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第18話 焼きたてメロンパン
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その日、私は朝から不思議な予感めいたものを感じていた。
厨房の空気がいつもより澄んでいるような、キラキラしているような気がするのだ。
「今日は、とびきり甘くて可愛いパンを焼きたい気分ね」
私はボウルの中でバターと砂糖を白っぽくなるまで練り混ぜた。そこに卵と小麦粉をさっくりと合わせ、クッキー生地を作る。
それを丸く伸ばし、発酵を終えたふわふわのパン生地の上に帽子のように被せる。
仕上げにナイフで格子模様の切れ込みを入れ、グラニュー糖をまぶしてオーブンへ。
そう、日本発祥の菓子パンの王様――『メロンパン』だ。
しばらくすると厨房からホールへ、そして店の外へと幸福な香りが流れ出した。
バターの濃厚な香りと焼けた砂糖の香ばしさ。
バニラエッセンスの甘い誘惑。
チーン!
焼き上がりの合図と共にオーブンを開けると、そこには黄金色に輝くメロンパンたちが並んでいた。
「うん、完璧! 外はカリカリ、中はふんわりね」
その時だった。
ヒュン、ヒュンと何かが目の前を横切った。
「え?」
見れば焼きたてのメロンパンの周りに、蛍のような小さな光の玉がいくつも集まっている。
よく目を凝らすと、それは羽の生えた手のひらサイズの人形――いや、妖精だった。
『甘い匂い!』
『いい匂い!』
『これ、すごい魔力! キラキラしてる!』
鈴を転がしたような声が頭に直接響く。
私は呆然とした。
「よ、妖精……さん?」
『わーい! これ食べたい! ちょうだい!』
妖精たちは私の周りを飛び回り、ねだるように頬をスリスリしてくる。
どうやら、メロンパンから溢れ出る湯気に釣られて、近くの森から出てきてしまったらしい。
「ふふ、いいわよ。熱いから気をつけてね」
私が小さくちぎったメロンパンを手のひらに乗せると、妖精たちは嬉しそうに抱きついた。
サクッ、という小さな音がして妖精たちが頬を緩ませる。
『おいしーい!』
『サクサクだー!』
『元気でるー!』
その光景があまりに幻想的で、私は思わず見とれてしまった。
そこへカランカランとドアベルが鳴った。
「……店主、表が騒がしいぞ。店から光が漏れていると……む?」
入ってきたジークフリート様が足を止めた。
彼の目にも宙を舞う妖精たちが見えているようだ。
「……精霊か。しかも、こんなに大量に」
「あ、ジーク様。メロンパンの匂いに釣られて来ちゃったみたいで」
「釣られただと? 精霊は純度の高い魔力にしか反応しない。これだけの数が集まるなど王城の聖域でもありえんぞ」
ジーク様は呆れたように額を押さえたが、すぐにその視線は私の手元――妖精たちが群がるメロンパンへと吸い寄せられた。
「……その、亀の甲羅のようなパンはなんだ」
「『メロンパン』です。クッキー生地を乗せて焼いた、甘いパンですよ」
「……クッキーとパンの融合だと? ……興味深い」
目が「俺も食べたい」と言っている。
私は苦笑しながら、彼のためにも一つ取り分けた。
「どうぞ、ジーク様も。焼きたてが一番美味しいですから」
彼は無骨な手でメロンパンを受け取ると、ガブリと齧り付いた。
ザクッ……!
小気味よい音が響く。
「……っ」
表面のクッキー生地のザクザク感と、中のパン生地のしっとりふわふわ感。そして表面にまぶされた砂糖のジャリッとした食感。
異なる食感のハーモニーが口の中で楽しく踊る。
「……これは、卑怯だ」
「卑怯ですか?」
「ああ。こんな食感、誰も抗えん。……精霊どもが集まるのも無理はない」
彼は口の端に砂糖をつけたまま、真剣な顔で言った。
その周りでは、妖精たちが、
『お兄ちゃんも食べるの?』
『美味しいね!』
そう言って飛び回っている。
氷の騎士とファンシーな妖精とメロンパン。
なんともシュールで最高に平和な絵面だ。
「……お前は本当に規格外だな」
ジーク様はフッと笑うと、二口目を頬張った。
その日、『陽だまり亭』は「妖精も認めた美味しい店」として、さらに伝説を更新することになったのだった。
厨房の空気がいつもより澄んでいるような、キラキラしているような気がするのだ。
「今日は、とびきり甘くて可愛いパンを焼きたい気分ね」
私はボウルの中でバターと砂糖を白っぽくなるまで練り混ぜた。そこに卵と小麦粉をさっくりと合わせ、クッキー生地を作る。
それを丸く伸ばし、発酵を終えたふわふわのパン生地の上に帽子のように被せる。
仕上げにナイフで格子模様の切れ込みを入れ、グラニュー糖をまぶしてオーブンへ。
そう、日本発祥の菓子パンの王様――『メロンパン』だ。
しばらくすると厨房からホールへ、そして店の外へと幸福な香りが流れ出した。
バターの濃厚な香りと焼けた砂糖の香ばしさ。
バニラエッセンスの甘い誘惑。
チーン!
焼き上がりの合図と共にオーブンを開けると、そこには黄金色に輝くメロンパンたちが並んでいた。
「うん、完璧! 外はカリカリ、中はふんわりね」
その時だった。
ヒュン、ヒュンと何かが目の前を横切った。
「え?」
見れば焼きたてのメロンパンの周りに、蛍のような小さな光の玉がいくつも集まっている。
よく目を凝らすと、それは羽の生えた手のひらサイズの人形――いや、妖精だった。
『甘い匂い!』
『いい匂い!』
『これ、すごい魔力! キラキラしてる!』
鈴を転がしたような声が頭に直接響く。
私は呆然とした。
「よ、妖精……さん?」
『わーい! これ食べたい! ちょうだい!』
妖精たちは私の周りを飛び回り、ねだるように頬をスリスリしてくる。
どうやら、メロンパンから溢れ出る湯気に釣られて、近くの森から出てきてしまったらしい。
「ふふ、いいわよ。熱いから気をつけてね」
私が小さくちぎったメロンパンを手のひらに乗せると、妖精たちは嬉しそうに抱きついた。
サクッ、という小さな音がして妖精たちが頬を緩ませる。
『おいしーい!』
『サクサクだー!』
『元気でるー!』
その光景があまりに幻想的で、私は思わず見とれてしまった。
そこへカランカランとドアベルが鳴った。
「……店主、表が騒がしいぞ。店から光が漏れていると……む?」
入ってきたジークフリート様が足を止めた。
彼の目にも宙を舞う妖精たちが見えているようだ。
「……精霊か。しかも、こんなに大量に」
「あ、ジーク様。メロンパンの匂いに釣られて来ちゃったみたいで」
「釣られただと? 精霊は純度の高い魔力にしか反応しない。これだけの数が集まるなど王城の聖域でもありえんぞ」
ジーク様は呆れたように額を押さえたが、すぐにその視線は私の手元――妖精たちが群がるメロンパンへと吸い寄せられた。
「……その、亀の甲羅のようなパンはなんだ」
「『メロンパン』です。クッキー生地を乗せて焼いた、甘いパンですよ」
「……クッキーとパンの融合だと? ……興味深い」
目が「俺も食べたい」と言っている。
私は苦笑しながら、彼のためにも一つ取り分けた。
「どうぞ、ジーク様も。焼きたてが一番美味しいですから」
彼は無骨な手でメロンパンを受け取ると、ガブリと齧り付いた。
ザクッ……!
小気味よい音が響く。
「……っ」
表面のクッキー生地のザクザク感と、中のパン生地のしっとりふわふわ感。そして表面にまぶされた砂糖のジャリッとした食感。
異なる食感のハーモニーが口の中で楽しく踊る。
「……これは、卑怯だ」
「卑怯ですか?」
「ああ。こんな食感、誰も抗えん。……精霊どもが集まるのも無理はない」
彼は口の端に砂糖をつけたまま、真剣な顔で言った。
その周りでは、妖精たちが、
『お兄ちゃんも食べるの?』
『美味しいね!』
そう言って飛び回っている。
氷の騎士とファンシーな妖精とメロンパン。
なんともシュールで最高に平和な絵面だ。
「……お前は本当に規格外だな」
ジーク様はフッと笑うと、二口目を頬張った。
その日、『陽だまり亭』は「妖精も認めた美味しい店」として、さらに伝説を更新することになったのだった。
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