婚約破棄されたので、辺境で「魔力回復カフェ」はじめます〜冷徹な辺境伯様ともふもふ聖獣が、私の絶品ご飯に夢中なようです〜

咲月ねむと

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第24話 肉汁溢れるハンバーグ

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 ジーク様からいただいた青い魔石のおかげで、店内は常に春のような快適な室温に保たれていた。
 その効果は絶大で、私の体調もすこぶる良い。
 
「これだけ守ってもらっているんだもの。地域に還元しないとね」

 私は今日、店を貸し切りにしていた。
 招いたのは、町外れにある孤児院の子供たちとシスターだ。

 辺境の冬は厳しく、支援物資も滞りがちだと聞いた。育ち盛りの子供たちに、お腹いっぱい美味しいものを食べて元気になってほしい。

 今日のメニューは、子供なら誰もが目を輝かせる『王様』だ。
 厨房に立つ私は、大量の合い挽き肉と格闘していた。炒めて甘みを出した玉ねぎ、牛乳に浸したパン粉、卵、塩コショウ。
 それらをボウルに入れ、冷たさに負けずに手で粘りが出るまでこねる。

「美味しくなーれ、美味しくなーれ!」

 私の『愛情』もたっぷりと混ぜ込む。
 空気を抜くように、両手でペタン、ペタンとキャッチボール。
 綺麗に成形したら熱したフライパンへ。

 ジュワアアァァッ……!!

 小気味よい音と共に肉の焼ける香ばしい匂いが立ち上る。
 両面にこんがりと焼き色をつけたら、弱火にして蓋をする。蒸し焼きにして、旨味を内側に閉じ込めるのだ。
 仕上げに、フライパンに残った肉汁にトマトソースとソ醤油を煮詰めた、特製ソースをたっぷりとかければ完成だ。

 ◇

「わぁぁ……! いい匂い!」

「お肉だ! お肉の匂いがする!」

 正午。シスターに連れられた十人の子供たちが目をキラキラさせて店に入ってきた。
 みんな少し痩せているけれど、その笑顔は太陽のように明るい。

「いらっしゃい! さあ、席についてね」

 私は焼きたてのハンバーグを乗せたプレートを次々と運んだ。付け合わせは、甘い人参のグラッセ、ホクホクのフライドポテト、そしてブロッコリー。彩りも完璧だ。

「いただきます!」

 子供たちの元気な声が響く。
 一人の男の子がナイフを入れた。

 ――ジュワッ。

 茶色い焼き目を割ると、中から透明な肉汁が泉のように溢れ出し、お皿の上でソースと混ざり合う。

「うわぁ! 汁がいっぱい出た!」

「いただきまーす! ……んぐッ!」

「おいしぃぃぃ!! 柔らかくて、口の中で溶けちゃう!」

 子供たちの歓声が爆発した。
 普段は硬いパンや薄いスープばかりだという彼らにとって、このふっくらジューシーなハンバーグは、まさにご馳走だった。

 パクパク、モグモグ。

 必死に頬張る顔。
 その頬には、次第に健康的な赤みが差していく。

「……騒がしいな」

 その光景を店の隅――いつもの定位置で見守っている人物がいた。
 もちろん、ジークフリート様だ。「警備のため」と言って居座っているが、その目は子供たちに釘付けだ。

「あら、ジーク様。子供は苦手ですか?」

「……いや。小さくて、壊れそうで……どう扱えばいいか分からんだけだ」

 彼が困ったように眉を下げた時、一人の小さな女の子が、お肉を切れずに困っているのに気づいた。

「…………」

 ジーク様は無言で立ち上がると、女の子の隣に膝をついた。長い脚を折り、目線を合わせる。

「……貸せ」

「ひっ、き、騎士さま……?」

 怯える女の子の手からナイフを取り、彼は驚くほど繊細な手つきでハンバーグを一口サイズに切り分けた。

「……食え」

「あ、ありがとう……!」

 女の子がパァッと笑顔になり、お肉を口に放り込む。それを見た他の子供たちも、わらわらとジーク様の周りに集まってきた。

「ねえねえ、お兄ちゃん! 僕のも切って!」

「お兄ちゃん、その剣すごーい!」

「お兄ちゃん抱っこして!」

「お、おい、群がるな! 私はお兄ちゃんではない、辺境伯だぞ! こら、剣に触るな!」

 最強の『氷の騎士』が子供たちに揉みくちゃにされている。髪を引っ張られ、腕にぶら下がられ、もはやジャングルジム状態だ。
 けれど、その表情は満更でもなさそうで、氷のような瞳は優しく細められている。

「……ふふ、素敵なパパになりそう」

 私がふとそう漏らすと、地獄耳のジーク様がバッとこちらを振り返った。

「なッ……!? れ、レティシア、変な想像をするな!」

「あら、何も言っていませんよ?」

 顔を真っ赤にして否定するジーク様と、彼によじ登る子供たち。そして、そんな彼らを微笑ましく見つめるシスター。

 店内は、まるで大きな家族のような温かさに包まれていた。
 けれど、そんな幸せな時間の裏で。
 王都からは、ついに「あの男」の魔の手が伸びてきていた。
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