10 / 51
第1章 ダンジョン民宿、はじめました
第10話 星空の下のバーベキュー
「さあさあ、遠慮なさらず! 田中くんも、ほら!」
「雄介、酒は飲めるクチか? とっておきだぞ、これ」
突然の乱入者――もとい、歓迎すべきゲストの登場で、俺の家の庭は一気に賑やかさを増した。
俺は急いで椅子と皿を用意し、鈴木さんと佐藤さんをテーブルへと案内する。山田さん一家も、驚きつつも、人の良さそうな笑顔で二人を迎え入れてくれた。
こうして、総勢7名+モンスター2匹による、奇妙で盛大なバーベキューパーティーが、本格的に始まった。
網の上では、魚屋の大将がくれた特大のホッケが、パチパチと音を立てながら脂を滴らせている。八百屋のおばちゃんがくれた朝採れトウモロコシは、醤油を塗ると天国のような香りをあたりに振りまいた。
「うまいっ! なんだこのホッケ! 身がふわふわだ!」
「本当! 私が知ってるホッケと全然違うわ!」
山田さん夫妻が感動の声を上げる。
「だろう! うちの町の魚は日本一だ!」
鈴木さんが、自分のことのように胸を張って、鈴木さんが持ってきてくれた地酒をぐいっと煽った。
男たちは、すぐに意気投合した。
「山田さんも、東京では大変なんでしょう?」
「ええ、まあ……。田中さんこそ、あんな大きな会社を辞めるのは、すごい決断でしたね」
「いやいや、もう心身ともに限界で、逃げ出してきただけですよ」
地酒を酌み交わしながら、俺と山田さんの旦那さんは、お互いの社畜時代の苦労話に花を咲かせた。理不尽な上司、迫り来る納期、深夜のオフィスに響くキーボードの音。そんな話に、「分かります……」「ありましたねぇ、そういうこと……」と、深く頷き合うのだった。
一方、女性陣もまた、別のテーブルで盛り上がっていた。
「それで佐藤さん! 役場的には、このダンジョン民宿、ぶっちゃけどうなんですか? イケると思います?」
リサが佐藤さんに小型カメラを向けながら突撃インタビューを敢行している。
「こ、公務員の立場としては、前例がない以上、慎重にならざるを得ませんが……」
佐藤さんは、差し入れのクラフトビールを一口飲むと、ふぅ、と息をついた。
「でも……こうして皆さんが笑顔で、地元の食材を美味しいって食べてくださっているのを見ると……大きな可能性を、感じずにはいられませんね」
その声には、彼女のこの町への想いが滲んでいた。
鈴木さんは、健太くんを隣に座らせ、俺の子供の頃のやんちゃ話や、この町に昔から伝わる伝説などを聞かせている。健太くんは、目をキラキラさせながら、その話に聞き入っていた。
そんな賑やかな宴を、プルは健太くんの足元で嬉しそうにぷるぷると揺れながら見守り、ゴブ吉はいつの間にか、皆が食べ終えた後の空いた串を一本ずつ集めて片付けるという、健気すぎる働きぶりを発揮していた。
やがて、宴もたけなわの頃。
ふと誰かが空を見上げた。
「……うわあ」
そこには、言葉を失うほどの、満点の星空が広がっていた。
町の明かりが少ないおかげで、天の川まではっきりと見える。無数の星が、まるで宝石を散りばめたように、漆黒のキャンバスの上で瞬いていた。
都会のネオンサインとは比べ物にならない、本物の光の洪水。
しばらく、誰もが口を開かず、ただただその美しい夜空に見入っていた。
やがて、健太くんが、ぽつりと呟いた。
「……帰りたくないな」
その小さな声は、この場の全員の心に、優しく響いた。
良子さんが、愛おしそうに健太くんの頭を撫でる。
山田さんの旦那さんが、俺の方を見て、少し照れくさそうに言った。
「田中さん。正直に言うと、最初はリサさんの動画の勢いに乗せられただけで、半信半疑だったんです。でも、本当に来てよかった。息子がこんなに楽しそうな顔をしているのは、本当に久しぶりなんですよ。私たち夫婦も、なんだか日々の疲れが全部どこかへ飛んでいってしまった気がします」
「本当に、ありがとうございました」
良子さんが、深々と頭を下げた。
その言葉に、俺の胸の奥が、熱くなった。
金のためじゃない。出世のためでもない。ただ、誰かが喜んでくれる。誰かの心を、少しだけ軽くできる。
社畜として走り続けてきた俺が、すっかり失いかけていた「やりがい」という名の温かい感情が、今、確かに俺の心を満たしていた。
ここは、ただの宿じゃない。
訪れた人の心を癒し、人と人とを繋ぐ、そんな場所になれるのかもしれない。
俺がそんな感動に浸っていると、リサがニヤリと笑って、パン、と手を叩いた。
「さて、皆さん! このまま寝るのはもったいないですよ! とっておきのナイトキャップと参りましょう!」
彼女は悪戯っぽく笑い、洞窟の方を指さした。
「せっかくだから、夜のダンジョンを探検してみませんか? あの光る苔、夜はもっともっと、綺麗かもですよ?」
その提案に、健太くんの目がカッと見開かれた。
そして、それは子供だけでなく、ここにいる大人たちの冒険心をもくすぐるのだった。
「雄介、酒は飲めるクチか? とっておきだぞ、これ」
突然の乱入者――もとい、歓迎すべきゲストの登場で、俺の家の庭は一気に賑やかさを増した。
俺は急いで椅子と皿を用意し、鈴木さんと佐藤さんをテーブルへと案内する。山田さん一家も、驚きつつも、人の良さそうな笑顔で二人を迎え入れてくれた。
こうして、総勢7名+モンスター2匹による、奇妙で盛大なバーベキューパーティーが、本格的に始まった。
網の上では、魚屋の大将がくれた特大のホッケが、パチパチと音を立てながら脂を滴らせている。八百屋のおばちゃんがくれた朝採れトウモロコシは、醤油を塗ると天国のような香りをあたりに振りまいた。
「うまいっ! なんだこのホッケ! 身がふわふわだ!」
「本当! 私が知ってるホッケと全然違うわ!」
山田さん夫妻が感動の声を上げる。
「だろう! うちの町の魚は日本一だ!」
鈴木さんが、自分のことのように胸を張って、鈴木さんが持ってきてくれた地酒をぐいっと煽った。
男たちは、すぐに意気投合した。
「山田さんも、東京では大変なんでしょう?」
「ええ、まあ……。田中さんこそ、あんな大きな会社を辞めるのは、すごい決断でしたね」
「いやいや、もう心身ともに限界で、逃げ出してきただけですよ」
地酒を酌み交わしながら、俺と山田さんの旦那さんは、お互いの社畜時代の苦労話に花を咲かせた。理不尽な上司、迫り来る納期、深夜のオフィスに響くキーボードの音。そんな話に、「分かります……」「ありましたねぇ、そういうこと……」と、深く頷き合うのだった。
一方、女性陣もまた、別のテーブルで盛り上がっていた。
「それで佐藤さん! 役場的には、このダンジョン民宿、ぶっちゃけどうなんですか? イケると思います?」
リサが佐藤さんに小型カメラを向けながら突撃インタビューを敢行している。
「こ、公務員の立場としては、前例がない以上、慎重にならざるを得ませんが……」
佐藤さんは、差し入れのクラフトビールを一口飲むと、ふぅ、と息をついた。
「でも……こうして皆さんが笑顔で、地元の食材を美味しいって食べてくださっているのを見ると……大きな可能性を、感じずにはいられませんね」
その声には、彼女のこの町への想いが滲んでいた。
鈴木さんは、健太くんを隣に座らせ、俺の子供の頃のやんちゃ話や、この町に昔から伝わる伝説などを聞かせている。健太くんは、目をキラキラさせながら、その話に聞き入っていた。
そんな賑やかな宴を、プルは健太くんの足元で嬉しそうにぷるぷると揺れながら見守り、ゴブ吉はいつの間にか、皆が食べ終えた後の空いた串を一本ずつ集めて片付けるという、健気すぎる働きぶりを発揮していた。
やがて、宴もたけなわの頃。
ふと誰かが空を見上げた。
「……うわあ」
そこには、言葉を失うほどの、満点の星空が広がっていた。
町の明かりが少ないおかげで、天の川まではっきりと見える。無数の星が、まるで宝石を散りばめたように、漆黒のキャンバスの上で瞬いていた。
都会のネオンサインとは比べ物にならない、本物の光の洪水。
しばらく、誰もが口を開かず、ただただその美しい夜空に見入っていた。
やがて、健太くんが、ぽつりと呟いた。
「……帰りたくないな」
その小さな声は、この場の全員の心に、優しく響いた。
良子さんが、愛おしそうに健太くんの頭を撫でる。
山田さんの旦那さんが、俺の方を見て、少し照れくさそうに言った。
「田中さん。正直に言うと、最初はリサさんの動画の勢いに乗せられただけで、半信半疑だったんです。でも、本当に来てよかった。息子がこんなに楽しそうな顔をしているのは、本当に久しぶりなんですよ。私たち夫婦も、なんだか日々の疲れが全部どこかへ飛んでいってしまった気がします」
「本当に、ありがとうございました」
良子さんが、深々と頭を下げた。
その言葉に、俺の胸の奥が、熱くなった。
金のためじゃない。出世のためでもない。ただ、誰かが喜んでくれる。誰かの心を、少しだけ軽くできる。
社畜として走り続けてきた俺が、すっかり失いかけていた「やりがい」という名の温かい感情が、今、確かに俺の心を満たしていた。
ここは、ただの宿じゃない。
訪れた人の心を癒し、人と人とを繋ぐ、そんな場所になれるのかもしれない。
俺がそんな感動に浸っていると、リサがニヤリと笑って、パン、と手を叩いた。
「さて、皆さん! このまま寝るのはもったいないですよ! とっておきのナイトキャップと参りましょう!」
彼女は悪戯っぽく笑い、洞窟の方を指さした。
「せっかくだから、夜のダンジョンを探検してみませんか? あの光る苔、夜はもっともっと、綺麗かもですよ?」
その提案に、健太くんの目がカッと見開かれた。
そして、それは子供だけでなく、ここにいる大人たちの冒険心をもくすぐるのだった。
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。