田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

文字の大きさ
2 / 51
第1章  ダンジョン民宿、はじめました

第2話 ダンジョン再訪

 翌朝、俺は小鳥のさえずりで目を覚ました。
 東京の喧騒とは無縁の穏やかな朝だ。カーテンを開けると、朝日がキラキラと庭の草木を照らしている。

「……さて、と」

 昨夜思いついた「ダンジョン民宿」計画。
 酔った勢いの戯言だと笑い飛ばすこともできたが、不思議と俺の心はまだ、そのバカげたアイデアに惹かれていた。

「まずは、現状把握からだな」

 行動あるのみ。
 社畜時代に叩き込まれた基本だ。

 俺は押入れの奥から、親父が使っていたであろう古びたリュックサックと、強力なLEDランタンを引っ張り出した。中には水筒と、念の為のカロリーバー、そして救急セットを詰め込む。
 服装は、動きやすいジャージ姿。足元は履き慣れたスニーカーだ。
 準備を整え、俺は家の裏手へと続く小道を歩き始めた。

「うっ……結構、荒れてるな」

 最後にこの道を歩いたのは、いつだっただろうか。
 子供の頃は秘密基地へ続く冒険の道だったが、今は雑草が生い茂り、蜘蛛の巣が顔にまとわりつく。かき分けながら進むこと約10分。視界が開け、岩肌がむき出しになった崖の中腹に、ぽっかりと口を開けた洞窟が現れた。

 あれが、田中家のダンジョンだ。
 入り口の脇には、風雨にさらされて色褪せた
『立入禁止』の看板が物悲しく立っている。

「よし」

 俺は意を決して、洞窟の中へと足を踏み入れた。
 ひんやりとした空気が、汗ばんだ肌を撫でる。ランタンの光が照らし出すのは、ゴツゴツとした岩の壁と、湿った地面だ。洞窟内は意外と広く、大人が立って歩いても頭をぶつけることはない。

 しばらく進むと、最初の「モンスター」と遭遇した。 

「……ぷるぷる」

 足元で、青く半透明なスライムが健気に震えている。
 大きさはバスケットボールくらい。目のようなものがあり、こちらをじっと見つめている。 ランタンの光を浴びて、ゼリーのようにキラキラと輝いていた。

「……」

 俺は、そっと手を伸ばしてみる。
 社畜時代、理不尽な上司に頭を下げ続けた経験から、こういう相手の懐に入るのは得意なはずだ。

「よ、よしよし……」

 恐る恐るスライムの頭を撫でると、スライムは「ぷるるん!」と心地よさそうに体を揺らした。敵意は、まったくない。むしろ、もっと撫でてくれと言わんばかりにすり寄ってくる。

「……可愛いじゃないか」

 思わず笑みがこぼれた。
 これが、ハズレダンジョンと言われる所以か。これでは、冒険者がレベルアップすることも、素材を手に入れることもできないだろう。

 さらに奥へと進む。
 道はなだらかに下っており、時折、二手に分かれている場所もあった。迷わないように、壁にチョークで印をつけながら進む。

 次に現れたのは、緑色の肌をした小さなゴブリンだった。
 身長は1メートルほど。ボロ布を腰に巻き、木の棒を持っている。教科書通りのゴブリンだが、その表情はどこか間の抜けたものだった。

「キ?」

 ゴブリンは俺を見つけると、首をこてんと傾げた。
 木の棒を構えるでもなく、ただ、そこに突っ立っている。

「……こんにちは」

 俺が会釈をすると、ゴブリンはぺこりとお辞儀を返してきた。

 礼儀正しいな、おい。

 俺が通り過ぎようとすると、ゴブリンは「キキッ!」と何かを差し出してきた。
 それは、洞窟の隅に生えていた、青白く光るキノコだった。

「え、くれるのか?」

「キー!」

 ゴブリンは満面の笑みで頷いている。
 毒があったらどうしよう、という考えが一瞬頭をよぎったが、このゴブリンの純粋な瞳を見ていると、そんな気は失せてしまった。

「ありがとう。助かるよ」

 キノコを受け取ると、ゴブリンは嬉しそうにその場でぴょんぴょんと跳ねている。
 どうやら、ここのモンスターたちは、総じて平和主義らしい。

 一時間ほど探索を続け、俺はかなり広い空間に出た。
 天井は高く、ドーム状になっている。壁からは清らかな水が染み出し、小さな滝となって下の池に注がれていた。池の水は驚くほど透明で、底で光る石がキラキラと輝いているのが見える。

「……すげぇ」

 思わず、声が漏れた。
 まるで、ファンタジー映画のワンシーンだ。空気は澄み渡り、静寂の中に水音だけが心地よく響いている。

 ここだ。ここに、民宿を作れないだろうか。
 この天然の泉を露天風呂にして、池の周りに客室となるコテージを建てる。
 天井の岩肌には、光る苔が自生しているのか、ランタンを消してもぼんやりと明るい。これなら、照明にも困らないかもしれない。

「問題は……どうやって作るか、だな」

 資材の搬入、建設許可、そもそもダンジョンの中に建物を建てていいのか。素人が一人でどうにかできる問題ではない。

(役場、か……)

 鈴木さんの言葉を思い出す。
 まずは、行政に相談してみるのが筋だろう。頭がおかしいと思われるのは覚悟の上だ。失うものは、もう何もないのだから。

 俺は光るキノコをリュックにしまい、来た道を引き返し始めた。
 すれ違うゴブリンに手を振ると、嬉しそうに手を振り返してくる。足元ではスライムが「ぷるぷる」と応援してくれているようだった。

「待ってろよ、お前ら。ここを、世界一面白い宿にしてやるからな」 

 洞窟の外に出ると、真昼の太陽が眩しかった。
 俺の心は、社畜時代には感じたことのない、確かな高揚感と希望に満ち溢れていた。

 まずは役場へ。そして、この計画を形にするための第一歩を踏み出すのだ。
 俺は固く決意し、再び雑草の道をかき分け、実家へと戻るのだった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。