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第18話 メッキが剥がれた偽聖女
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シュワワワワワワッ……!!
広場を包み込んだのは、炭酸が弾けるような爽快な音と鼻をくすぐるシトラスミントの香りだった。
私の放った【完全漂白】の光は、荒れ狂う腐泥竜を優しく、しかし徹底的に包み込んでいく。
普通なら魔法がぶつかれば爆発音や衝撃が走るはずだ。けれど、私の魔法は「お掃除」だ。
破壊はしない。ただ、あるべき姿に戻すだけ。
「ギ、ギギ……?」
腐泥竜が困惑したような声を漏らした。
そのドロドロとした漆黒の体表から、急速に黒色が抜けていく。
ヘドロの粘着きがサラサラの液体へと分解され、こびりついた怨念のような汚れが、真っ白な泡となって空へと昇華していく。
(頑固な汚れには、浸け置き洗いならぬ、魔力漬けが一番ね!)
私はおたまを指揮棒のように振り、さらに魔力を注ぎ込んだ。
「仕上げよ! 【超・殺菌消臭】! そして【撥水コーティング】!」
パァァァァンッ!
最後に大きなシャボン玉が弾けるような音がして光が収束した。目を開けた人々は、信じられない光景に息を呑んだ。
「……な、なんだこれは」
そこにあったのは化け物ではない。
チリ一つない、鏡のように磨き上げられた広場の石畳だった。
腐泥竜だったものは、キラキラと輝くただの真水となり、排水溝へとサラサラ流れていく。
あれほどの悪臭は完全に消え失せ、今は高原の朝のような清々しい空気が満ちていた。
それだけではない。
逃げ遅れて泥を被っていた人々や煤けていた周囲の建物までもが、まるで新築のようにピカピカに輝いているのだ。
「す、すげぇ……! 俺の服、シミひとつないぞ!?」
「あんなに臭かったのに、いい匂いがする!」
「私の肌、ツルツルになってるわ!」
静まり返っていた広場がどっと沸いた。
恐怖の悲鳴ではない。驚きと歓喜の声だ。
「ふぅ……。なんとかなったわね」
私はおたまを下ろし、額の汗を拭った。
さすがに広場全体の「大掃除」は骨が折れたけれど、この爽快感があるからやめられない。
「……エリーナ」
呆然としていたクラウス様が、剣を収めて歩み寄ってきた。
彼もまた、私の魔法の余波で、銀髪がいつも以上にサラサラと輝き、漆黒の騎士服は新品のように艶めいている。発光していると言ってもいいくらいの美丈夫ぶりだ。
「お前は……本当に、規格外だな」
「えへへ。まあ、汚れ仕事は専門ですから」
彼が愛おしそうに私の頭を撫でようとした、その時。
ステージの上から金切り声が響いた。
「きゃああああああああっ!!」
全員が振り返ると、そこには顔を両手で覆い、うずくまるミリアの姿があった。
「な、なんだ!? 怪我でもしたのか、ミリア!」
アレクセイ様が慌てて駆け寄る。
しかし、顔を上げたミリアを見た瞬間、彼は「ひっ」と短い悲鳴を上げて後ずさった。
「だ、誰だ貴様!?」
「ひどいアレクセイ様ぁ! 私よぉ、ミリアよぉ!」
ミリアが涙目で訴えるが観衆もざわめき始めた。そこにいたのは、いつもの「儚げで愛らしい美少女」ではなかった。
肌はくすみ、目の下のクマは深く、頬にはそばかすが散っている。髪もパサパサで、どこにでもいそうな、いや、どちらかと言えば地味で疲れ切った形相の女だったのだ。
(……あ)
私は察した。
私の【完全漂白】は、汚れや不純物を落とす魔法だ。それが強力すぎて、ミリアが厚塗りしていた「魔法の化粧」や肌をごまかすための「粉飾魔術」まで、すべて「汚れ」として洗い流してしまったのだ。
「い、嫌ぁぁ! 見ないでぇ! 私の『すっぴん』を見ないでぇぇ!」
ミリアは半狂乱で叫んだ。
彼女の愛らしさは、過剰な魔法による演出だったのだ。
そのメッキが剥がれた今、彼女に向けられるのは憧れの眼差しではない。
「おい……あいつが呼んだ化け物を、あの屋台の姉ちゃんが消したんだよな?」
「じゃあ、本物の聖女って、あっちじゃないのか?」
「つーか、偽物の聖女の顔、詐欺じゃね?」
民衆のヒソヒソ話は残酷なまでに正直だった。
アレクセイ様もまた、変わり果てたミリアと、何も変わらない私とクラウス様を見比べ、顔面蒼白になっている。
勝負あった。
誰の目にも、勝者がどちらかは明らかだった。
広場を包み込んだのは、炭酸が弾けるような爽快な音と鼻をくすぐるシトラスミントの香りだった。
私の放った【完全漂白】の光は、荒れ狂う腐泥竜を優しく、しかし徹底的に包み込んでいく。
普通なら魔法がぶつかれば爆発音や衝撃が走るはずだ。けれど、私の魔法は「お掃除」だ。
破壊はしない。ただ、あるべき姿に戻すだけ。
「ギ、ギギ……?」
腐泥竜が困惑したような声を漏らした。
そのドロドロとした漆黒の体表から、急速に黒色が抜けていく。
ヘドロの粘着きがサラサラの液体へと分解され、こびりついた怨念のような汚れが、真っ白な泡となって空へと昇華していく。
(頑固な汚れには、浸け置き洗いならぬ、魔力漬けが一番ね!)
私はおたまを指揮棒のように振り、さらに魔力を注ぎ込んだ。
「仕上げよ! 【超・殺菌消臭】! そして【撥水コーティング】!」
パァァァァンッ!
最後に大きなシャボン玉が弾けるような音がして光が収束した。目を開けた人々は、信じられない光景に息を呑んだ。
「……な、なんだこれは」
そこにあったのは化け物ではない。
チリ一つない、鏡のように磨き上げられた広場の石畳だった。
腐泥竜だったものは、キラキラと輝くただの真水となり、排水溝へとサラサラ流れていく。
あれほどの悪臭は完全に消え失せ、今は高原の朝のような清々しい空気が満ちていた。
それだけではない。
逃げ遅れて泥を被っていた人々や煤けていた周囲の建物までもが、まるで新築のようにピカピカに輝いているのだ。
「す、すげぇ……! 俺の服、シミひとつないぞ!?」
「あんなに臭かったのに、いい匂いがする!」
「私の肌、ツルツルになってるわ!」
静まり返っていた広場がどっと沸いた。
恐怖の悲鳴ではない。驚きと歓喜の声だ。
「ふぅ……。なんとかなったわね」
私はおたまを下ろし、額の汗を拭った。
さすがに広場全体の「大掃除」は骨が折れたけれど、この爽快感があるからやめられない。
「……エリーナ」
呆然としていたクラウス様が、剣を収めて歩み寄ってきた。
彼もまた、私の魔法の余波で、銀髪がいつも以上にサラサラと輝き、漆黒の騎士服は新品のように艶めいている。発光していると言ってもいいくらいの美丈夫ぶりだ。
「お前は……本当に、規格外だな」
「えへへ。まあ、汚れ仕事は専門ですから」
彼が愛おしそうに私の頭を撫でようとした、その時。
ステージの上から金切り声が響いた。
「きゃああああああああっ!!」
全員が振り返ると、そこには顔を両手で覆い、うずくまるミリアの姿があった。
「な、なんだ!? 怪我でもしたのか、ミリア!」
アレクセイ様が慌てて駆け寄る。
しかし、顔を上げたミリアを見た瞬間、彼は「ひっ」と短い悲鳴を上げて後ずさった。
「だ、誰だ貴様!?」
「ひどいアレクセイ様ぁ! 私よぉ、ミリアよぉ!」
ミリアが涙目で訴えるが観衆もざわめき始めた。そこにいたのは、いつもの「儚げで愛らしい美少女」ではなかった。
肌はくすみ、目の下のクマは深く、頬にはそばかすが散っている。髪もパサパサで、どこにでもいそうな、いや、どちらかと言えば地味で疲れ切った形相の女だったのだ。
(……あ)
私は察した。
私の【完全漂白】は、汚れや不純物を落とす魔法だ。それが強力すぎて、ミリアが厚塗りしていた「魔法の化粧」や肌をごまかすための「粉飾魔術」まで、すべて「汚れ」として洗い流してしまったのだ。
「い、嫌ぁぁ! 見ないでぇ! 私の『すっぴん』を見ないでぇぇ!」
ミリアは半狂乱で叫んだ。
彼女の愛らしさは、過剰な魔法による演出だったのだ。
そのメッキが剥がれた今、彼女に向けられるのは憧れの眼差しではない。
「おい……あいつが呼んだ化け物を、あの屋台の姉ちゃんが消したんだよな?」
「じゃあ、本物の聖女って、あっちじゃないのか?」
「つーか、偽物の聖女の顔、詐欺じゃね?」
民衆のヒソヒソ話は残酷なまでに正直だった。
アレクセイ様もまた、変わり果てたミリアと、何も変わらない私とクラウス様を見比べ、顔面蒼白になっている。
勝負あった。
誰の目にも、勝者がどちらかは明らかだった。
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