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第14話 濃厚カスタードプリン
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「お待たせしました! 約束の『とろける甘いもの』です!」
私は銀のトレイを掲げ、執務室に戻ってきた。
先ほど、私の逃走を見送ったジルベール様は、ソファに深く沈み込み、面白くなさそうに腕を組んでいた。
「……戻ってきたか。てっきり、また色気のない茶色の揚げ物でも作っているのかと思ったぞ」
「失礼な。今回は黄金色に輝く宝石ですよ」
私はテーブルの上に皿を置いた。
そこに乗っているのは、陶器のカップに入った冷たいお菓子。
氷室の魔道具を使って急速冷却させた、出来立ての『カスタードプリン』だ。
「……なんだ、これは。ただの黄色い塊ではないか」
「ふふ、見ていてくださいね」
ここからがショータイムだ。
私はカップの上に皿を被せ、えいっ!と天地をひっくり返した。
そして、そっとカップを持ち上げると――。
ぷるんっ。
愛らしい音と共に黄金色の山が現れた。
頭頂部には艶やかな焦げ茶色のカラメルソース。その重みで本体がフルフルと震えている。
「……震えているな」
「はい。生まれたての小鹿のような、この儚げな弾力こそが命なんです」
私はスプーンを差し出した。
公爵はまだ少し不満げだが甘い香りには抗えないようだ。
「……いただく」
彼がスプーンを入れる。
スッと吸い込まれるような感触。
柔らかすぎず、硬すぎない。絶妙な「固めプリン」の抵抗感だ。
角が立ったひとすくいを、彼は口へと運んだ。
パクッ。
「……ん」
公爵の眉が跳ね上がった。
舌の上に乗せた瞬間、体温でプリンが解けていく。卵黄と牛乳の濃厚なコク。
最高級バニラビーンズの芳醇な香り。
それらが口いっぱいに広がり、脳髄を直接甘やかす。そして、遅れてやってくるのが「カラメル」の仕事だ。
「……苦い? いや、甘いのか?」
砂糖を焦がしたギリギリのほろ苦さ。
それが濃厚なカスタードの甘さを引き締め、大人な余韻を残して消えていく。
「どうですか? 甘いだけじゃなくて、ちょっとビターなのが私の好みなんです」
「……あぁ。今の私の気分にぴったりの味だ」
公爵は皮肉っぽく笑ったがスプーンを動かす手は止まらない。
一口、また一口。
食べるたびに、その表情から険が取れていく。
「美味い。……悔しいが、美味い」
あっという間に完食。
皿に残ったカラメルソースすら名残惜しそうに見つめている。
「満足していただけましたか?」
私が笑顔で尋ねると、公爵はナプキンで口元を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
「味は、完璧だった。……だが」
彼は再び、私との距離を詰めてきた。
一歩、また一歩。
私はソファの背もたれに追い詰められる。
「レティシア。君は一つ勘違いをしている」
「か、勘違い?」
「私が欲しかった『甘いもの』は、これだけではないと言っているんだ」
ドンッ。
本日二度目の壁ドン(今回はソファドン)。
逃げ場はない。
公爵の顔が近づく。甘いプリンの香りがした。
「……砂糖は控えめだったな」
「は、はい。素材の味を活かして……」
「だが、君自身は甘すぎる」
「え?」
「男を部屋に二人きりにして、こんな無防備な顔を見せるとは……危機感がなさすぎるという意味だ」
公爵の指先が、私の唇をなぞった。
心臓が爆発しそうだ。
今度こそ、本当にキスされる――!?
私はギュッと目を瞑った。
けれど、落ちてきたのは唇ではなく、おでこへの柔らかい感触だった。
チュッ。
「……っ!?」
目を開けると公爵が悪戯っぽく笑っていた。
「今日はこれくらいにしておいてやる。……あまり急いて、君に逃げられては困るからな」
彼は私の耳元で「ごちそうさま」と囁くと、満足げに執務机へと戻っていった。残された私は、茹でダコのように真っ赤になってへたり込んだ。
「……ずるい。あんなの、反則です……」
心なしか、口の中に残ったプリンの味がさっきよりも甘く感じられた。
私の鉄壁だった「食い気」の防壁に少しだけヒビが入った瞬間だった。
私は銀のトレイを掲げ、執務室に戻ってきた。
先ほど、私の逃走を見送ったジルベール様は、ソファに深く沈み込み、面白くなさそうに腕を組んでいた。
「……戻ってきたか。てっきり、また色気のない茶色の揚げ物でも作っているのかと思ったぞ」
「失礼な。今回は黄金色に輝く宝石ですよ」
私はテーブルの上に皿を置いた。
そこに乗っているのは、陶器のカップに入った冷たいお菓子。
氷室の魔道具を使って急速冷却させた、出来立ての『カスタードプリン』だ。
「……なんだ、これは。ただの黄色い塊ではないか」
「ふふ、見ていてくださいね」
ここからがショータイムだ。
私はカップの上に皿を被せ、えいっ!と天地をひっくり返した。
そして、そっとカップを持ち上げると――。
ぷるんっ。
愛らしい音と共に黄金色の山が現れた。
頭頂部には艶やかな焦げ茶色のカラメルソース。その重みで本体がフルフルと震えている。
「……震えているな」
「はい。生まれたての小鹿のような、この儚げな弾力こそが命なんです」
私はスプーンを差し出した。
公爵はまだ少し不満げだが甘い香りには抗えないようだ。
「……いただく」
彼がスプーンを入れる。
スッと吸い込まれるような感触。
柔らかすぎず、硬すぎない。絶妙な「固めプリン」の抵抗感だ。
角が立ったひとすくいを、彼は口へと運んだ。
パクッ。
「……ん」
公爵の眉が跳ね上がった。
舌の上に乗せた瞬間、体温でプリンが解けていく。卵黄と牛乳の濃厚なコク。
最高級バニラビーンズの芳醇な香り。
それらが口いっぱいに広がり、脳髄を直接甘やかす。そして、遅れてやってくるのが「カラメル」の仕事だ。
「……苦い? いや、甘いのか?」
砂糖を焦がしたギリギリのほろ苦さ。
それが濃厚なカスタードの甘さを引き締め、大人な余韻を残して消えていく。
「どうですか? 甘いだけじゃなくて、ちょっとビターなのが私の好みなんです」
「……あぁ。今の私の気分にぴったりの味だ」
公爵は皮肉っぽく笑ったがスプーンを動かす手は止まらない。
一口、また一口。
食べるたびに、その表情から険が取れていく。
「美味い。……悔しいが、美味い」
あっという間に完食。
皿に残ったカラメルソースすら名残惜しそうに見つめている。
「満足していただけましたか?」
私が笑顔で尋ねると、公爵はナプキンで口元を拭い、ゆっくりと立ち上がった。
「味は、完璧だった。……だが」
彼は再び、私との距離を詰めてきた。
一歩、また一歩。
私はソファの背もたれに追い詰められる。
「レティシア。君は一つ勘違いをしている」
「か、勘違い?」
「私が欲しかった『甘いもの』は、これだけではないと言っているんだ」
ドンッ。
本日二度目の壁ドン(今回はソファドン)。
逃げ場はない。
公爵の顔が近づく。甘いプリンの香りがした。
「……砂糖は控えめだったな」
「は、はい。素材の味を活かして……」
「だが、君自身は甘すぎる」
「え?」
「男を部屋に二人きりにして、こんな無防備な顔を見せるとは……危機感がなさすぎるという意味だ」
公爵の指先が、私の唇をなぞった。
心臓が爆発しそうだ。
今度こそ、本当にキスされる――!?
私はギュッと目を瞑った。
けれど、落ちてきたのは唇ではなく、おでこへの柔らかい感触だった。
チュッ。
「……っ!?」
目を開けると公爵が悪戯っぽく笑っていた。
「今日はこれくらいにしておいてやる。……あまり急いて、君に逃げられては困るからな」
彼は私の耳元で「ごちそうさま」と囁くと、満足げに執務机へと戻っていった。残された私は、茹でダコのように真っ赤になってへたり込んだ。
「……ずるい。あんなの、反則です……」
心なしか、口の中に残ったプリンの味がさっきよりも甘く感じられた。
私の鉄壁だった「食い気」の防壁に少しだけヒビが入った瞬間だった。
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