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第3章 おじさん、配信サイトにデビューさせられる!?
第32話 家族写真
カシャッ。
静かな夜に優しいシャッター音が響いた。
斉藤さんは、撮ったばかりの画像を、カメラの背面液晶で見せてくれた。
そこに写っていたのは、自分でも見たことのない、穏やかな顔で微笑む俺の姿。そして、その足元に、まるでそれが当たり前であるかのように自然に寄り添うプル、ゴブ吉、そしてキノコうさぎの親子の姿だった。
背景には、この古民家の温かい光に照らされた縁側。
それは種族も形も違う、ちぐはぐで、だけど、どこからどう見ても一つの「家族」に見える奇跡のような一枚だった。
「うわー! 何これ、最高の写真じゃないですか! ポスターにしたい!」
いつの間にか隣に来ていたリサが感嘆の声を上げる。
俺は、自分の気の抜けた顔に照れくささを感じながらも、その写真から目を離すことができなかった。これが今の俺……偽りのない姿なのだ。
「私……」
斉藤さんが嬉しそうに言った。
「私、この写真、すごく好きです」
その横顔は、人を撮るのが怖いと怯えていた、彼女とは別人だった。
自分の撮ったものに、確かな愛情と自信を取り戻した一人の「職人」の顔がそこにあった。
翌朝。
食卓に現れた斉藤さんは、昨日までとは見違えるように晴れやかで明るい表情をしていた。
「このお味噌、すごく香りがいいですね。どこのお味噌なんですか?」
「えっと……」
「田中さんは、どうしてそんなに料理が上手になったんですか? 昔から得意だったんですか?」
これまではモノにしか興味を示さなかった彼女が、積極的に俺やリサに質問をしてくる。
その一つ一つの会話を心から楽しんでいるのが伝わってきた。彼女の中で、閉ざされていた扉が確かに開いたのだ。
やがてチェックアウトの時間がやってきた。
斉藤さんは、名残惜しそうに、最後に一度だけ、あの柱の傷をそっと指でなぞっていた。
彼女は、俺に宿泊費の入った封筒を渡しながら、もう一つ、クリアファイルに挟んだL判の写真を差し出した。それは昨夜撮った、あの「家族写真」だった。
聞けば、こういう時のために、いつもポータブルプリンターを持ち歩いているらしい。さすが、プロだ。
「これ、お礼です。私にとって、本当に宝物のような一枚になりました」
彼女はまっすぐな目で俺を見た。
「この写真があれば、私、また東京で頑張れる気がします。今度は、モノだけじゃなく……その先にいる人の、正直な顔を撮れるカメラマンになりたい。そう、思えるようになりました」
その言葉は、力強く希望に満ちていた。
最後に彼女はプルやゴブ吉たちにも、一人一人しゃがんで目線を合わせ、「またね。次のモデル料は、とびきり甘いトマトでいいかな?」なんて、優しい冗談を言って、別れを告げた。
自分の車に乗り込んだ斉藤さんは、窓から元気よく顔を出した。
「田中さん、リサさん! 私、いつか絶対に、この民宿の公式パンフレTシャツ、撮らせてくださいね! 仕事として、正式に依頼が来るのを待ってますから!」
「ええ、その時はぜひ。日本一のカメラマンにお願いしますよ」
俺が笑顔でそう返すと、彼女は「はい!」と最高の笑顔で頷いた。
走り去っていく車を見送りながら、俺とリサは、また一人、この場所で何かを見つけて帰っていった客人の背中に、温かい気持ちで手を振り続けた。
縁側に戻り、斉藤さんが残してくれた「家族写真」を、そっと柱に立てかける。
山田さん一家がくれた笑顔、アキラさんが見つけた希望、高橋さんカップルが確かめ合った愛。そして、斉藤さんが取り戻した夢。
この民宿の宝物が、また一つ増えた。
「さて、ご主人!」
リサが、パンと手を叩いて、いつもの調子で言った。
「私たちのピクニコ動画の撮影も、再開しますか!」
俺は、柱に立てかけた写真の中の、自分の笑顔を見た。
以前のような強い抵抗感はもうなかった。
「まあ、ぼちぼち、な」
俺がそう言って笑うと、リサも嬉しそうに笑い返した。
平和な日常が、また戻ってきた。
だが、このダンジョン民宿の物語は、訪れた人々の口コミや、動画のコメントを通じて、静かに広がり続けている。
次は一体、どんな物語が、この民宿の少しだけ歪んだ玄関の扉を叩くのだろうか。
北の果ての小さな町で、元社畜おじさんと、その仲間たちが紡ぐ物語は、これからも続いていく。
静かな夜に優しいシャッター音が響いた。
斉藤さんは、撮ったばかりの画像を、カメラの背面液晶で見せてくれた。
そこに写っていたのは、自分でも見たことのない、穏やかな顔で微笑む俺の姿。そして、その足元に、まるでそれが当たり前であるかのように自然に寄り添うプル、ゴブ吉、そしてキノコうさぎの親子の姿だった。
背景には、この古民家の温かい光に照らされた縁側。
それは種族も形も違う、ちぐはぐで、だけど、どこからどう見ても一つの「家族」に見える奇跡のような一枚だった。
「うわー! 何これ、最高の写真じゃないですか! ポスターにしたい!」
いつの間にか隣に来ていたリサが感嘆の声を上げる。
俺は、自分の気の抜けた顔に照れくささを感じながらも、その写真から目を離すことができなかった。これが今の俺……偽りのない姿なのだ。
「私……」
斉藤さんが嬉しそうに言った。
「私、この写真、すごく好きです」
その横顔は、人を撮るのが怖いと怯えていた、彼女とは別人だった。
自分の撮ったものに、確かな愛情と自信を取り戻した一人の「職人」の顔がそこにあった。
翌朝。
食卓に現れた斉藤さんは、昨日までとは見違えるように晴れやかで明るい表情をしていた。
「このお味噌、すごく香りがいいですね。どこのお味噌なんですか?」
「えっと……」
「田中さんは、どうしてそんなに料理が上手になったんですか? 昔から得意だったんですか?」
これまではモノにしか興味を示さなかった彼女が、積極的に俺やリサに質問をしてくる。
その一つ一つの会話を心から楽しんでいるのが伝わってきた。彼女の中で、閉ざされていた扉が確かに開いたのだ。
やがてチェックアウトの時間がやってきた。
斉藤さんは、名残惜しそうに、最後に一度だけ、あの柱の傷をそっと指でなぞっていた。
彼女は、俺に宿泊費の入った封筒を渡しながら、もう一つ、クリアファイルに挟んだL判の写真を差し出した。それは昨夜撮った、あの「家族写真」だった。
聞けば、こういう時のために、いつもポータブルプリンターを持ち歩いているらしい。さすが、プロだ。
「これ、お礼です。私にとって、本当に宝物のような一枚になりました」
彼女はまっすぐな目で俺を見た。
「この写真があれば、私、また東京で頑張れる気がします。今度は、モノだけじゃなく……その先にいる人の、正直な顔を撮れるカメラマンになりたい。そう、思えるようになりました」
その言葉は、力強く希望に満ちていた。
最後に彼女はプルやゴブ吉たちにも、一人一人しゃがんで目線を合わせ、「またね。次のモデル料は、とびきり甘いトマトでいいかな?」なんて、優しい冗談を言って、別れを告げた。
自分の車に乗り込んだ斉藤さんは、窓から元気よく顔を出した。
「田中さん、リサさん! 私、いつか絶対に、この民宿の公式パンフレTシャツ、撮らせてくださいね! 仕事として、正式に依頼が来るのを待ってますから!」
「ええ、その時はぜひ。日本一のカメラマンにお願いしますよ」
俺が笑顔でそう返すと、彼女は「はい!」と最高の笑顔で頷いた。
走り去っていく車を見送りながら、俺とリサは、また一人、この場所で何かを見つけて帰っていった客人の背中に、温かい気持ちで手を振り続けた。
縁側に戻り、斉藤さんが残してくれた「家族写真」を、そっと柱に立てかける。
山田さん一家がくれた笑顔、アキラさんが見つけた希望、高橋さんカップルが確かめ合った愛。そして、斉藤さんが取り戻した夢。
この民宿の宝物が、また一つ増えた。
「さて、ご主人!」
リサが、パンと手を叩いて、いつもの調子で言った。
「私たちのピクニコ動画の撮影も、再開しますか!」
俺は、柱に立てかけた写真の中の、自分の笑顔を見た。
以前のような強い抵抗感はもうなかった。
「まあ、ぼちぼち、な」
俺がそう言って笑うと、リサも嬉しそうに笑い返した。
平和な日常が、また戻ってきた。
だが、このダンジョン民宿の物語は、訪れた人々の口コミや、動画のコメントを通じて、静かに広がり続けている。
次は一体、どんな物語が、この民宿の少しだけ歪んだ玄関の扉を叩くのだろうか。
北の果ての小さな町で、元社畜おじさんと、その仲間たちが紡ぐ物語は、これからも続いていく。
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