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第38話 北の国のイチゴタルト
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北からの返書は王都の社交界に衝撃を与えた。
「……ふ、ふざけている!」
宰相が震える手で握りしめているのは、クラウスからの回答書だ。
そこには、例の『ヴィンターヴァルト印・高級缶詰』の卸値が法外な金額で提示されていた。
「北の蛮族どもが……我らをコケにする気か!」
だが、宰相は知らない。
彼らが兵糧攻めをしている間に、北は南の大陸という巨大なマーケットを手に入れ、その缶詰はすでに「金貨100枚でも買いたい」という貴族が続出する、超高級ブランド品と化していたのだ。
王都の貴族たちは、当初は「北の食材」と聞いて嘲笑していた。
しかし南の大陸から回ってきたわずかな缶詰を口にしたが最後、その価値観は粉々に打ち砕かれた。
「……う、美味い。なんだこの肉は。口の中でとろける……」
「この『イカのアヒージョ』、これ一つでワインが一樽空になるわ!」
一度知ってしまった「本物の味」。
王都の貴族たちは飢え始めた。「美食」に。
しかも、北が海路を抑えた影響で南から入ってくる香辛料や高級酒まで品薄になり、物価が高騰し始めたのだ。
「宰相閣下! 北の缶詰はまだか!」
「わたくしの晩餐会に、『あれ』が出せないなど恥でしかありませんわ!」
王宮には連日、貴族たちからの突き上げが殺到していた。兵糧攻めは、皮肉にも王都自身の首を絞める結果となっていた。
一方、その頃。
極寒の地、ノースガルドの『食堂 陽だまり亭』では――。
「んん~~っ!!」
私の目の前で、クラウス様がうっとりと目を閉じ、至福の表情でスプーンを握りしめていた。
彼が食べているのは、魔法農園の温室で採れたばかりの完熟イチゴをふんだんに使った『特製イチゴタルト』だ。
「……信じられない。この北の地で雪を見ながらイチゴが食べられる日が来るとは」
「ふふ、魔法農園は冬でも春ですから。お味はいかがですか?」
「……エリーナ。結婚しよう」
彼はタルトの最後の一口を名残惜しそうに食べ終えると、私に向き直った。
「王都の連中がどう動くか知らんが、俺はもう、お前とこの豊かな北の国があれば何もいらん。 俺の妃になってくれ」
「もう、クラウス様ったら……」
私たちが甘い空気を漂わせていると、店のドアが開いた。
「……あ、あの。ここは……『北の食材』が食べられる店か?」
そこに立っていたのは、極寒の北には似つかわしくない、華美なドレスを着た貴族の令嬢と、その父親らしき太った男だった。
彼らは店内に充満する甘い香りと、幸せそうにしている私たちとイカを頬張る海賊たちを見て呆然と立ち尽くしていた。
「……本当に、冬なのにイチゴの香りがする……」
彼らは、王都から「北の食材」を求めて、王家に隠れてこっそりとやってきた「最初のお客さま」だった。
「……ふ、ふざけている!」
宰相が震える手で握りしめているのは、クラウスからの回答書だ。
そこには、例の『ヴィンターヴァルト印・高級缶詰』の卸値が法外な金額で提示されていた。
「北の蛮族どもが……我らをコケにする気か!」
だが、宰相は知らない。
彼らが兵糧攻めをしている間に、北は南の大陸という巨大なマーケットを手に入れ、その缶詰はすでに「金貨100枚でも買いたい」という貴族が続出する、超高級ブランド品と化していたのだ。
王都の貴族たちは、当初は「北の食材」と聞いて嘲笑していた。
しかし南の大陸から回ってきたわずかな缶詰を口にしたが最後、その価値観は粉々に打ち砕かれた。
「……う、美味い。なんだこの肉は。口の中でとろける……」
「この『イカのアヒージョ』、これ一つでワインが一樽空になるわ!」
一度知ってしまった「本物の味」。
王都の貴族たちは飢え始めた。「美食」に。
しかも、北が海路を抑えた影響で南から入ってくる香辛料や高級酒まで品薄になり、物価が高騰し始めたのだ。
「宰相閣下! 北の缶詰はまだか!」
「わたくしの晩餐会に、『あれ』が出せないなど恥でしかありませんわ!」
王宮には連日、貴族たちからの突き上げが殺到していた。兵糧攻めは、皮肉にも王都自身の首を絞める結果となっていた。
一方、その頃。
極寒の地、ノースガルドの『食堂 陽だまり亭』では――。
「んん~~っ!!」
私の目の前で、クラウス様がうっとりと目を閉じ、至福の表情でスプーンを握りしめていた。
彼が食べているのは、魔法農園の温室で採れたばかりの完熟イチゴをふんだんに使った『特製イチゴタルト』だ。
「……信じられない。この北の地で雪を見ながらイチゴが食べられる日が来るとは」
「ふふ、魔法農園は冬でも春ですから。お味はいかがですか?」
「……エリーナ。結婚しよう」
彼はタルトの最後の一口を名残惜しそうに食べ終えると、私に向き直った。
「王都の連中がどう動くか知らんが、俺はもう、お前とこの豊かな北の国があれば何もいらん。 俺の妃になってくれ」
「もう、クラウス様ったら……」
私たちが甘い空気を漂わせていると、店のドアが開いた。
「……あ、あの。ここは……『北の食材』が食べられる店か?」
そこに立っていたのは、極寒の北には似つかわしくない、華美なドレスを着た貴族の令嬢と、その父親らしき太った男だった。
彼らは店内に充満する甘い香りと、幸せそうにしている私たちとイカを頬張る海賊たちを見て呆然と立ち尽くしていた。
「……本当に、冬なのにイチゴの香りがする……」
彼らは、王都から「北の食材」を求めて、王家に隠れてこっそりとやってきた「最初のお客さま」だった。
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