリと濁った眼球をミリアに向け、巨大な腕を振り上げた。
「ミリア、逃げろ!」
アレクセイ様が叫ぶがミリアは腰が抜けて動けない。
泥の腕が彼女を押しつぶそうとした、その瞬間。
ドォォォンッ!!
青白い閃光が走り、泥の腕が中空で凍りつき粉砕された。
「……チッ、硬いな」
割って入ったのはクラウス様だった。
抜身の剣には冷気が纏わりつき、彼の足元からは氷柱が伸びている。彼はミリアを背後に庇いつつ、油断なく敵を見据えていた。
「ク、クラウス様ぁ! 助けてぇ!」
ミリアが縋り付こうとするがクラウス様は冷たく言い放った。
「黙って下がっていろ。……貴様が余計な魔力を注いだせいで、奴は無尽蔵に再生するぞ」
その言葉通り、粉砕されたはずの泥の腕は、すぐにズルズルと再生を始めていた。
クラウス様が剣を振るうたびに、氷の刃が泥を切り裂き、凍結させる。
しかし、相手は不定形の流体だ。凍らせても次から次へと新しい泥が湧き出してくるのだ。
「くっ……キリがない!」
さすがの「氷の騎士」も守るべき対象――逃げ遅れた市民や役立たずの聖女たちを背負いながらでは防戦一方だ。
このままでは、いずれ押し切られる。
屋台の影でその様子を見ていた私は、あることに気がついた。
(……あの泥、ただの泥じゃない)
風に乗って漂ってくる強烈な悪臭。
それは生ゴミと排水溝、それに長年放置された油汚れが混ざったような匂いだった。
(あれは魔物というより……『汚れの集合体』だわ)
ミリアの聖女の力が土地の自浄作用を狂わせ、地下に溜まっていた「生活排水や穢れ」を一気に具現化させてしまったのだ。
だから、普通の攻撃魔法や剣技では倒せない。切っても切っても汚れは広がるだけだ。
――なら、どうする?
汚れを落とすには?
剣? いいえ。攻撃魔法? 違う。
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手には武器の代わりに愛用の「巨大おたま」を握りしめて。
「エリーナ!? 馬鹿、出てくるな!!」
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でも、私の目には、あの恐ろしい竜がただの「頑固な換気扇の油汚れ」にしか見えていなかった。
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私は腐泥竜の鼻先まで駆け寄ると、大きく息を吸い込み、魔力を練り上げた。
かつて王城の厨房を一人でピカピカにし、廃墟同然の店舗を新築同様に蘇らせた、私の全魔力を込めて。
「『掃除』するんです!!」
私はおたまを高らかに掲げた。
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