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第3章 おじさん、配信サイトにデビューさせられる!?
第24話 予期せぬ珍客
俺の不本意な動画配信者デビューが決定した翌朝。
俺は、ひどい寝不足と、鉛のように重い体を引きずって目を覚ました。夢にまで見たのだ。 カメラの前でガチガチに緊張し、何も喋れずに放送事故を起こす悪夢を。
一方、俺の憂鬱などお構いなしに、リサは朝から絶好調だった。
「さあ、ご主人! 記念すべきピクニコ動画デビューの日ですよ! 今日からあなたは、ただのおじさんじゃなく、クリエイターの仲間入りです!」
彼女は、いつもより少し本格的なミラーレスカメラを首から下げ、目を輝かせている。ピクニコ動画、略してピクニコ。それは、リサがメインで活動している、今若者に人気の動画配信サイトらしい。俺には縁のない世界だ。
本日の撮影テーマは、『【ダンジョン民宿の日常①】ご主人とモンスターたちの心温まる朝』だという。
「まずは、ご主人がプルやゴブ吉と触れ合う、自然な姿を撮ります! ありのままの田中さんを見せてください!」
「自然な姿って言われてもな……」
カメラという、無機質で巨大な一つ目を向けられた瞬間、俺の体は完全に石化した。
リサの指示通り、プルにご飯――ただの水に砂糖をほんの少し溶かしたものをあげようとするが、動きがロボットのようにぎこちない。
「プ、プル……お、おはよう……。ご、ご飯だぞ……」
声が情けないくらいに震えている。
プルも、いつもと違う俺の様子と、レンズの奥で光る目に戸惑っているのか、そろそろと後ずさりして、柱の影に隠れてしまった。
「だーっ! だめだー! ご主人、ガッチガチじゃないですか! プルちゃんも怯えちゃってるし!」
リサが頭を抱えて叫んだ。
「次はゴブ吉だ! 庭掃除をしているゴブ吉に、労いの言葉をかける感じで!」
「お、おう……」
俺は、庭で健気に箒を使っているゴブ吉に近づく。
「ご、ゴブ吉……。い、いつも、ありがとうな……」
カメラを向けられたゴブ吉は、緊張のあまり「キッ!?」と奇妙な声を上げると、大事な箒をぽとりと落とし、電光石火の速さで茂みの中へと消えていった。
「……もう、嫌だ。帰りたい」
俺がその場にしゃがみ込むと、リサは「まだ始まったばかりですよ!」と俺の腕を引っ張った。
「分かりました! 気分を変えましょう! 次は、ご主人の独壇場、ダンジョン案内です! これなら得意でしょ!」
リサはそう言って、一枚のメモ用紙を俺に突きつけてきた。そこには、彼女が考えたであろう、即席の台本が書かれていた。
「えーと……『この光る苔はですね、学名を“ルサモエニウム・ルミナス”と言いまして、このダンジョンにしか自生しない、大変希少な……』」
「こんな学名あるわけないだろ! 適当なこと言うな!」
「雰囲気ですよ、雰囲気! ファンタジーには、それっぽい設定が必要なんです!」
俺は、半ばヤケクソになりながら、台本を片手にダンジョンの中へと入った。
リサがカメラを回し始める。
「は、はい、どーも。田中です……。コ、コチラガ……ヒカルコケデス……。ガクメイハ……」
あまりの棒読みに、自分で言っていて悲しくなってくる。
見かねたリサが、たまらずカットをかけた。
「だめです、ご主人! もっと感情を込めて! この苔への、愛を語る感じでお願いします!」
「苔に愛なんてないわ!」
思わずキレた、その時だった。
俺たちが口論している通路の奥から、ひょっこりと、今まで見たことのないモンスターが顔を出した。
それは、子ウサギくらいの大きさで、全身がタンポポの綿毛のようにふわふわとした毛で覆われている。そして、一番の特徴は、その背中に、ちょこんと可愛らしい小さなキノコが一本、生えていることだった。
「「……え?」」
俺とリサは、口論していたのも忘れ、そのあまりの可愛らしさに動きを止めた。
新種のモンスターは、俺たちを警戒するでもなく、てちてちと短い足で歩いてくると、俺が手に持っていたランタンの紐を、くんくん、と不思議そうに嗅ぎ始めた。
「……なんだ、お前。可愛いな……」
俺は、カメラの存在などすっかり忘れ、思わずその場にしゃがみ込んでいた。
その生き物は、俺の声に安心したのか、ぴょんと軽く跳ねると、あろうことか、俺の膝の上にごく自然に乗ってきたのだ。
ふわふわの毛の感触が膝に伝わる。
「ははっ、人懐っこいんだな、お前は」
俺は、自然と笑みがこぼれ、その生き物――キノコうさぎとでも命名し、柔らかい背中を優しく撫でた。キノコうさぎは、気持ちよさそうに目を細めている。
でも、まさかリサがこの場面すら気配を押し殺して、撮っていたとは……。
不本意極まりないピクニコ動画デビューは、予期せぬふわふわの珍客のおかげで、思わぬ奇跡のワンシーンを捉えることに成功していた。
この映像が、一体どんな反響を呼ぶのか。
俺は、ひどい寝不足と、鉛のように重い体を引きずって目を覚ました。夢にまで見たのだ。 カメラの前でガチガチに緊張し、何も喋れずに放送事故を起こす悪夢を。
一方、俺の憂鬱などお構いなしに、リサは朝から絶好調だった。
「さあ、ご主人! 記念すべきピクニコ動画デビューの日ですよ! 今日からあなたは、ただのおじさんじゃなく、クリエイターの仲間入りです!」
彼女は、いつもより少し本格的なミラーレスカメラを首から下げ、目を輝かせている。ピクニコ動画、略してピクニコ。それは、リサがメインで活動している、今若者に人気の動画配信サイトらしい。俺には縁のない世界だ。
本日の撮影テーマは、『【ダンジョン民宿の日常①】ご主人とモンスターたちの心温まる朝』だという。
「まずは、ご主人がプルやゴブ吉と触れ合う、自然な姿を撮ります! ありのままの田中さんを見せてください!」
「自然な姿って言われてもな……」
カメラという、無機質で巨大な一つ目を向けられた瞬間、俺の体は完全に石化した。
リサの指示通り、プルにご飯――ただの水に砂糖をほんの少し溶かしたものをあげようとするが、動きがロボットのようにぎこちない。
「プ、プル……お、おはよう……。ご、ご飯だぞ……」
声が情けないくらいに震えている。
プルも、いつもと違う俺の様子と、レンズの奥で光る目に戸惑っているのか、そろそろと後ずさりして、柱の影に隠れてしまった。
「だーっ! だめだー! ご主人、ガッチガチじゃないですか! プルちゃんも怯えちゃってるし!」
リサが頭を抱えて叫んだ。
「次はゴブ吉だ! 庭掃除をしているゴブ吉に、労いの言葉をかける感じで!」
「お、おう……」
俺は、庭で健気に箒を使っているゴブ吉に近づく。
「ご、ゴブ吉……。い、いつも、ありがとうな……」
カメラを向けられたゴブ吉は、緊張のあまり「キッ!?」と奇妙な声を上げると、大事な箒をぽとりと落とし、電光石火の速さで茂みの中へと消えていった。
「……もう、嫌だ。帰りたい」
俺がその場にしゃがみ込むと、リサは「まだ始まったばかりですよ!」と俺の腕を引っ張った。
「分かりました! 気分を変えましょう! 次は、ご主人の独壇場、ダンジョン案内です! これなら得意でしょ!」
リサはそう言って、一枚のメモ用紙を俺に突きつけてきた。そこには、彼女が考えたであろう、即席の台本が書かれていた。
「えーと……『この光る苔はですね、学名を“ルサモエニウム・ルミナス”と言いまして、このダンジョンにしか自生しない、大変希少な……』」
「こんな学名あるわけないだろ! 適当なこと言うな!」
「雰囲気ですよ、雰囲気! ファンタジーには、それっぽい設定が必要なんです!」
俺は、半ばヤケクソになりながら、台本を片手にダンジョンの中へと入った。
リサがカメラを回し始める。
「は、はい、どーも。田中です……。コ、コチラガ……ヒカルコケデス……。ガクメイハ……」
あまりの棒読みに、自分で言っていて悲しくなってくる。
見かねたリサが、たまらずカットをかけた。
「だめです、ご主人! もっと感情を込めて! この苔への、愛を語る感じでお願いします!」
「苔に愛なんてないわ!」
思わずキレた、その時だった。
俺たちが口論している通路の奥から、ひょっこりと、今まで見たことのないモンスターが顔を出した。
それは、子ウサギくらいの大きさで、全身がタンポポの綿毛のようにふわふわとした毛で覆われている。そして、一番の特徴は、その背中に、ちょこんと可愛らしい小さなキノコが一本、生えていることだった。
「「……え?」」
俺とリサは、口論していたのも忘れ、そのあまりの可愛らしさに動きを止めた。
新種のモンスターは、俺たちを警戒するでもなく、てちてちと短い足で歩いてくると、俺が手に持っていたランタンの紐を、くんくん、と不思議そうに嗅ぎ始めた。
「……なんだ、お前。可愛いな……」
俺は、カメラの存在などすっかり忘れ、思わずその場にしゃがみ込んでいた。
その生き物は、俺の声に安心したのか、ぴょんと軽く跳ねると、あろうことか、俺の膝の上にごく自然に乗ってきたのだ。
ふわふわの毛の感触が膝に伝わる。
「ははっ、人懐っこいんだな、お前は」
俺は、自然と笑みがこぼれ、その生き物――キノコうさぎとでも命名し、柔らかい背中を優しく撫でた。キノコうさぎは、気持ちよさそうに目を細めている。
でも、まさかリサがこの場面すら気配を押し殺して、撮っていたとは……。
不本意極まりないピクニコ動画デビューは、予期せぬふわふわの珍客のおかげで、思わぬ奇跡のワンシーンを捉えることに成功していた。
この映像が、一体どんな反響を呼ぶのか。
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