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第39話 イチゴタルトの値段
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「……あ、あの……本当に、ここで食事ができるのかね?」
店に入ってきた太った貴族――デニング伯爵は、恐る恐る私に尋ねた。彼の背後にいる令嬢も高価そうな毛皮のコートを握りしめ、不安げに店内を見回している。
無理もない。
彼らの視線の先には、北の最強権力者であるクラウス様が平然とカウンターでタルトを頬張り、その隣では隻眼の海賊王がイカゲソを豪快に齧っているのだから。
王都の常識ではありえない光景だ。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お席へ」
私は動じず、店主として完璧な笑顔で二人を空いているテーブル席へ案内した。
彼らが王家を裏切ってまでここへ来た「最初のお客さん」だ。丁重にもてなす必要がある。
「……信じられん。我らは北が飢えていると聞いていたのに。この甘い香りは……まさか本当に果物か?」
伯爵が呟く。
私はお冷を出しながら、ニッコリと笑った。
「はい。ただいまの季節限定メニューは『魔法農園の完熟イチゴタルト』でございますが、いかがなさいますか?」
「た、頼む! それを二つ!」
伯爵が令嬢を制して叫んだ。
よほどこの香りに惹かれていたらしい。
「かしこまりました」
私は厨房に戻り、取っておいた最後の二切れを丁寧に皿に盛り付け、彼らの元へ運んだ。
カスタードクリームの上に宝石のように輝く真っ赤なイチゴ。
令嬢はゴクリと喉を鳴らし、震える手でフォークを握った。
サクッ。
タルト生地が軽快な音を立て、彼女は一切れを口に運んだ。
「…………っ!!」
次の瞬間、彼女の瞳が驚愕に見開かれた。
「お、美味しい……! なにこれ!? イチゴが甘酸っぱくて、クリームは濃厚なのにしつこくなくて……王都の宮殿で食べたどんな菓子より、美味しい……!」
父親のデニング伯爵も一口食べて言葉を失っていた。
彼は感動のあまり涙ぐみ、そして――。
ガタッ!
彼は椅子から転げ落ちるように床に膝をつき、クラウス様と私に向かって深々と頭を下げた。
「ヴィンターヴァルト辺境伯閣下! 並びに、そちらの聖女様!」
(聖女様!?)
「どうか! どうか、その『北の食材』を……このタルトを我々にもお分けください!」
「お父様!?」
「黙っていろ! わからんのか! この『食』こそが、これからの王都の権力図を塗り替えるのだ!」
伯爵は必死の形相で続けた。
「王都は今、南の大陸からの物資が滞り、貴族たちは『美食』に飢えております! このタルト、この缶詰を我がデニング家が独占して輸入する権利をいただけないでしょうか!」
王都貴族のプライドが「食欲」の前に完全に崩れ落ちた瞬間だった。
クラウス様は冷ややかに彼を見下ろしていたが、私に視線で「どうする?」と問いかけてきた。
私は店主として、にっこりと微笑み返した。
「デニング伯爵様。当店は『食堂』です。お食事は大歓迎ですが、『独占輸入権』は……少々、お話が違いますね。……ですが、伯爵様は王都からの『最初のお客様』です。特別に『優先的にお取引できる権利』を差し上げましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。ただし――」
私は伝票にサラサラとペンを走らせた。
「このイチゴタルト二切れと優先取引権の契約金で金貨五千枚、頂戴いたします」
「ご、ごせんまい!?」
それは小さな貴族の領地が買えるほどの金額。
伯爵は一瞬青ざめたが食べたタルトの味を思い出し、すぐに顔を引き締めた。
「……わかった。払いましょう! この『未来』への投資、喜んで!」
こうして王都の「兵糧攻め」は完全に破綻。
逆に北の「美食」が王都の貴族たちを経済的に支配し始めたのである。
店に入ってきた太った貴族――デニング伯爵は、恐る恐る私に尋ねた。彼の背後にいる令嬢も高価そうな毛皮のコートを握りしめ、不安げに店内を見回している。
無理もない。
彼らの視線の先には、北の最強権力者であるクラウス様が平然とカウンターでタルトを頬張り、その隣では隻眼の海賊王がイカゲソを豪快に齧っているのだから。
王都の常識ではありえない光景だ。
「いらっしゃいませ。どうぞ、お席へ」
私は動じず、店主として完璧な笑顔で二人を空いているテーブル席へ案内した。
彼らが王家を裏切ってまでここへ来た「最初のお客さん」だ。丁重にもてなす必要がある。
「……信じられん。我らは北が飢えていると聞いていたのに。この甘い香りは……まさか本当に果物か?」
伯爵が呟く。
私はお冷を出しながら、ニッコリと笑った。
「はい。ただいまの季節限定メニューは『魔法農園の完熟イチゴタルト』でございますが、いかがなさいますか?」
「た、頼む! それを二つ!」
伯爵が令嬢を制して叫んだ。
よほどこの香りに惹かれていたらしい。
「かしこまりました」
私は厨房に戻り、取っておいた最後の二切れを丁寧に皿に盛り付け、彼らの元へ運んだ。
カスタードクリームの上に宝石のように輝く真っ赤なイチゴ。
令嬢はゴクリと喉を鳴らし、震える手でフォークを握った。
サクッ。
タルト生地が軽快な音を立て、彼女は一切れを口に運んだ。
「…………っ!!」
次の瞬間、彼女の瞳が驚愕に見開かれた。
「お、美味しい……! なにこれ!? イチゴが甘酸っぱくて、クリームは濃厚なのにしつこくなくて……王都の宮殿で食べたどんな菓子より、美味しい……!」
父親のデニング伯爵も一口食べて言葉を失っていた。
彼は感動のあまり涙ぐみ、そして――。
ガタッ!
彼は椅子から転げ落ちるように床に膝をつき、クラウス様と私に向かって深々と頭を下げた。
「ヴィンターヴァルト辺境伯閣下! 並びに、そちらの聖女様!」
(聖女様!?)
「どうか! どうか、その『北の食材』を……このタルトを我々にもお分けください!」
「お父様!?」
「黙っていろ! わからんのか! この『食』こそが、これからの王都の権力図を塗り替えるのだ!」
伯爵は必死の形相で続けた。
「王都は今、南の大陸からの物資が滞り、貴族たちは『美食』に飢えております! このタルト、この缶詰を我がデニング家が独占して輸入する権利をいただけないでしょうか!」
王都貴族のプライドが「食欲」の前に完全に崩れ落ちた瞬間だった。
クラウス様は冷ややかに彼を見下ろしていたが、私に視線で「どうする?」と問いかけてきた。
私は店主として、にっこりと微笑み返した。
「デニング伯爵様。当店は『食堂』です。お食事は大歓迎ですが、『独占輸入権』は……少々、お話が違いますね。……ですが、伯爵様は王都からの『最初のお客様』です。特別に『優先的にお取引できる権利』を差し上げましょう」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ。ただし――」
私は伝票にサラサラとペンを走らせた。
「このイチゴタルト二切れと優先取引権の契約金で金貨五千枚、頂戴いたします」
「ご、ごせんまい!?」
それは小さな貴族の領地が買えるほどの金額。
伯爵は一瞬青ざめたが食べたタルトの味を思い出し、すぐに顔を引き締めた。
「……わかった。払いましょう! この『未来』への投資、喜んで!」
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