田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

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第3章 おじさん、配信サイトにデビューさせられる!?

第28話 長文の予約客

 キノコうさぎの親子が、満足げにトマトを食べ終え、森の中へと帰っていく。

 俺が、心から安堵のため息をついた、まさにその時だった。
 ピロリン♪ と、リサのスマホから、間抜けな通知音が鳴った。彼女がスマホの画面を確認した途端、その眉が、きゅっと寄せられた。

「どうしたんだ?」

「た、田中さん、大変です! ピクニコ動画じゃないです! 今度は、うちの民宿の公式予約フォームに……なんだか、ものすごい長文のメッセージが届いてるんですけど……!」

 リサから手渡されたスマホの画面には、スクロールしても、スクロールしても、なかなか終わりが見えない、とんでもない量の文章が表示されていた。

 送り主の名前は「斉藤」とだけある。
 その内容は、時候の挨拶から始まり、日本のものづくりの精神がいかに素晴らしいか、という情熱的な語り、そして、ご自身の仕事に対する哲学と誇りについてが、全体の8割を占めていた。
 肝心の予約希望日と人数一名は、文章の最後の方に、まるで追伸のように、申し訳程度に書かれているだけだった。

「……なんだ、この人。やけに丁寧だけど、ちょっと変わってるな」

 俺がそう呟くと、リサも「ですねー」と頷いた。

「でも、見てください、ご主人。『貴宿の動画で拝見いたしました、ご主人の手作りされた看板に、私は、日本の古き良き職人魂を感じ、いたく感動いたしました』ですって」

「看板……? ああ、アキラさんがデザインしてくれた、あれか」

 職人魂、という言葉の響きから、俺たちは、次なる客人の人物像を想像し始めた。

「きっと、すごく渋い、伝統工芸の職人さんなんじゃないですか?」

「そうかもな。宮大工とか、有名な刀鍛冶とか……」

「渋い! 渋いお客さんですね! よーし、今度は、日本の“わびさび”をテーマにした、最高のおもてなしを企画しましょう!」

 リサは、もうすっかり新しい企画に夢中だ。

 俺も、これまでの若いお客さんたちとはまた違う、年配の、いぶし銀のような職人さんが来るのかと思うと、自然と背筋が伸びる。
 失礼があってはならない。いつも以上に、部屋の掃除や準備に気合を入れなければ。

『今度は、なんだかすごい職人さんが来るらしい』

 その噂は、例によって、あっという間に町中を駆け巡った。

「なんだと、雄介! 本物の職人さんか! よーし、そういう舌の肥えた人には、俺の完璧な血抜きと熟成を施した、最高の魚を食わせてやる!」

 魚屋の大将は、なぜか勝負モードだ。

「まあ、職人さんなら、わしと話が合うかもしれん。わしも昔、家具職人を目指したことがあってな……」

 鈴木さんは、昔話の引き出しをゴソゴソと漁り始めている。
 町全体が「本物の職人をもてなす」という、一種のプライドをかけた、独特の歓迎ムードに包まれ始めていた。

 そして、約束の来訪当日。
 俺とリサは、少しだけ緊張した面持ちで、お客様の到着を待っていた。渋い作務衣を着て、鋭い眼光を放つ、いぶし銀の職人さん。
 俺たちの頭の中には、そんなステレオタイプな人物像が出来上がっていた。

 やがて、一台の軽自動車が家の前に停まる。
 俺は、居住まいを正し、最高の笑顔でお辞儀をする準備をした。

 しかし、運転席から降りてきたのは、俺たちの想像とは、180度違う人物だった。

 ヨレヨレのTシャツに、分厚いレンズのメガネ。猫背気味の小柄な若い女性。
 その両腕には、巨大な一眼レフカメラや、折りたたまれた三脚、銀色のレフ板といった機材を、今にもガシャンと落としてしまいそうなほど、危なっかしく抱えている。

 その女性――斉藤さんは、俺たちを見つけるなり、メガネをクイッと指で押し上げながら、マシンガンのような早口でまくしたてた。

「ど、どうも! 斉藤です! うわー、本物だ! この看板! 動画で見た通りだ! この木目! この手彫りの温かみ! そして、あの古民家の柱の傷! 雨風に耐えてきた歴史が刻まれてる! たまらないですね! あ、ああ、すみません、一枚撮らせてもらっていいですか!? 今! まさにこの光の角度が最高なんです!」

 彼女は、俺たちへの挨拶もそこそこに、抱えていた機材をドサリと地面に置くと、カメラを構え、夢中になって看板や家の写真を撮り始めた。
 その目は、完全に“獲物”を狙う狩人の目だ。

 俺とリサは、ただただ、呆然とその姿を見つめていた。

 渋い、職人さん……? いや、違う。
 この人は、建物やモノのディテールに、異常なまでの愛情を注ぐ、超マニアックな……。

「……物撮り専門の、カメラマンさんだ」 

 リサが、か細い声で呟いた。
 職人魂に感動していたのは、彼女自身が、モノに宿る魂を撮る、紛れもない「職人」だったからなのだ。
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