8 / 44
第8話 勝負メニューの構想
しおりを挟む
騎士団の三人が来店してからというもの、『陽だまり亭』の客層はガラリと変わった。
これまでは冒険者や近所のおばさまたちが中心だったけれど、最近はピシッとした制服を着た騎士様たちの姿が目立つようになったのだ。
どうやら、あの三人が「あそこの飯はすごい。翌日の訓練で体が羽根のように軽くなる」と触れ回ってくれたらしい。
「いらっしゃいませ! 今日も角煮丼ですか?」
「ああ、頼む! 午後の警備の前に、あれを食わないと気合が入らなくてな」
若い騎士が嬉しそうに席に着く。
厨房では、助手のマーサが手際よくサラダを盛り付け、ハンスが洗い物を片付けている。
開店当初の閑古鳥が嘘のような忙しさだ。
そんなある日の昼下がり。
常連となった例の騎士三人組が深刻そうな顔でテーブルを囲んでいた。
「……今日の団長閣下、一段と不機嫌だったな」
「ああ。執務室の空気が凍りついていたぞ。文字通りな」
「魔力過多の頭痛が酷いんだろう。最近は魔物の討伐続きで魔力放出が追いついていないらしい」
カウンターの中でグラスを拭きながら、私は思わず聞き耳を立ててしまった。
(団長閣下……。この辺境を治める、ジークフリート様のことよね)
噂には聞いている。
『氷の騎士』の異名を持つ、冷徹で最強の魔法使い。逆らう者は視線だけで凍りつかせ、笑った顔を見た者は誰もいないという、泣く子も黙る恐怖の領主様だ。
「なぁ、店主」
不意に話を振られ、私はビクリと肩を震わせた。
「は、はい! なんでしょう?」
「実は明日、その団長閣下をここに連れてこようと思っているんだ」
「ええっ!? あ、あの恐ろしいと噂の辺境伯様をですか!?」
思わず本音が漏れてしまった。
騎士たちが苦笑する。
「ああ。無理にでも連れ出さないと、過労で倒れちまいそうでな。それに、ここの飯なら閣下の偏頭痛も治るんじゃないかと期待してるんだ」
「責任重大ですね……。もしお口に合わなくて、機嫌を損ねてしまったら……」
私は首を洗って待つことになるのだろうか。
「不敬罪で国外追放」なんてことになったら、せっかくの悠々自適ライフが水の泡だ。
「大丈夫だ。閣下は厳しい方だが、理不尽なことはなさらん。……たぶんな」
「『たぶん』って言いました!?」
騎士たちは「明日の昼に来るから、よろしく頼むよ」と言い残し、颯爽と去っていった。
残された私は重いため息をつく。
『クゥン?』
足元でルルが心配そうに私を見上げている。
私はルルを抱き上げ、その温もりに顔を埋めた。
「どうしようルル。明日、一番偉くて怖い人が来るって」
『ワンッ!』
「励ましてくれてるの? ありがとう」
ルルのお腹に顔をスリスリしていると、少しずつ落ち着いてきた。
そうだ、怯えていても仕方がない。
料理人としてやるべきことは一つ。どんなお客様であっても、最高の一皿でおもてなしすることだ。
(疲労困憊で、頭痛持ち……食欲も落ちているかもしれない)
そんな状態の人でも、ガッツリ食べられて元気が出るもの。角煮丼もいいけれど、もっとこう、一口食べた瞬間に脳天を突き抜けるようなインパクトが欲しい。
「……よし、あれにしましょう」
私はポンと手を打った。
前世のカフェでも、疲れたサラリーマンや男子学生に圧倒的な支持を得ていた、最強のスタミナメニュー。
醤油とニンニクの香りで食欲の扉を無理やりこじ開ける『揚げ物』の王様。
「明日の日替わりランチは、山盛りの『特製唐揚げ』よ!」
私は明日の仕込みのために、急いで鶏肉の在庫を確認しに走った。
その背後でルルがなぜかニヤリと笑ったような気がしたけれど、気のせいだろうか。
これまでは冒険者や近所のおばさまたちが中心だったけれど、最近はピシッとした制服を着た騎士様たちの姿が目立つようになったのだ。
どうやら、あの三人が「あそこの飯はすごい。翌日の訓練で体が羽根のように軽くなる」と触れ回ってくれたらしい。
「いらっしゃいませ! 今日も角煮丼ですか?」
「ああ、頼む! 午後の警備の前に、あれを食わないと気合が入らなくてな」
若い騎士が嬉しそうに席に着く。
厨房では、助手のマーサが手際よくサラダを盛り付け、ハンスが洗い物を片付けている。
開店当初の閑古鳥が嘘のような忙しさだ。
そんなある日の昼下がり。
常連となった例の騎士三人組が深刻そうな顔でテーブルを囲んでいた。
「……今日の団長閣下、一段と不機嫌だったな」
「ああ。執務室の空気が凍りついていたぞ。文字通りな」
「魔力過多の頭痛が酷いんだろう。最近は魔物の討伐続きで魔力放出が追いついていないらしい」
カウンターの中でグラスを拭きながら、私は思わず聞き耳を立ててしまった。
(団長閣下……。この辺境を治める、ジークフリート様のことよね)
噂には聞いている。
『氷の騎士』の異名を持つ、冷徹で最強の魔法使い。逆らう者は視線だけで凍りつかせ、笑った顔を見た者は誰もいないという、泣く子も黙る恐怖の領主様だ。
「なぁ、店主」
不意に話を振られ、私はビクリと肩を震わせた。
「は、はい! なんでしょう?」
「実は明日、その団長閣下をここに連れてこようと思っているんだ」
「ええっ!? あ、あの恐ろしいと噂の辺境伯様をですか!?」
思わず本音が漏れてしまった。
騎士たちが苦笑する。
「ああ。無理にでも連れ出さないと、過労で倒れちまいそうでな。それに、ここの飯なら閣下の偏頭痛も治るんじゃないかと期待してるんだ」
「責任重大ですね……。もしお口に合わなくて、機嫌を損ねてしまったら……」
私は首を洗って待つことになるのだろうか。
「不敬罪で国外追放」なんてことになったら、せっかくの悠々自適ライフが水の泡だ。
「大丈夫だ。閣下は厳しい方だが、理不尽なことはなさらん。……たぶんな」
「『たぶん』って言いました!?」
騎士たちは「明日の昼に来るから、よろしく頼むよ」と言い残し、颯爽と去っていった。
残された私は重いため息をつく。
『クゥン?』
足元でルルが心配そうに私を見上げている。
私はルルを抱き上げ、その温もりに顔を埋めた。
「どうしようルル。明日、一番偉くて怖い人が来るって」
『ワンッ!』
「励ましてくれてるの? ありがとう」
ルルのお腹に顔をスリスリしていると、少しずつ落ち着いてきた。
そうだ、怯えていても仕方がない。
料理人としてやるべきことは一つ。どんなお客様であっても、最高の一皿でおもてなしすることだ。
(疲労困憊で、頭痛持ち……食欲も落ちているかもしれない)
そんな状態の人でも、ガッツリ食べられて元気が出るもの。角煮丼もいいけれど、もっとこう、一口食べた瞬間に脳天を突き抜けるようなインパクトが欲しい。
「……よし、あれにしましょう」
私はポンと手を打った。
前世のカフェでも、疲れたサラリーマンや男子学生に圧倒的な支持を得ていた、最強のスタミナメニュー。
醤油とニンニクの香りで食欲の扉を無理やりこじ開ける『揚げ物』の王様。
「明日の日替わりランチは、山盛りの『特製唐揚げ』よ!」
私は明日の仕込みのために、急いで鶏肉の在庫を確認しに走った。
その背後でルルがなぜかニヤリと笑ったような気がしたけれど、気のせいだろうか。
73
あなたにおすすめの小説
「異常」と言われて追放された最強聖女、隣国で超チートな癒しの力で溺愛される〜前世は過労死した介護士、今度は幸せになります〜
赤紫
恋愛
私、リリアナは前世で介護士として過労死した後、異世界で最強の癒しの力を持つ聖女に転生しました。でも完璧すぎる治療魔法を「異常」と恐れられ、婚約者の王太子から「君の力は危険だ」と婚約破棄されて魔獣の森に追放されてしまいます。
絶望の中で瀕死の隣国王子を救ったところ、「君は最高だ!」と初めて私の力を称賛してくれました。新天地では「真の聖女」と呼ばれ、前世の介護経験も活かして疫病を根絶!魔獣との共存も実現して、国民の皆さんから「ありがとう!」の声をたくさんいただきました。
そんな時、私を捨てた元の国で災いが起こり、「戻ってきて」と懇願されたけれど——「私を捨てた国には用はありません」。
今度こそ私は、私を理解してくれる人たちと本当の幸せを掴みます!
婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜
夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」
婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。
彼女は涙を見せず、静かに笑った。
──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。
「そなたに、我が祝福を授けよう」
神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。
だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。
──そして半年後。
隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、
ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。
「……この命、お前に捧げよう」
「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」
かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。
──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、
“氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。
婚約破棄された伯爵令嬢は隣国の将軍に求婚され、前世の記憶を取り戻す
nacat
恋愛
婚約者である王太子に身に覚えのない罪を着せられ、婚約破棄された伯爵令嬢エリシア。
廷臣たちの嘲笑の中、隣国の若き将軍ライナルトが現れ、「ならば、俺が君を妻にしよう」と求婚する。
彼はただの救い手ではなかった。エリシアの“前世の記憶”と深く結びついた存在だったのだ——。
かつてすべてを失った令嬢が、今世では誰より強く、愛され、そしてざまぁを下す。
溺愛と逆転の物語、ここに開幕。
「完璧令嬢」と言われた私が婚約者から「ハリボテ」と罵られてからの一週間
真岡鮫
恋愛
「完璧令嬢」と呼ばれ、女性達の憧れの的である公爵令嬢リリアージュ。
そんな彼女の唯一の欠点と噂されているのが、婚約者である第二王子のガブリエル。
それでも、不出来な彼を支えることが使命と信じ、日々努力を続けていた彼女だが、ある日ガブリエルの身勝手な裏切りを知ってしまう。
失意の中、家に戻ったリリアージュの前に現れたのは、優しい妹思いの兄とその友人である第一王子のアラン。
心配し寄り添う彼らだが、アランのある一言が、リリアージュの「完璧」を揺るがし、彼女のこれまでと未来を大きく変えていく——。
お別れなので「王位継承セット」をプレゼントしたら、妹カップルが玉座を手に入れました。きっと喜んでくれてますよね
ささい
恋愛
ん?おでかけ楽しみ? そうだね。うちの国は楽しいと思うよ。
君が練ってた棒はないけど。
魔術に棒は要らない。素手で十分? はは、さすがだね。
なのに棒を量産したいの? 棒を作るのは楽しいんだ。
そっか、いいよ。たくさん作って。飾ってもいいね。君の魔力は綺麗だし。
騎士団に渡して使わせるのも楽しそうだね。
使い方教えてくれるの? 向上心がある人が好き?
うん、僕もがんばらないとね。
そういえば、王冠に『民の声ラジオ24h』みたいな機能つけてたよね。
ラジオ。遠く離れた場所にいる人の声を届けてくれる箱だよ。
そう、あれはなんで?
民の声を聞く素敵な王様になってほしいから?
なるほど。素晴らしい機能だね。
僕? 僕には必要ないよ。心配してくれてありがとう。
君の祖国が素晴らしい国になるといいね。
※他サイトにも掲載しております。
政略結婚した旦那様に「貴女を愛することはない」と言われたけど、猫がいるから全然平気
ハルイロ
恋愛
皇帝陛下の命令で、唐突に決まった私の結婚。しかし、それは、幸せとは程遠いものだった。
夫には顧みられず、使用人からも邪険に扱われた私は、与えられた粗末な家に引きこもって泣き暮らしていた。そんな時、出会ったのは、1匹の猫。その猫との出会いが私の運命を変えた。
猫達とより良い暮らしを送るために、夫なんて邪魔なだけ。それに気付いた私は、さっさと婚家を脱出。それから数年、私は、猫と好きなことをして幸せに過ごしていた。
それなのに、なぜか態度を急変させた夫が、私にグイグイ迫ってきた。
「イヤイヤ、私には猫がいればいいので、旦那様は今まで通り不要なんです!」
勘違いで妻を遠ざけていた夫と猫をこよなく愛する妻のちょっとずれた愛溢れるお話
「地味で可愛げがない」と婚約破棄された精霊使い、氷の公爵家に拾われる。~今さら戻れと言われても、最強の旦那様が許しません~
eringi
恋愛
伯爵令嬢アリアは、あらゆる精霊の声を聞き、力を借りることができる稀代の「精霊使い」。
しかしその能力は目に見えないため、実家の家族からは「虚言癖のある地味な娘」と蔑まれてきた。
ある日、アリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡される。
「君のような可愛げのない女は願い下げだ。僕は君の妹、ミラの真実の愛に生きる!」
妹のミラは、アリアの成果を横取りし、王子に取り入っていたのだ。
濡れ衣を着せられ、着の身着のままで家を追い出されたアリア。
途方に暮れる彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と恐れられる辺境伯、ヴァルド・フォン・アイスバーグだった。
「……探していた。私の屋敷に来てくれないか」
冷酷だと思われていた公爵様ですが、実は精霊が大好きな、不器用で超・過保護な旦那様で!?
公爵領でアリアが精霊たちと楽しくスローライフを送る一方、アリアを追い出した実家と国は、精霊の加護を失い、とんでもない事態に陥っていく。
「今さら戻ってきてほしい? お断りです。私はここで幸せになりますので」
これは、虐げられてきた令嬢が最強の公爵様に溺愛され、幸せを掴み取るまでの物語。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる