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第3章 おじさん、配信サイトにデビューさせられる!?
第29話 お客さまは、カメラ女子
「ああ! この柱の木目! 最高……! この節の絶妙なカーブ! 生きてますねぇ、木が!」
「ひぃぃ! この縁側の、長年の雨風で摩耗した感じ! たまらない! エモすぎる!」
斉藤さんは、俺たちが存在するのを忘れてしまったかのように、地面に這いつくばったり、奇妙な角度からカメラを構えたりしながら、古民家のあらゆるディテールを、夢中でファインダーに収めていた。
その姿は、もはやカメラマンというより、獲物を追う野生動物のようだった。
「あ、あのー、斉藤さん……? お荷物、お部屋に運びますけど……」
リサがおそるおそる声をかけると、斉藤さんは「あ、はい! すみません! そこに置いといてください!」と、カメラから目を離さないまま、上の空で答えた。
俺とリサは顔を見合わせた。
これは今までで一番、コミュニケーションの取り方が難しいお客さんかもしれない。何しろ、彼女の興味は、人間には全く向いていないのだから。
とりあえず、荷物を部屋に運び、一息ついた斉藤さんにお茶を出す。
すると彼女は、湯呑みを受け取った瞬間、またしても「ハッ!」と息をのんだ。
「こ、この湯呑み! この、土の温かみが感じられる不揃いな形! そして、この釉薬の絶妙な垂れ具合! まさか有名な作家さんのものじゃ……!?」
「あ、いえ、それは確か、町内会の陶芸教室で隣の鈴木さんが作ったやつですね」
俺が正直に答えると、斉藤さんは「なんと! この町には、在野の天才陶芸家までいるというのですか!?」と、一人で勝手に感動して、湯呑みの写真をあらゆる角度から撮り始めた。
鈴木さんが聞いたら、さぞかし喜ぶだろう。
その後も、斉藤さんの「撮影会」は続いた。
囲炉裏の自在鉤の、煤で黒光りする鉄の質感。欄間に施された、作者不明の素朴な彫刻。
少しだけ歪んだ、昔ながらのガラス窓。
彼女の目にかかれば、この古民家のすべてが、輝ける「被写体」となるらしかった。
俺やリサは、もはや彼女に声をかけるのを諦め、ただ遠巻きに、その職人芸を見守ることにした。
「すごいですね、あの子……」
リサが感心したように呟いた。
「モノに対する愛情が半端じゃない。もしかしたら、私たちよりも、この家の本当の価値を分かってるのかもしれない」
その言葉には、俺も同感だった。
しばらくして、ふと気づくと、斉藤さんの周りに、小さなギャラリーが集まっていた。
プルと、ゴブ吉、そして、いつの間にかダンジョンから出てきていた、あのキノコうさぎの親子だ。
彼らは、斉藤さんが一心不乱に撮影する様子を興味深そうに、しかし邪魔しないように、少し離れた場所からじっと見つめている。
斉藤さんは、そんなモンスターたちの存在に、ようやく気づいた。
だが、彼女は驚くでも、怖がるでもなかった。彼女のレンズが、今度は、その小さな生き物たちへと向けられる。
シャッター音が静かに響く。
プルが光を浴びてきらめく、その透明な体。
ゴブ吉が、大事そうに抱えている、年季の入った箒。
キノコうさぎの、ふわふわの毛並みと背中に生えた小さなキノコ。
斉藤さんは、モンスターたちを、ただの珍しい生き物としてではなく、この古民家という空間を構成する、一つの「美しいディテール」として、ファインダー越しに捉えていた。
その時、子うさぎの一匹が、てちてちと斉藤さんの足元までやってくると、彼女が地面に置いていたカメラバッグのベルトを、くんくん、と嗅ぎ始めた。
斉藤さんは、ゆっくりとカメラを下ろすと、その場にそっとしゃがみ込んだ。
そして、カメラを向けるのとは違う、とても優しい手つきで、子うさぎの頭を、そっと撫でた。
子うさぎは、気持ちよさそうに目を細めている。
その瞬間、俺は見た。
ファインダーを覗いている時の、鋭い狩人のような目ではない。
ただ、純粋に、目の前の小さな命を愛おしむ一人の女性の穏やかで優しい笑顔を。
どうやら彼女は、ただの「物撮りマニア」ではないらしい。
言葉を交わすのは苦手かもしれないが、物言わぬものたちと対話し、その魂を写し取る、本物の「職人」なのだ。
俺はリサと顔を見合わせ、にっこりと笑った。
この、ちょっと変わったカメラ女子との日々は、きっと俺たちに新しい何かを教えてくれる。そんな予感がしていた。
「ひぃぃ! この縁側の、長年の雨風で摩耗した感じ! たまらない! エモすぎる!」
斉藤さんは、俺たちが存在するのを忘れてしまったかのように、地面に這いつくばったり、奇妙な角度からカメラを構えたりしながら、古民家のあらゆるディテールを、夢中でファインダーに収めていた。
その姿は、もはやカメラマンというより、獲物を追う野生動物のようだった。
「あ、あのー、斉藤さん……? お荷物、お部屋に運びますけど……」
リサがおそるおそる声をかけると、斉藤さんは「あ、はい! すみません! そこに置いといてください!」と、カメラから目を離さないまま、上の空で答えた。
俺とリサは顔を見合わせた。
これは今までで一番、コミュニケーションの取り方が難しいお客さんかもしれない。何しろ、彼女の興味は、人間には全く向いていないのだから。
とりあえず、荷物を部屋に運び、一息ついた斉藤さんにお茶を出す。
すると彼女は、湯呑みを受け取った瞬間、またしても「ハッ!」と息をのんだ。
「こ、この湯呑み! この、土の温かみが感じられる不揃いな形! そして、この釉薬の絶妙な垂れ具合! まさか有名な作家さんのものじゃ……!?」
「あ、いえ、それは確か、町内会の陶芸教室で隣の鈴木さんが作ったやつですね」
俺が正直に答えると、斉藤さんは「なんと! この町には、在野の天才陶芸家までいるというのですか!?」と、一人で勝手に感動して、湯呑みの写真をあらゆる角度から撮り始めた。
鈴木さんが聞いたら、さぞかし喜ぶだろう。
その後も、斉藤さんの「撮影会」は続いた。
囲炉裏の自在鉤の、煤で黒光りする鉄の質感。欄間に施された、作者不明の素朴な彫刻。
少しだけ歪んだ、昔ながらのガラス窓。
彼女の目にかかれば、この古民家のすべてが、輝ける「被写体」となるらしかった。
俺やリサは、もはや彼女に声をかけるのを諦め、ただ遠巻きに、その職人芸を見守ることにした。
「すごいですね、あの子……」
リサが感心したように呟いた。
「モノに対する愛情が半端じゃない。もしかしたら、私たちよりも、この家の本当の価値を分かってるのかもしれない」
その言葉には、俺も同感だった。
しばらくして、ふと気づくと、斉藤さんの周りに、小さなギャラリーが集まっていた。
プルと、ゴブ吉、そして、いつの間にかダンジョンから出てきていた、あのキノコうさぎの親子だ。
彼らは、斉藤さんが一心不乱に撮影する様子を興味深そうに、しかし邪魔しないように、少し離れた場所からじっと見つめている。
斉藤さんは、そんなモンスターたちの存在に、ようやく気づいた。
だが、彼女は驚くでも、怖がるでもなかった。彼女のレンズが、今度は、その小さな生き物たちへと向けられる。
シャッター音が静かに響く。
プルが光を浴びてきらめく、その透明な体。
ゴブ吉が、大事そうに抱えている、年季の入った箒。
キノコうさぎの、ふわふわの毛並みと背中に生えた小さなキノコ。
斉藤さんは、モンスターたちを、ただの珍しい生き物としてではなく、この古民家という空間を構成する、一つの「美しいディテール」として、ファインダー越しに捉えていた。
その時、子うさぎの一匹が、てちてちと斉藤さんの足元までやってくると、彼女が地面に置いていたカメラバッグのベルトを、くんくん、と嗅ぎ始めた。
斉藤さんは、ゆっくりとカメラを下ろすと、その場にそっとしゃがみ込んだ。
そして、カメラを向けるのとは違う、とても優しい手つきで、子うさぎの頭を、そっと撫でた。
子うさぎは、気持ちよさそうに目を細めている。
その瞬間、俺は見た。
ファインダーを覗いている時の、鋭い狩人のような目ではない。
ただ、純粋に、目の前の小さな命を愛おしむ一人の女性の穏やかで優しい笑顔を。
どうやら彼女は、ただの「物撮りマニア」ではないらしい。
言葉を交わすのは苦手かもしれないが、物言わぬものたちと対話し、その魂を写し取る、本物の「職人」なのだ。
俺はリサと顔を見合わせ、にっこりと笑った。
この、ちょっと変わったカメラ女子との日々は、きっと俺たちに新しい何かを教えてくれる。そんな予感がしていた。
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