田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

文字の大きさ
5 / 51
第1章  ダンジョン民宿、はじめました

第5話 初めてのダンジョン案内

「じゃ、行きましょうか」

「はいっ、お願いします!」

 俺の気の乗らない返事とは対照的に、リサは元気いっぱいに頷いた。そして、どこから取り出したのか、手のひらサイズの小型カメラを構える。

「はーい、どうもリサでーす! 見てください、この景色! 私、今、北海道のすごい秘境に来てまーす!」

 突然、カメラに向かってハイテンションで話し始めた。
 え、もう撮ってるの!?

「ちょ、ちょっと、もう撮影中なんですか!?」

「大丈夫、大丈夫! まずはVlog風に撮るだけなんで! 田中さんは普通にしててください!」

 普通に、と言われても、いきなりレンズを向けられて平静でいられるほど、俺のメンタルは現代的ではない。俺はぎこちない笑顔を浮かべながら、リサを先導して家の裏手へと続く小道に入った。

「うわ、見てください、この道! まさにけもの道って感じ! 冒険が始まるって感じでワクワクしますねー!」

 雑草だらけで歩きにくいだけの道を、彼女のポジティブフィルターを通すと、そんな風に変換されるらしい。
 風雨にさらされた『立入禁止』の看板ですら、「こういうのが秘境感をマシマシにしてくれるんですよねー!」と嬉々として撮影している。これがプロの配信者という生き物か……。

 やがて、ダンジョンの入り口である洞窟が見えてくると、リサのテンションは最高潮に達した。

「うわーっ! 本物だー! 本当に、山に穴が開いてる……!」

 子供のようにはしゃぐリサに、俺は少し呆れながらも、リュックから取り出したLEDランタンを灯した。

「行きますよ。足元、気をつけてください」

「はい、キャプテン!」

 ふざけた返事を背中で聞きながら、俺はひんやりとした洞窟の中へと足を踏み入れた。リサも自分の小さなライトで周囲を照らしながら、ぴったりとついてくる。

「わ、なんか空気が違う! ちょっと神聖な感じしません? ダンジョンの中って、パワースポット的な効果もあるのかな?」

「さあ……少なくとも、俺に金運がアップしたとか、そういう効果はないですね」

「アハハ! 田中さん、面白い!」

 どこがだ。
 そんな軽口を叩いていると、早速、前方にぷるぷると震える青い影が現れた。プルが心配してついてきたのかと思ったが、プルは俺の足元にいる。つまり、別のスライムだ。

「うわっ、モンスター!?」

 リサが一瞬、ビクッと身構えた。だが、スライムがこちらをじっと見つめるだけで、何の敵意も見せないことに気づくと、すぐにその表情は好奇心へと変わった。

「え、なにこれ……全然、襲ってこない。ていうか……」

 リサは恐る恐るスライムに近づき、その頭をツン、と突いた。

「ぷるるん!」

「かわいーっ!」

 スライムのゼリーのような感触と反応がツボにはまったらしく、リサは目を輝かせてカメラを向けた。

「みんな見てー! スライムって、こんなに可愛い生き物だったんだー!」

「ここのモンスターは、だいたいこんな感じですよ」

 俺がそう説明しながら奥へ進むと、今度は通路の脇から、緑色の小さな人影が姿を現した。
  
 例のゴブリンだ。
 ゴブリンは俺の顔を見るなり、ぺこりと丁寧にお辞儀をした。

「えぇぇ!? ちょっと待って! 今、ゴブリンがお辞儀したんですけど!?」

 リサが素っ頓狂な声を上げて、腹を抱えて笑い出した。

「アハハハ! なにこれ、超ウケる! みんな見てー! 世界一、礼儀正しいゴブリンがいるー!」

 カメラを向けられたゴブリンは、戸惑うでもなく、リサに向かっても深々と一礼した。その健気な姿に、リサはすっかり心を鷲掴みにされたようだった。

「ゴブリンさん、こんにちはー! いい子だねー!」

 満面の笑みで手を振るリサに、ゴブリンも嬉しそうに持っていた木の棒を小さく振って応えている。もう、ただの近所付き合いの光景だ。
 そんな微笑ましい交流を挟みつつ、俺たちはついに目的地である泉の広場へと到着した。

 ドーム状に開けた広大な空間。天井から染み出す水が作り出す小さな滝。光る苔が放つ幻想的な青白い光に照らされた、静謐な泉だ。

「…………すごい」

 それまでハイテンションではしゃいでいたリサが、言葉を失って、ただ立ち尽くしていた。
 ランタンの光がなくても、周囲がぼんやりと見えるほどの明るさ。キラキラと光を反射する水面と、静寂の中に響く心地よい水音。そこは、俗世から切り離された、まさに聖域と呼ぶにふさわしい場所だった。

 リサは我に返ると、ゆっくりとカメラを構え直した。その表情は、先ほどまでのおふざけモードから一変し、真剣な「配信者」の顔つきになっている。

「ここは……本当に、日本なのかな。まるで、ずっと昔にプレイしたゲームの世界に、迷い込んじゃったみたい……」

 彼女は、この感動を視聴者にどう伝えればいいのか、言葉を選びながら、ゆっくりとレポートを始めた。その姿は、ただ面白いものを追いかけるだけの配信者ではなく、本物の美しさに触れた表現者のそれだった。
 一通り撮影を終えたリサは、ふぅ、と一つ息をつくと、俺に向き直った。その瞳は、興奮と感動で潤んでいるように見えた。

「田中さん……これ、マジでヤバいですよ。こんなすごい場所が、まだ誰にも知られてないなんて……」

「だから、言ったでしょう。専門家が見向きもしなかった、ただのハズレダンジョンだって」

 俺が自嘲気味に言うと、リサは力強く首を横に振った。

「ハズレなんかじゃない! お宝です、これは! 私、確信しました」

 彼女は俺の目をまっすぐに見て、満面の笑みで言い放った。

「この『ダンジョン民宿』、絶対にバズります!」

 その力強い言葉は、俺の心の奥底に眠っていた、社畜時代にすり減らしたはずの何かを、確実にかき立てていた。
 戸惑いながらも、自分の計画に初めて得た第三者からの確固たる「肯定」。
 それが、たまらなく嬉しかった。

 この嵐のような少女が、俺の人生を、そしてこの寂れた町を、本当に変えてしまうのかもしれない。
 そんな、バカげた予感が俺にはあった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。