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第8話 勝負メニューの構想
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騎士団の三人が来店してからというもの、『陽だまり亭』の客層はガラリと変わった。
これまでは冒険者や近所のおばさまたちが中心だったけれど、最近はピシッとした制服を着た騎士様たちの姿が目立つようになったのだ。
どうやら、あの三人が「あそこの飯はすごい。翌日の訓練で体が羽根のように軽くなる」と触れ回ってくれたらしい。
「いらっしゃいませ! 今日も角煮丼ですか?」
「ああ、頼む! 午後の警備の前に、あれを食わないと気合が入らなくてな」
若い騎士が嬉しそうに席に着く。
厨房では、助手のマーサが手際よくサラダを盛り付け、ハンスが洗い物を片付けている。
開店当初の閑古鳥が嘘のような忙しさだ。
そんなある日の昼下がり。
常連となった例の騎士三人組が深刻そうな顔でテーブルを囲んでいた。
「……今日の団長閣下、一段と不機嫌だったな」
「ああ。執務室の空気が凍りついていたぞ。文字通りな」
「魔力過多の頭痛が酷いんだろう。最近は魔物の討伐続きで魔力放出が追いついていないらしい」
カウンターの中でグラスを拭きながら、私は思わず聞き耳を立ててしまった。
(団長閣下……。この辺境を治める、ジークフリート様のことよね)
噂には聞いている。
『氷の騎士』の異名を持つ、冷徹で最強の魔法使い。逆らう者は視線だけで凍りつかせ、笑った顔を見た者は誰もいないという、泣く子も黙る恐怖の領主様だ。
「なぁ、店主」
不意に話を振られ、私はビクリと肩を震わせた。
「は、はい! なんでしょう?」
「実は明日、その団長閣下をここに連れてこようと思っているんだ」
「ええっ!? あ、あの恐ろしいと噂の辺境伯様をですか!?」
思わず本音が漏れてしまった。
騎士たちが苦笑する。
「ああ。無理にでも連れ出さないと、過労で倒れちまいそうでな。それに、ここの飯なら閣下の偏頭痛も治るんじゃないかと期待してるんだ」
「責任重大ですね……。もしお口に合わなくて、機嫌を損ねてしまったら……」
私は首を洗って待つことになるのだろうか。
「不敬罪で国外追放」なんてことになったら、せっかくの悠々自適ライフが水の泡だ。
「大丈夫だ。閣下は厳しい方だが、理不尽なことはなさらん。……たぶんな」
「『たぶん』って言いました!?」
騎士たちは「明日の昼に来るから、よろしく頼むよ」と言い残し、颯爽と去っていった。
残された私は重いため息をつく。
『クゥン?』
足元でルルが心配そうに私を見上げている。
私はルルを抱き上げ、その温もりに顔を埋めた。
「どうしようルル。明日、一番偉くて怖い人が来るって」
『ワンッ!』
「励ましてくれてるの? ありがとう」
ルルのお腹に顔をスリスリしていると、少しずつ落ち着いてきた。
そうだ、怯えていても仕方がない。
料理人としてやるべきことは一つ。どんなお客様であっても、最高の一皿でおもてなしすることだ。
(疲労困憊で、頭痛持ち……食欲も落ちているかもしれない)
そんな状態の人でも、ガッツリ食べられて元気が出るもの。角煮丼もいいけれど、もっとこう、一口食べた瞬間に脳天を突き抜けるようなインパクトが欲しい。
「……よし、あれにしましょう」
私はポンと手を打った。
前世のカフェでも、疲れたサラリーマンや男子学生に圧倒的な支持を得ていた、最強のスタミナメニュー。
醤油とニンニクの香りで食欲の扉を無理やりこじ開ける『揚げ物』の王様。
「明日の日替わりランチは、山盛りの『特製唐揚げ』よ!」
私は明日の仕込みのために、急いで鶏肉の在庫を確認しに走った。
その背後でルルがなぜかニヤリと笑ったような気がしたけれど、気のせいだろうか。
これまでは冒険者や近所のおばさまたちが中心だったけれど、最近はピシッとした制服を着た騎士様たちの姿が目立つようになったのだ。
どうやら、あの三人が「あそこの飯はすごい。翌日の訓練で体が羽根のように軽くなる」と触れ回ってくれたらしい。
「いらっしゃいませ! 今日も角煮丼ですか?」
「ああ、頼む! 午後の警備の前に、あれを食わないと気合が入らなくてな」
若い騎士が嬉しそうに席に着く。
厨房では、助手のマーサが手際よくサラダを盛り付け、ハンスが洗い物を片付けている。
開店当初の閑古鳥が嘘のような忙しさだ。
そんなある日の昼下がり。
常連となった例の騎士三人組が深刻そうな顔でテーブルを囲んでいた。
「……今日の団長閣下、一段と不機嫌だったな」
「ああ。執務室の空気が凍りついていたぞ。文字通りな」
「魔力過多の頭痛が酷いんだろう。最近は魔物の討伐続きで魔力放出が追いついていないらしい」
カウンターの中でグラスを拭きながら、私は思わず聞き耳を立ててしまった。
(団長閣下……。この辺境を治める、ジークフリート様のことよね)
噂には聞いている。
『氷の騎士』の異名を持つ、冷徹で最強の魔法使い。逆らう者は視線だけで凍りつかせ、笑った顔を見た者は誰もいないという、泣く子も黙る恐怖の領主様だ。
「なぁ、店主」
不意に話を振られ、私はビクリと肩を震わせた。
「は、はい! なんでしょう?」
「実は明日、その団長閣下をここに連れてこようと思っているんだ」
「ええっ!? あ、あの恐ろしいと噂の辺境伯様をですか!?」
思わず本音が漏れてしまった。
騎士たちが苦笑する。
「ああ。無理にでも連れ出さないと、過労で倒れちまいそうでな。それに、ここの飯なら閣下の偏頭痛も治るんじゃないかと期待してるんだ」
「責任重大ですね……。もしお口に合わなくて、機嫌を損ねてしまったら……」
私は首を洗って待つことになるのだろうか。
「不敬罪で国外追放」なんてことになったら、せっかくの悠々自適ライフが水の泡だ。
「大丈夫だ。閣下は厳しい方だが、理不尽なことはなさらん。……たぶんな」
「『たぶん』って言いました!?」
騎士たちは「明日の昼に来るから、よろしく頼むよ」と言い残し、颯爽と去っていった。
残された私は重いため息をつく。
『クゥン?』
足元でルルが心配そうに私を見上げている。
私はルルを抱き上げ、その温もりに顔を埋めた。
「どうしようルル。明日、一番偉くて怖い人が来るって」
『ワンッ!』
「励ましてくれてるの? ありがとう」
ルルのお腹に顔をスリスリしていると、少しずつ落ち着いてきた。
そうだ、怯えていても仕方がない。
料理人としてやるべきことは一つ。どんなお客様であっても、最高の一皿でおもてなしすることだ。
(疲労困憊で、頭痛持ち……食欲も落ちているかもしれない)
そんな状態の人でも、ガッツリ食べられて元気が出るもの。角煮丼もいいけれど、もっとこう、一口食べた瞬間に脳天を突き抜けるようなインパクトが欲しい。
「……よし、あれにしましょう」
私はポンと手を打った。
前世のカフェでも、疲れたサラリーマンや男子学生に圧倒的な支持を得ていた、最強のスタミナメニュー。
醤油とニンニクの香りで食欲の扉を無理やりこじ開ける『揚げ物』の王様。
「明日の日替わりランチは、山盛りの『特製唐揚げ』よ!」
私は明日の仕込みのために、急いで鶏肉の在庫を確認しに走った。
その背後でルルがなぜかニヤリと笑ったような気がしたけれど、気のせいだろうか。
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