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第1章 ダンジョン民宿、はじめました
第9話 町の温かさ
幻想的なダンジョン探検から戻ると、ちょうどお腹が空いてくる時間だった。
俺は少し得意げな気持ちで、エプロンを締め直した。
「お昼ご飯にしましょう。うちの名物料理です」
「もしかして……!」
健太くんの目が期待に満ちて輝く。
「リサさんの動画で見た、光るパスタ!?」
「正解」
俺がウインクしてみせると、健太くんは「やったー!」と飛び跳ねた。
その純粋な反応が嬉しくて、自然と頬が緩む。
すぐに台所に立ち、先日と同じように手際よく調理を進めていく。
今回は、山田さん一家が見ている前でのクッキングショーだ。ニシンが焼ける香ばしい匂いが漂い始めると、山田さんの旦那さんが「うわあ、これはお酒が飲みたくなりますねぇ」と喉を鳴らした。
そして、仕上げにゴブ吉が朝採ってきてくれた新鮮な光るキノコを投入。ソースの中で青白く輝くそれを見て、山田さん一家から「おおーっ」と歓声が上がる。
「はい、お待たせしました。『ニシンと光るキノコのトマトパスタ』、ご一行様分です!」
テーブルに並べられたパスタは、我ながら完璧な出来栄えだった。
「美味しい! こんなパスタ、初めて食べた!」
「本当だわ、あなた。ニシンってこんなにパスタに合うのね。このキノコも、不思議な食感で……美味しい!」
健太くんも、良子さんも、夢中になってパスタを頬張ってくれる。
旦那さんは、最大級の賛辞をくれた。
「いやはや、参りました。東京の一流イタリアンにも負けてませんよ、これ」
「でしょでしょー? 田中さんは、やればできるおじさんなんですよ!」
リサが自分のことのように胸を張る。おじさんは余計だ。
最高の昼食に満足した後は、少し休憩を挟んで、午後のアクティビティの時間だ。
「もしよろしければ、この町の海でも見に行きませんか。ここの夕日は、結構自慢なんです」
俺の提案に、山田さん一家は喜んで頷いてくれた。
歩いて数分の距離にある海岸は、観光地化されていない、ありのままの自然が残る場所だ。
雄大な日本海と、どこまでも続く青い空。都会の喧騒から離れたその景色に、山田さん夫妻は「なんだか、時間がゆっくり流れているみたいだ……」と、心から癒されている様子だった。
そんな時、防波堤の上で網の修理をしていた、いかつい顔の男がこちらに気づいて声をかけてきた。魚屋の大将だ。
「おう、雄介んとこの客か! 楽しんでるか!」
大将はニカッと歯を見せて笑うと、健太くんに手招きをした。
「坊主、これでも食ってみろ。今、焼いたばかりだ」
そう言って手渡してくれたのは、醤油の香ばしい匂いがする、熱々のツブ貝だった。
健太くんは、最初は少し驚いていたが、一口食べると「おいしい!」と目を輝かせた。
「素敵な町ですね、田中さん」
良子さんが、しみじみとした口調で言った。
「景色も素晴らしいですけど、何より、人がとても温かい。東京にいると、隣に誰が住んでいるかも知らないのが当たり前だったので……なんだか、忘れかけていたものを思い出させてもらった気がします」
その言葉は、俺自身の胸にも深く突き刺さった。
当たり前すぎて、気にも留めていなかった故郷の人の温かさ。それを、こうして都会から来た人に教えられるなんて。
夕方。俺たちは実家の庭で、夕食のバーベキューの準備を始めていた。
俺と山田さんの旦那さんで、慣れない手つきで火起こしをする。
「いやー、普段はパソコンの前で数字と睨めっこしているだけですから、こういうのは新鮮でいいですね」
「……分かります。私も、昨日までそうでした」
同じ「社畜」という経験を持つ俺たちには、多くを語らずとも通じ合うものがあった。
少し離れた場所では、リサと良子さん、健太くんが楽しそうに野菜を切っている。
すると、どこからともなくプルがやってきて、綺麗に洗った木の実をテーブルに「ぷるん」と置いた。さらに、ゴブ吉が、串焼きにちょうどいい太さの枝を何本も拾ってきて、俺たちの足元にそっと置く。
その光景に、山田さん一家はもう驚きもしない。ただ、おかしくて、愛おしくてたまらないといった表情で笑っていた。
人間とモンスター、そして自然。
そのすべてが当たり前のように調和している、不思議で温かい時間が流れていく。
やがて、太陽が日本海の水平線へと沈み始め、空一面をオレンジ色に染め上げた。
最高のロケーションで、網の上の食材がジュージューと音を立て始める。
「さあ、始めましょうか!」
俺がそう宣言した、まさにその時だった。
「おーい、お邪魔しますよー」
聞こえてきたのは、隣に住む鈴木さんの声だった。その隣には、どこか気まずそうな表情を浮かべた、役場の佐藤さんの姿もある。
「若いもんが集まって、何やら楽しそうなことしてるって聞いてな! 差し入れだ!」
鈴木さんは、地元の地酒の四合瓶を掲げて笑った。
「わ、私はあくまで、モニターツアーの公式な視察ですから! 決して、バーベキューの匂いにつられてきたわけでは……!」
そう言って顔を赤らめる佐藤さんの手にも、ちゃっかりと地元のクラフトビールのセットが握られていた。
こうして、宿泊客、家主、配信者、隣人、役場職員、そしてスライムとゴブリン。
そんな、ありえないほどカオスで、最高に楽しそうなメンバーによる、奇妙で盛大な宴の幕が上がったのだった。
俺は少し得意げな気持ちで、エプロンを締め直した。
「お昼ご飯にしましょう。うちの名物料理です」
「もしかして……!」
健太くんの目が期待に満ちて輝く。
「リサさんの動画で見た、光るパスタ!?」
「正解」
俺がウインクしてみせると、健太くんは「やったー!」と飛び跳ねた。
その純粋な反応が嬉しくて、自然と頬が緩む。
すぐに台所に立ち、先日と同じように手際よく調理を進めていく。
今回は、山田さん一家が見ている前でのクッキングショーだ。ニシンが焼ける香ばしい匂いが漂い始めると、山田さんの旦那さんが「うわあ、これはお酒が飲みたくなりますねぇ」と喉を鳴らした。
そして、仕上げにゴブ吉が朝採ってきてくれた新鮮な光るキノコを投入。ソースの中で青白く輝くそれを見て、山田さん一家から「おおーっ」と歓声が上がる。
「はい、お待たせしました。『ニシンと光るキノコのトマトパスタ』、ご一行様分です!」
テーブルに並べられたパスタは、我ながら完璧な出来栄えだった。
「美味しい! こんなパスタ、初めて食べた!」
「本当だわ、あなた。ニシンってこんなにパスタに合うのね。このキノコも、不思議な食感で……美味しい!」
健太くんも、良子さんも、夢中になってパスタを頬張ってくれる。
旦那さんは、最大級の賛辞をくれた。
「いやはや、参りました。東京の一流イタリアンにも負けてませんよ、これ」
「でしょでしょー? 田中さんは、やればできるおじさんなんですよ!」
リサが自分のことのように胸を張る。おじさんは余計だ。
最高の昼食に満足した後は、少し休憩を挟んで、午後のアクティビティの時間だ。
「もしよろしければ、この町の海でも見に行きませんか。ここの夕日は、結構自慢なんです」
俺の提案に、山田さん一家は喜んで頷いてくれた。
歩いて数分の距離にある海岸は、観光地化されていない、ありのままの自然が残る場所だ。
雄大な日本海と、どこまでも続く青い空。都会の喧騒から離れたその景色に、山田さん夫妻は「なんだか、時間がゆっくり流れているみたいだ……」と、心から癒されている様子だった。
そんな時、防波堤の上で網の修理をしていた、いかつい顔の男がこちらに気づいて声をかけてきた。魚屋の大将だ。
「おう、雄介んとこの客か! 楽しんでるか!」
大将はニカッと歯を見せて笑うと、健太くんに手招きをした。
「坊主、これでも食ってみろ。今、焼いたばかりだ」
そう言って手渡してくれたのは、醤油の香ばしい匂いがする、熱々のツブ貝だった。
健太くんは、最初は少し驚いていたが、一口食べると「おいしい!」と目を輝かせた。
「素敵な町ですね、田中さん」
良子さんが、しみじみとした口調で言った。
「景色も素晴らしいですけど、何より、人がとても温かい。東京にいると、隣に誰が住んでいるかも知らないのが当たり前だったので……なんだか、忘れかけていたものを思い出させてもらった気がします」
その言葉は、俺自身の胸にも深く突き刺さった。
当たり前すぎて、気にも留めていなかった故郷の人の温かさ。それを、こうして都会から来た人に教えられるなんて。
夕方。俺たちは実家の庭で、夕食のバーベキューの準備を始めていた。
俺と山田さんの旦那さんで、慣れない手つきで火起こしをする。
「いやー、普段はパソコンの前で数字と睨めっこしているだけですから、こういうのは新鮮でいいですね」
「……分かります。私も、昨日までそうでした」
同じ「社畜」という経験を持つ俺たちには、多くを語らずとも通じ合うものがあった。
少し離れた場所では、リサと良子さん、健太くんが楽しそうに野菜を切っている。
すると、どこからともなくプルがやってきて、綺麗に洗った木の実をテーブルに「ぷるん」と置いた。さらに、ゴブ吉が、串焼きにちょうどいい太さの枝を何本も拾ってきて、俺たちの足元にそっと置く。
その光景に、山田さん一家はもう驚きもしない。ただ、おかしくて、愛おしくてたまらないといった表情で笑っていた。
人間とモンスター、そして自然。
そのすべてが当たり前のように調和している、不思議で温かい時間が流れていく。
やがて、太陽が日本海の水平線へと沈み始め、空一面をオレンジ色に染め上げた。
最高のロケーションで、網の上の食材がジュージューと音を立て始める。
「さあ、始めましょうか!」
俺がそう宣言した、まさにその時だった。
「おーい、お邪魔しますよー」
聞こえてきたのは、隣に住む鈴木さんの声だった。その隣には、どこか気まずそうな表情を浮かべた、役場の佐藤さんの姿もある。
「若いもんが集まって、何やら楽しそうなことしてるって聞いてな! 差し入れだ!」
鈴木さんは、地元の地酒の四合瓶を掲げて笑った。
「わ、私はあくまで、モニターツアーの公式な視察ですから! 決して、バーベキューの匂いにつられてきたわけでは……!」
そう言って顔を赤らめる佐藤さんの手にも、ちゃっかりと地元のクラフトビールのセットが握られていた。
こうして、宿泊客、家主、配信者、隣人、役場職員、そしてスライムとゴブリン。
そんな、ありえないほどカオスで、最高に楽しそうなメンバーによる、奇妙で盛大な宴の幕が上がったのだった。
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