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第2章 不器用なカップルとお節介な宿
第16話 看板と恋の予約
「よーし、こんなもんか……!」
夏の終わりの日差しが降り注ぐ中、俺は、汗だくになりながら一本の木の杭を地面に打ち込んでいた。古民家へと続く道の入り口。
そこに手作りの看板を設置したのだ。
【ダンジョン民宿 ゆうすけ荘】
不格好だが、温かみのある文字。これは、先日泊まりに来てくれたアキラさんが、お礼にとデザインしてくれたものだ。
彼は東京に戻ってから、再び音楽活動を始めたらしい。「いつか、この民宿のテーマソングを作らせてください」なんて、嬉しい手紙も届いた。
「ぷるぷる!」
「キー!」
足元ではプルが応援するように跳ね、少し離れた場所ではゴブ吉が、まるで監督のように腕を組んで杭の傾きをチェックしている。
本当に奇妙で平和な光景だ。
「おー、ご主人! いい感じじゃないですか、その看板!」
縁側でノートパソコンを叩いていたリサが、麦わら帽子を揺らしながら駆け寄ってきた。彼女はあの後、なんだかんだと理由をつけてこの「ゆうすけ荘」に居着き、今や民宿の企画広報兼ムードメーカーとして、なくてはならない存在になっていた。
「これで、うちも少しは宿っぽくなっただろ」
「ですね! あ、ちょうど今、新しい予約のDMが来ましたよ!」
リサがスマホの画面を俺に見せる。
彼女が運営する俺の民宿の特集チャンネルは、今やちょっとした人気コンテンツになっていた。山田さん一家の心温まる滞在記や、アキラさんのミステリアスな訪問は、多くの視聴者の心を掴んだようだ。
「今度の予約は……っと、高橋健太さん、25歳。東京から……おおっ!」
リサが、何か面白いものを見つけたように目を輝かせた。
「『リサさんの動画、全部見ました! 僕も、彼女へのサプライズ旅行として、この民宿を予約したいんです!』ですって! いやーん、恋の予感!」
「こ、恋……」
その単語に、俺の心臓が少しだけキュッとなる。社畜時代、そんな甘酸っぱいイベントとは完全に無縁の人生を送ってきたからだ。
「いいじゃないですか、サプライズ旅行! 全力で応援してあげましょうよ!」
「いや、しかし、俺たちにそんな大役が務まるのか……?」
「大丈夫ですって! 任せてください! 私、人の恋バナには目がないんです!」
リサは完全に乗り気だった。
俺も、誰かの幸せな瞬間のために、この場所が使われるというのは、素直に嬉しい。山田さん一家やアキラさんとはまた違う、新しいおもてなしの形に挑戦できるかもしれない。
「……分かった。受けよう。最高のサプライズ旅行になるように、俺たちも協力するぞ」
「さっすがご主人! 話が分かりますね!」
こうして、俺たちは数日後にやってくるであろう、高橋健太さんとその彼女のために、計画を練り始めた。
「サプライズなら、やっぱりお部屋の飾り付けとかですかね?」
「料理も、普段よりちょっとオシャレな感じにするか。ハート型のハンバーグとかか?」
「ベタすぎません、それ?」
「うるさい!」
プルやゴブ吉まで会議に加わる。もちろん聞いているだけだが。
あーでもない、こーでもないと話し合う時間は、文化祭の前日のようで、不思議と心が躍った。
そして、約束の週末。
俺とリサは、新しく立てた看板の前で、今か今かとお客様の到着を待っていた。
やがて、一台のレンタカーが、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
俺は、練習した通りの、最高の笑顔で出迎える準備をした。
「ようこそ、ダンジョン民宿へ!」
車から降りてきたのは、人の良さそうな、少し気弱そうな顔つきの青年――高橋健太さんだった。そして、助手席から降りてきたのは、少し不機嫌そうな顔をした、可愛らしい女性。おそらく、彼女の鈴木沙耶さんだろう。
「あ、ど、どうも! 高橋です! お世話になります!」
健太さんはガチガチに緊張している。
その隣で、沙耶さんは「……どうも」と小さく会釈しただけで、腕を組んでそっぽを向いてしまった。
あれ……? なんだ、この空気……。
俺とリサは、顔を見合わせた。
歓迎ムード全開の俺たちの前に広がる、想像とは全く違う、どんよりと、そしてギクシャクした空気。
これは……もしかして、とんでもなく前途多難な恋の応援が始まってしまうのではないか?
俺の脳内に、社畜時代に培われたトラブル発生時の警報が、けたたましく鳴り響いていた。
夏の終わりの日差しが降り注ぐ中、俺は、汗だくになりながら一本の木の杭を地面に打ち込んでいた。古民家へと続く道の入り口。
そこに手作りの看板を設置したのだ。
【ダンジョン民宿 ゆうすけ荘】
不格好だが、温かみのある文字。これは、先日泊まりに来てくれたアキラさんが、お礼にとデザインしてくれたものだ。
彼は東京に戻ってから、再び音楽活動を始めたらしい。「いつか、この民宿のテーマソングを作らせてください」なんて、嬉しい手紙も届いた。
「ぷるぷる!」
「キー!」
足元ではプルが応援するように跳ね、少し離れた場所ではゴブ吉が、まるで監督のように腕を組んで杭の傾きをチェックしている。
本当に奇妙で平和な光景だ。
「おー、ご主人! いい感じじゃないですか、その看板!」
縁側でノートパソコンを叩いていたリサが、麦わら帽子を揺らしながら駆け寄ってきた。彼女はあの後、なんだかんだと理由をつけてこの「ゆうすけ荘」に居着き、今や民宿の企画広報兼ムードメーカーとして、なくてはならない存在になっていた。
「これで、うちも少しは宿っぽくなっただろ」
「ですね! あ、ちょうど今、新しい予約のDMが来ましたよ!」
リサがスマホの画面を俺に見せる。
彼女が運営する俺の民宿の特集チャンネルは、今やちょっとした人気コンテンツになっていた。山田さん一家の心温まる滞在記や、アキラさんのミステリアスな訪問は、多くの視聴者の心を掴んだようだ。
「今度の予約は……っと、高橋健太さん、25歳。東京から……おおっ!」
リサが、何か面白いものを見つけたように目を輝かせた。
「『リサさんの動画、全部見ました! 僕も、彼女へのサプライズ旅行として、この民宿を予約したいんです!』ですって! いやーん、恋の予感!」
「こ、恋……」
その単語に、俺の心臓が少しだけキュッとなる。社畜時代、そんな甘酸っぱいイベントとは完全に無縁の人生を送ってきたからだ。
「いいじゃないですか、サプライズ旅行! 全力で応援してあげましょうよ!」
「いや、しかし、俺たちにそんな大役が務まるのか……?」
「大丈夫ですって! 任せてください! 私、人の恋バナには目がないんです!」
リサは完全に乗り気だった。
俺も、誰かの幸せな瞬間のために、この場所が使われるというのは、素直に嬉しい。山田さん一家やアキラさんとはまた違う、新しいおもてなしの形に挑戦できるかもしれない。
「……分かった。受けよう。最高のサプライズ旅行になるように、俺たちも協力するぞ」
「さっすがご主人! 話が分かりますね!」
こうして、俺たちは数日後にやってくるであろう、高橋健太さんとその彼女のために、計画を練り始めた。
「サプライズなら、やっぱりお部屋の飾り付けとかですかね?」
「料理も、普段よりちょっとオシャレな感じにするか。ハート型のハンバーグとかか?」
「ベタすぎません、それ?」
「うるさい!」
プルやゴブ吉まで会議に加わる。もちろん聞いているだけだが。
あーでもない、こーでもないと話し合う時間は、文化祭の前日のようで、不思議と心が躍った。
そして、約束の週末。
俺とリサは、新しく立てた看板の前で、今か今かとお客様の到着を待っていた。
やがて、一台のレンタカーが、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
俺は、練習した通りの、最高の笑顔で出迎える準備をした。
「ようこそ、ダンジョン民宿へ!」
車から降りてきたのは、人の良さそうな、少し気弱そうな顔つきの青年――高橋健太さんだった。そして、助手席から降りてきたのは、少し不機嫌そうな顔をした、可愛らしい女性。おそらく、彼女の鈴木沙耶さんだろう。
「あ、ど、どうも! 高橋です! お世話になります!」
健太さんはガチガチに緊張している。
その隣で、沙耶さんは「……どうも」と小さく会釈しただけで、腕を組んでそっぽを向いてしまった。
あれ……? なんだ、この空気……。
俺とリサは、顔を見合わせた。
歓迎ムード全開の俺たちの前に広がる、想像とは全く違う、どんよりと、そしてギクシャクした空気。
これは……もしかして、とんでもなく前途多難な恋の応援が始まってしまうのではないか?
俺の脳内に、社畜時代に培われたトラブル発生時の警報が、けたたましく鳴り響いていた。
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