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第19話 今さら戻れと言われても、もう遅い
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「お、おい……ミリア。なんだその顔は」
アレクセイ様が、化けの皮が剥がれたミリアを見て後ずさる。その視線は、あまりにも冷酷で即物的なものだった。
「ま、待ってアレクセイ様ぁ! これは違うの! あの女の魔法がおかしいのよぉ!」
ミリアが縋り付こうとするがアレクセイ様はその手をバシッと乱暴に振り払った。
「触るな! 薄汚い!」
「えっ……」
「『真の聖女』だの『美の化身』だのと自称しておきながら、その実態はただの厚化粧の詐欺師だったとはな。幻滅だ!」
アレクセイ様はミリアをゴミのように見捨てると、今度はクルリと踵を返し、私の方へと歩み寄ってきた。
そして、信じられないことに満面の笑みを浮かべたのだ。
「おお、エリーナ! 無事だったか!」
「……は?」
私は思わず素っ頓狂な声が出た。
彼は両手を広げ、まるで感動の再会を演じるように語りかけてくる。
「見直したぞ! まさかお前の【生活魔法】に、これほどの力があったとはな。あの汚らわしい泥の化け物を一瞬で浄化するとは……いやはや、素晴らしい!」
彼は私の手を取ろうと手を伸ばしてきた。
私は反射的に半歩下がって避ける。
「……何がおっしゃりたいのですか、殿下」
「決まっているだろう! お前を『聖女』として再び認め、王城へ戻ることを許可してやる!」
広場がシンと静まり返った。
誰もが自分の耳を疑ったからだ。
「あのミリアは偽物だった。だが、お前は本物だ。私の婚約者に戻る権利を与えよう。さあ、喜びなさい。この辺境の貧乏くさい暮らしともおさらばだぞ?」
彼はそれが「最高の褒美」であると信じて疑っていないようだった。
かつて私を「役立たず」と罵り、国から追い出したことなど綺麗さっぱり忘れているらしい。
(……ああ、そうか)
私は冷めた目で彼を見つめた。
怒りすら湧いてこない。ただただ、呆れるだけだ。この人は、自分が世界の中心で他人は自分の都合の良い道具としか思っていないのだ。
「お断りします」
私はきっぱりと告げた。
「え?」
「私は今の生活に満足しています。それに、私を認めてくれているのは王城の皆様ではなく、この街の人たちですから」
「な、何を言っている! 王太子の命令だぞ!?」
「命令? 貴方は私を追放したはずです。今の私はただの一般市民。貴方の命令に従う義務はありません」
「き、貴様……ッ!」
アレクセイ様の顔が怒りで赤黒く染まる。
彼は逆上し、私を無理やり掴もうと踏み込んできた。
「調子に乗るなよ! 生意気な口を聞くなら、力ずくで連れ帰って――」
ガシィッ!!
伸びてきたアレクセイ様の腕が空中で鋼鉄のような握力によって止められた。
「いッ、ぐあああ!?」
アレクセイ様の悲鳴が上がる。
その腕を掴んでいたのは、もちろん私の隣に立つ「最強の騎士」だ。
「……私の目の前で、私の料理人に触れようとは。いい度胸だ」
クラウス様の瞳は、氷点下どころか絶対零度の冷たさだった。彼はアレクセイ様の手首を万力のように締め上げながら静かに、しかしドスの効いた声で告げた。
「彼女は戻らない。王都にも、あんたの元にもな」
「は、離せ! これは王家の問題だ! 辺境伯風情が口を出すな!」
「いいや、出す。……なぜなら」
クラウス様は私の方をちらりと見ると、少しだけ照れくさそうに、けれど力強く断言した。
「彼女は、俺が見つけた『宝』だ。誰にも渡さん」
ズキューン。
私の胸の奥で何かが撃ち抜かれる音がした。
宝。私が宝物?
周囲の騎士たちや女性客からも「きゃあああ!」と黄色い悲鳴が上がる。
クラウス様はアレクセイ様の手をゴミのように振り払うと、控えていたガイル副団長たちに顎で合図をした。
「ガイル。この二人を拘束しろ」
「はっ! 喜んで!」
「な、何をする! 私は王太子だぞ!」
「ええ、そうですね。ですが殿下は、禁止されていた古代の封印を解き、街に甚大な被害を与えようとしました。これは『テロ行為』に該当します」
クラウス様は冷徹な事務口調で言い放った。
「王都の陛下には、事の顛末と証拠を添えて報告書を送ります。……お迎えが来るまで、頭を冷やしておいていただきましょう。我が騎士団の、とびきり寒い地下牢でな」
「そ、そんなぁぁぁーっ!!」
アレクセイ様と放心状態のミリアは、屈強な騎士たちに両脇を抱えられ、ズルズルと連行されていった。その無様な背中に、民衆からは割れんばかりの拍手と喝采が浴びせられた。
こうして元婚約者による復縁騒動は、これ以上ないほどの完全敗北で幕を閉じたのだった。
アレクセイ様が、化けの皮が剥がれたミリアを見て後ずさる。その視線は、あまりにも冷酷で即物的なものだった。
「ま、待ってアレクセイ様ぁ! これは違うの! あの女の魔法がおかしいのよぉ!」
ミリアが縋り付こうとするがアレクセイ様はその手をバシッと乱暴に振り払った。
「触るな! 薄汚い!」
「えっ……」
「『真の聖女』だの『美の化身』だのと自称しておきながら、その実態はただの厚化粧の詐欺師だったとはな。幻滅だ!」
アレクセイ様はミリアをゴミのように見捨てると、今度はクルリと踵を返し、私の方へと歩み寄ってきた。
そして、信じられないことに満面の笑みを浮かべたのだ。
「おお、エリーナ! 無事だったか!」
「……は?」
私は思わず素っ頓狂な声が出た。
彼は両手を広げ、まるで感動の再会を演じるように語りかけてくる。
「見直したぞ! まさかお前の【生活魔法】に、これほどの力があったとはな。あの汚らわしい泥の化け物を一瞬で浄化するとは……いやはや、素晴らしい!」
彼は私の手を取ろうと手を伸ばしてきた。
私は反射的に半歩下がって避ける。
「……何がおっしゃりたいのですか、殿下」
「決まっているだろう! お前を『聖女』として再び認め、王城へ戻ることを許可してやる!」
広場がシンと静まり返った。
誰もが自分の耳を疑ったからだ。
「あのミリアは偽物だった。だが、お前は本物だ。私の婚約者に戻る権利を与えよう。さあ、喜びなさい。この辺境の貧乏くさい暮らしともおさらばだぞ?」
彼はそれが「最高の褒美」であると信じて疑っていないようだった。
かつて私を「役立たず」と罵り、国から追い出したことなど綺麗さっぱり忘れているらしい。
(……ああ、そうか)
私は冷めた目で彼を見つめた。
怒りすら湧いてこない。ただただ、呆れるだけだ。この人は、自分が世界の中心で他人は自分の都合の良い道具としか思っていないのだ。
「お断りします」
私はきっぱりと告げた。
「え?」
「私は今の生活に満足しています。それに、私を認めてくれているのは王城の皆様ではなく、この街の人たちですから」
「な、何を言っている! 王太子の命令だぞ!?」
「命令? 貴方は私を追放したはずです。今の私はただの一般市民。貴方の命令に従う義務はありません」
「き、貴様……ッ!」
アレクセイ様の顔が怒りで赤黒く染まる。
彼は逆上し、私を無理やり掴もうと踏み込んできた。
「調子に乗るなよ! 生意気な口を聞くなら、力ずくで連れ帰って――」
ガシィッ!!
伸びてきたアレクセイ様の腕が空中で鋼鉄のような握力によって止められた。
「いッ、ぐあああ!?」
アレクセイ様の悲鳴が上がる。
その腕を掴んでいたのは、もちろん私の隣に立つ「最強の騎士」だ。
「……私の目の前で、私の料理人に触れようとは。いい度胸だ」
クラウス様の瞳は、氷点下どころか絶対零度の冷たさだった。彼はアレクセイ様の手首を万力のように締め上げながら静かに、しかしドスの効いた声で告げた。
「彼女は戻らない。王都にも、あんたの元にもな」
「は、離せ! これは王家の問題だ! 辺境伯風情が口を出すな!」
「いいや、出す。……なぜなら」
クラウス様は私の方をちらりと見ると、少しだけ照れくさそうに、けれど力強く断言した。
「彼女は、俺が見つけた『宝』だ。誰にも渡さん」
ズキューン。
私の胸の奥で何かが撃ち抜かれる音がした。
宝。私が宝物?
周囲の騎士たちや女性客からも「きゃあああ!」と黄色い悲鳴が上がる。
クラウス様はアレクセイ様の手をゴミのように振り払うと、控えていたガイル副団長たちに顎で合図をした。
「ガイル。この二人を拘束しろ」
「はっ! 喜んで!」
「な、何をする! 私は王太子だぞ!」
「ええ、そうですね。ですが殿下は、禁止されていた古代の封印を解き、街に甚大な被害を与えようとしました。これは『テロ行為』に該当します」
クラウス様は冷徹な事務口調で言い放った。
「王都の陛下には、事の顛末と証拠を添えて報告書を送ります。……お迎えが来るまで、頭を冷やしておいていただきましょう。我が騎士団の、とびきり寒い地下牢でな」
「そ、そんなぁぁぁーっ!!」
アレクセイ様と放心状態のミリアは、屈強な騎士たちに両脇を抱えられ、ズルズルと連行されていった。その無様な背中に、民衆からは割れんばかりの拍手と喝采が浴びせられた。
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