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第3章 おじさん、配信サイトにデビューさせられる!?
第27話 難しい話より、トマトが好き
専門家からの、あまりにも本格的すぎるコメント。
俺の目の前には、「学術調査への協力依頼」だの、「共同研究の申し入れ」だの、「論文執筆のための現地取材」だの、想像するだけで胃が痛くなるような、面倒くさい未来予想図が広がっていた。
「うわー……。絶対、ややこしいことになるやつだ……」
俺は思わず縁側にごろりと寝転がった。
「俺はただ、静かに、のんびり民宿の主人をやりたいだけなんだがなあ……」
「でも、すごいチャンスじゃないですか、ご主人!」
リサは、まだ少し興奮が冷めやらない様子だ。
「大学の先生のお墨付きがもらえたら、うちのダンジョン民宿のブランド価値は爆上がりですよ! 学術的にも価値のある、唯一無二の宿に……!」
「荷が重すぎるわ!」
俺は、大の字になって空を見上げた。
北海道の空は、どこまでも青くて広い。それなのに、俺の心は、どんどん狭く窮屈になっていく気がした。
俺とリサが、ああでもない、こうでもないと口論を繰り広げていた、その時だった。
ひょっこり、と縁側のすぐそばの茂みから、あのキノコうさぎが顔を出した。
しかも、今回は一匹だけではない。その後ろから、さらに小さな、手のひらサイズのキノコうさぎが二匹、てちてちとついてくる。
「「……え?」」
俺とリサは、同時に動きを止めた。
どうやら、親子だったらしい。
親うさぎの後を、一生懸命ついて歩く子うさぎたち。時々、おぼつかない足取りで転びそうになりながらも、三匹で寄り添って歩く姿は、もはや反則的な可愛さだった。
子うさぎの一匹が、俺が庭で育てている家庭菜園の真っ赤に実ったミニトマトに気づいたらしい。おそるおそる近づくと、その小さな前足で、ミニトマトの実に、ちょい、ちょい、と触れている。
その光景を見た瞬間。
俺の頭を悩ませていた「共生茸」だの「大学の先生」だの、そういう難しいことが、すべて、すぅーっとどうでもよくなってしまった。
「……はぁ。かわいいな、おい」
俺は、ゆっくりと体を起こすと、ミニトマトを一つ、ぷちりと摘み取った。そして、キノコうさぎの親子の前に、そっと転がしてやる。
三匹は、最初だけ少し驚いたように後ずさったが、すぐにそれが食べ物だと理解したらしい。小さな口を寄せ合い、夢中になってトマトをつつき始めた。
その姿が、あまりにも愛おしくて。
俺は、無意識のうちにスマホを取り出し、カメラを向けていた。配信のためじゃない。誰かに見せるためでもない。
ただ、個人的に、このかけがえのない瞬間を、記憶と記録に残しておきたかったのだ。
そんな俺の様子を見て、隣にいたリサも、ハッとしたように、ふわりと微笑んだ。
「……そうですよね。難しい理屈をこねくり回すより、こっちの方が、ずっとずっと大事ですよね」
彼女は、俺にスマホを手渡した。
ピクニコ動画の、あの専門家からのコメント欄が開かれている。
「先生への返信、どうします?」
リサからスマホを受け取ると、少しだけ考えた後、自分の指で、ゆっくりと返信の文章を打ち込み始めた。
『大学の先生、わざわざコメントをいただき、ありがとうございます。ですが、俺たちには、難しいことはよく分かりません。ただ、今日、分かったことが一つだけあります』
俺は、目の前で幸せそうにトマトを食べるキノコうさぎの親子に、もう一度目を向けた。
『この子たちは、親子で、トマトが好きで、そして、めちゃくちゃ可愛いです。俺にとっては、もう、それで十分じゃないかな、と思います。俺は、この子たちが、これからも安心してトマトを食べられるように、このダンジョンを静かに守っていこうと思います』
これが俺の答えだった。
不器用で、学もなくて、何のひねりもない。だが、嘘偽りのない俺の本心だった。
俺が打ち終えた返信を見て、リサは一瞬きょとんとした後、すぐにくしゃっとした笑顔になった。
「ご主人……。最高です、その返事!」
ああ、よかった。
これで専門的なややこしい話は一件落着だ。明日からまた、平和な日常が戻ってくる。
俺の目の前には、「学術調査への協力依頼」だの、「共同研究の申し入れ」だの、「論文執筆のための現地取材」だの、想像するだけで胃が痛くなるような、面倒くさい未来予想図が広がっていた。
「うわー……。絶対、ややこしいことになるやつだ……」
俺は思わず縁側にごろりと寝転がった。
「俺はただ、静かに、のんびり民宿の主人をやりたいだけなんだがなあ……」
「でも、すごいチャンスじゃないですか、ご主人!」
リサは、まだ少し興奮が冷めやらない様子だ。
「大学の先生のお墨付きがもらえたら、うちのダンジョン民宿のブランド価値は爆上がりですよ! 学術的にも価値のある、唯一無二の宿に……!」
「荷が重すぎるわ!」
俺は、大の字になって空を見上げた。
北海道の空は、どこまでも青くて広い。それなのに、俺の心は、どんどん狭く窮屈になっていく気がした。
俺とリサが、ああでもない、こうでもないと口論を繰り広げていた、その時だった。
ひょっこり、と縁側のすぐそばの茂みから、あのキノコうさぎが顔を出した。
しかも、今回は一匹だけではない。その後ろから、さらに小さな、手のひらサイズのキノコうさぎが二匹、てちてちとついてくる。
「「……え?」」
俺とリサは、同時に動きを止めた。
どうやら、親子だったらしい。
親うさぎの後を、一生懸命ついて歩く子うさぎたち。時々、おぼつかない足取りで転びそうになりながらも、三匹で寄り添って歩く姿は、もはや反則的な可愛さだった。
子うさぎの一匹が、俺が庭で育てている家庭菜園の真っ赤に実ったミニトマトに気づいたらしい。おそるおそる近づくと、その小さな前足で、ミニトマトの実に、ちょい、ちょい、と触れている。
その光景を見た瞬間。
俺の頭を悩ませていた「共生茸」だの「大学の先生」だの、そういう難しいことが、すべて、すぅーっとどうでもよくなってしまった。
「……はぁ。かわいいな、おい」
俺は、ゆっくりと体を起こすと、ミニトマトを一つ、ぷちりと摘み取った。そして、キノコうさぎの親子の前に、そっと転がしてやる。
三匹は、最初だけ少し驚いたように後ずさったが、すぐにそれが食べ物だと理解したらしい。小さな口を寄せ合い、夢中になってトマトをつつき始めた。
その姿が、あまりにも愛おしくて。
俺は、無意識のうちにスマホを取り出し、カメラを向けていた。配信のためじゃない。誰かに見せるためでもない。
ただ、個人的に、このかけがえのない瞬間を、記憶と記録に残しておきたかったのだ。
そんな俺の様子を見て、隣にいたリサも、ハッとしたように、ふわりと微笑んだ。
「……そうですよね。難しい理屈をこねくり回すより、こっちの方が、ずっとずっと大事ですよね」
彼女は、俺にスマホを手渡した。
ピクニコ動画の、あの専門家からのコメント欄が開かれている。
「先生への返信、どうします?」
リサからスマホを受け取ると、少しだけ考えた後、自分の指で、ゆっくりと返信の文章を打ち込み始めた。
『大学の先生、わざわざコメントをいただき、ありがとうございます。ですが、俺たちには、難しいことはよく分かりません。ただ、今日、分かったことが一つだけあります』
俺は、目の前で幸せそうにトマトを食べるキノコうさぎの親子に、もう一度目を向けた。
『この子たちは、親子で、トマトが好きで、そして、めちゃくちゃ可愛いです。俺にとっては、もう、それで十分じゃないかな、と思います。俺は、この子たちが、これからも安心してトマトを食べられるように、このダンジョンを静かに守っていこうと思います』
これが俺の答えだった。
不器用で、学もなくて、何のひねりもない。だが、嘘偽りのない俺の本心だった。
俺が打ち終えた返信を見て、リサは一瞬きょとんとした後、すぐにくしゃっとした笑顔になった。
「ご主人……。最高です、その返事!」
ああ、よかった。
これで専門的なややこしい話は一件落着だ。明日からまた、平和な日常が戻ってくる。
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