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第32話 夫婦の晩酌、熱々アヒージョと冷えたエール
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「……疲れた」
深夜の執務室。
山積みの書類を片付けたジルベール様が重い足取りで戻ってきた。
お茶会デビュー以降、私の社交スケジュール調整に加え、領地の発展に伴う激務で、彼は文字通り目が回る忙しさだった。
「お疲れ様です、あなた。……今日はもう、難しい顔はやめましょう」
私は彼の手を取り、バルコニーへと連れ出した。そこには夜風に揺れるランタンの灯りと、小さなテーブルセットが用意されている。
「これは……?」
「『夫婦の晩酌』の準備です。今夜は無礼講で飲み明かしましょう!」
テーブルの中央には、小さな陶器の鍋が置かれ、その下でロウソクの火が揺らめいている。
そして、その横には氷魔法でキンキンに冷やされた『エール』のジョッキ。
「鍋? 夜中に煮込み料理か?」
「ふふ、見ていてください」
私は小鍋の蓋を取った。
――グツグツ、グツグツ……。
静かな夜に食欲をそそる音が響いた。
鍋の中で煮えたぎっているのは、たっぷりのオリーブオイル。その中で刻んだニンニクと鷹の爪、そして具材たちが踊っている。
プリプリの『川エビ』。
肉厚な『森のキノコ』。
そして塩気の効いた『ブロックベーコン』。
「『アヒージョ』です。ニンニクオイル煮込みですね」
「オイルを飲むのか? 胸焼けしそうだが……」
「いえいえ、主役はこちらです」
私は薄く切った『バゲット』をグツグツ煮えるオイルに浸した。
パンがオイルを吸い込み、黄金色に染まる。
具材の旨味が溶け出した、悪魔のソースだ。
「はい、あーん」
ジルベール様は恐る恐る、熱々のバゲットを口にした。
ハフッ……。
「……ッ!」
熱い。けれど、その熱さが美味い。
ニンニクのパンチと唐辛子のピリッとした刺激。噛めばパンからジュワリと溢れ出す、エビとベーコンの濃厚なエキス。
「濃い……! ガツンと来る味だ……!」
「そこに、この冷えたエールを流し込むんです!」
「……ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァッ!」
ジルベール様が豪快にジョッキを置いた。
喉仏が上下し、乾いた体に黄金の液体が染み渡っていく。
「最高だ……。熱いオイルで痺れた口を冷たい炭酸が洗い流していく……。これは止まらなくなるやつだ」
「でしょう? キノコも美味しいですよ」
「ああ、このエビも……プリプリだ」
私たちは夜風に当たりながら、次々と具材をオイルに沈め、そして酒を煽った。
昼間の貴族的な社交とは真逆の下世話で、だからこそ最高に贅沢な時間。
「……レティシア」
程よく酔いが回ったのか、ジルベール様の目がトロンとしている。頬がほんのりと朱に染まり、いつもの冷徹さはどこへやら。
色気がダダ漏れだ。
「ん? なんですか?」
「君と結婚してよかった」
唐突なデレに私が持っていたバゲットがオイルの中にポチャンと落ちた。
「毎日美味い飯が食えるから……だけじゃないぞ」
彼はテーブル越しに身を乗り出し、私の頬に手を添えた。
「こうして、肩の力を抜いて笑い合える時間が……私には何よりも『ご馳走』なんだ」
「……もう、酔っ払いですね」
「ああ、酔っている。……エールのせいか、それとも君のせいか」
彼は私の唇に残ったオイルを親指で拭い、それを自分の舌で舐めた。
「……ニンニクの味がするな」
「当たり前です。臭いますよ?」
「構わん。二人で臭えば怖くない」
ジルベール様はニヤリと笑うと、私の椅子を引き寄せ、深い口づけを落とした。ニンニクとホップの苦味、そして彼の熱い体温。
頭がクラクラするような大人の味がした。
「……さて。腹は満たされたが」
唇を離した彼は妖しく目を細めた。
「次は、別の酔いが欲しくなってきたな」
「えっ、まだ飲むんですか?」
「いいや。……ベッドへ行こう、レティシア。夜食のカロリーは運動して消費しないとな?」
「きゃっ!?」
お姫様抱っこで連行される私。
どうやら今夜の「晩酌」のデザートは、私自身になるようだ。アヒージョの油よりも熱い夜は、まだまだ終わらない。
深夜の執務室。
山積みの書類を片付けたジルベール様が重い足取りで戻ってきた。
お茶会デビュー以降、私の社交スケジュール調整に加え、領地の発展に伴う激務で、彼は文字通り目が回る忙しさだった。
「お疲れ様です、あなた。……今日はもう、難しい顔はやめましょう」
私は彼の手を取り、バルコニーへと連れ出した。そこには夜風に揺れるランタンの灯りと、小さなテーブルセットが用意されている。
「これは……?」
「『夫婦の晩酌』の準備です。今夜は無礼講で飲み明かしましょう!」
テーブルの中央には、小さな陶器の鍋が置かれ、その下でロウソクの火が揺らめいている。
そして、その横には氷魔法でキンキンに冷やされた『エール』のジョッキ。
「鍋? 夜中に煮込み料理か?」
「ふふ、見ていてください」
私は小鍋の蓋を取った。
――グツグツ、グツグツ……。
静かな夜に食欲をそそる音が響いた。
鍋の中で煮えたぎっているのは、たっぷりのオリーブオイル。その中で刻んだニンニクと鷹の爪、そして具材たちが踊っている。
プリプリの『川エビ』。
肉厚な『森のキノコ』。
そして塩気の効いた『ブロックベーコン』。
「『アヒージョ』です。ニンニクオイル煮込みですね」
「オイルを飲むのか? 胸焼けしそうだが……」
「いえいえ、主役はこちらです」
私は薄く切った『バゲット』をグツグツ煮えるオイルに浸した。
パンがオイルを吸い込み、黄金色に染まる。
具材の旨味が溶け出した、悪魔のソースだ。
「はい、あーん」
ジルベール様は恐る恐る、熱々のバゲットを口にした。
ハフッ……。
「……ッ!」
熱い。けれど、その熱さが美味い。
ニンニクのパンチと唐辛子のピリッとした刺激。噛めばパンからジュワリと溢れ出す、エビとベーコンの濃厚なエキス。
「濃い……! ガツンと来る味だ……!」
「そこに、この冷えたエールを流し込むんです!」
「……ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァッ!」
ジルベール様が豪快にジョッキを置いた。
喉仏が上下し、乾いた体に黄金の液体が染み渡っていく。
「最高だ……。熱いオイルで痺れた口を冷たい炭酸が洗い流していく……。これは止まらなくなるやつだ」
「でしょう? キノコも美味しいですよ」
「ああ、このエビも……プリプリだ」
私たちは夜風に当たりながら、次々と具材をオイルに沈め、そして酒を煽った。
昼間の貴族的な社交とは真逆の下世話で、だからこそ最高に贅沢な時間。
「……レティシア」
程よく酔いが回ったのか、ジルベール様の目がトロンとしている。頬がほんのりと朱に染まり、いつもの冷徹さはどこへやら。
色気がダダ漏れだ。
「ん? なんですか?」
「君と結婚してよかった」
唐突なデレに私が持っていたバゲットがオイルの中にポチャンと落ちた。
「毎日美味い飯が食えるから……だけじゃないぞ」
彼はテーブル越しに身を乗り出し、私の頬に手を添えた。
「こうして、肩の力を抜いて笑い合える時間が……私には何よりも『ご馳走』なんだ」
「……もう、酔っ払いですね」
「ああ、酔っている。……エールのせいか、それとも君のせいか」
彼は私の唇に残ったオイルを親指で拭い、それを自分の舌で舐めた。
「……ニンニクの味がするな」
「当たり前です。臭いますよ?」
「構わん。二人で臭えば怖くない」
ジルベール様はニヤリと笑うと、私の椅子を引き寄せ、深い口づけを落とした。ニンニクとホップの苦味、そして彼の熱い体温。
頭がクラクラするような大人の味がした。
「……さて。腹は満たされたが」
唇を離した彼は妖しく目を細めた。
「次は、別の酔いが欲しくなってきたな」
「えっ、まだ飲むんですか?」
「いいや。……ベッドへ行こう、レティシア。夜食のカロリーは運動して消費しないとな?」
「きゃっ!?」
お姫様抱っこで連行される私。
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