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第2話 さらば王都、こんにちは辺境ライフ
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王都を出発して馬車に揺られること一週間。
車窓からの景色は、綺麗に舗装された石畳から鬱蒼とした森、そして険しい山道へと変わっていった。
公爵家からの手切れ金と、私がこっそり貯めていたお小遣い、そして最低限の荷物。
持参したものは少ないけれど、私の心は羽根が生えたように軽かった。
「やっと……やっと着いたわ!」
馬車が止まり、私は勢いよく扉を開けた。
ひんやりとした澄んだ空気が肺を満たす。王都の排気ガス混じりの空気とは大違いだ。
目の前に建っていたのは、築数十年は経っていそうな古びた洋館だった。
壁には蔦が這い、庭は雑草が伸び放題。屋根の一部は少し傾いているかもしれない。王族の別荘というよりは、お化け屋敷に近い佇まいだ。
「お待ちしておりました、レティシア様」
屋敷の前で頭を下げたのは、この別荘の管理を任されている老夫婦だった。ふっくらとした体型の優しそうな女性がマーサ、背中が丸まった無口そうな男性がハンスだという。
「遠いところ、よくお越しくださいました。……お辛かったでしょうに」
マーサが涙ぐみながら私を見る。
どうやら「婚約破棄されて傷心の令嬢が都落ちして隠遁生活を送りに来た」というストーリーが伝わっているらしい。
確かに半分は合っているけれど、私の感情は真逆だ。
「いいえ、マーサ。私はこの場所をとっても楽しみにしていたのよ」
「えっ? こ、こんな何もない田舎をですか?」
「『何もない』のが最高なの! ところでマーサ、一番重要なことを聞きたいのだけれど」
私は食い気味に尋ねた。
「このお屋敷のキッチンはどこかしら? あと、食材庫の在庫状況は?」
「は、はい? キッチン……ですか?」
目を丸くするマーサの手を取り、私は屋敷の中へと足を踏み入れた。
廊下には埃が積もり、蜘蛛の巣が張っている場所もある。けれど柱や床板はしっかりしていて磨けば光るポテンシャルを感じさせた。
そして案内された厨房。
そこは、私の予想を遥かに超える素晴らしい場所だった。広々とした調理台、旧式だが火力の強そうな魔導コンロ、奥には巨大な石窯まである。
かつて美食家だった先代の王族が作らせたという噂は本当だったようだ。
長年使われていなかったせいで埃まみれだが、私にはここが宝石箱のように見えた。
「素晴らしいわ……! ここなら何でも作れる!」
「あの、レティシア様? お食事なら私がご用意しますが……」
「いいえ、マーサ。今日からここの料理長は私よ。貴女には助手を頼むわね」
「りょ、料理長!? 公爵令嬢様がですか!?」
腰を抜かしそうなマーサに、私はニカッと笑いかけた。
「元・公爵令嬢、よ。さあ、まずは大掃除から始めましょう! 美味しいご飯を食べるためには、綺麗な場所が必要だもの!」
こうして私の辺境生活初日は、ドレスを脱ぎ捨てて雑巾を握りしめることから始まったのだった。
車窓からの景色は、綺麗に舗装された石畳から鬱蒼とした森、そして険しい山道へと変わっていった。
公爵家からの手切れ金と、私がこっそり貯めていたお小遣い、そして最低限の荷物。
持参したものは少ないけれど、私の心は羽根が生えたように軽かった。
「やっと……やっと着いたわ!」
馬車が止まり、私は勢いよく扉を開けた。
ひんやりとした澄んだ空気が肺を満たす。王都の排気ガス混じりの空気とは大違いだ。
目の前に建っていたのは、築数十年は経っていそうな古びた洋館だった。
壁には蔦が這い、庭は雑草が伸び放題。屋根の一部は少し傾いているかもしれない。王族の別荘というよりは、お化け屋敷に近い佇まいだ。
「お待ちしておりました、レティシア様」
屋敷の前で頭を下げたのは、この別荘の管理を任されている老夫婦だった。ふっくらとした体型の優しそうな女性がマーサ、背中が丸まった無口そうな男性がハンスだという。
「遠いところ、よくお越しくださいました。……お辛かったでしょうに」
マーサが涙ぐみながら私を見る。
どうやら「婚約破棄されて傷心の令嬢が都落ちして隠遁生活を送りに来た」というストーリーが伝わっているらしい。
確かに半分は合っているけれど、私の感情は真逆だ。
「いいえ、マーサ。私はこの場所をとっても楽しみにしていたのよ」
「えっ? こ、こんな何もない田舎をですか?」
「『何もない』のが最高なの! ところでマーサ、一番重要なことを聞きたいのだけれど」
私は食い気味に尋ねた。
「このお屋敷のキッチンはどこかしら? あと、食材庫の在庫状況は?」
「は、はい? キッチン……ですか?」
目を丸くするマーサの手を取り、私は屋敷の中へと足を踏み入れた。
廊下には埃が積もり、蜘蛛の巣が張っている場所もある。けれど柱や床板はしっかりしていて磨けば光るポテンシャルを感じさせた。
そして案内された厨房。
そこは、私の予想を遥かに超える素晴らしい場所だった。広々とした調理台、旧式だが火力の強そうな魔導コンロ、奥には巨大な石窯まである。
かつて美食家だった先代の王族が作らせたという噂は本当だったようだ。
長年使われていなかったせいで埃まみれだが、私にはここが宝石箱のように見えた。
「素晴らしいわ……! ここなら何でも作れる!」
「あの、レティシア様? お食事なら私がご用意しますが……」
「いいえ、マーサ。今日からここの料理長は私よ。貴女には助手を頼むわね」
「りょ、料理長!? 公爵令嬢様がですか!?」
腰を抜かしそうなマーサに、私はニカッと笑いかけた。
「元・公爵令嬢、よ。さあ、まずは大掃除から始めましょう! 美味しいご飯を食べるためには、綺麗な場所が必要だもの!」
こうして私の辺境生活初日は、ドレスを脱ぎ捨てて雑巾を握りしめることから始まったのだった。
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