田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

文字の大きさ
32 / 51
第3章 おじさん、配信サイトにデビューさせられる!?

第32話 家族写真

カシャッ。

 静かな夜に優しいシャッター音が響いた。
 斉藤さんは、撮ったばかりの画像を、カメラの背面液晶で見せてくれた。
 そこに写っていたのは、自分でも見たことのない、穏やかな顔で微笑む俺の姿。そして、その足元に、まるでそれが当たり前であるかのように自然に寄り添うプル、ゴブ吉、そしてキノコうさぎの親子の姿だった。

 背景には、この古民家の温かい光に照らされた縁側。
 それは種族も形も違う、ちぐはぐで、だけど、どこからどう見ても一つの「家族」に見える奇跡のような一枚だった。

「うわー! 何これ、最高の写真じゃないですか! ポスターにしたい!」

 いつの間にか隣に来ていたリサが感嘆の声を上げる。
 俺は、自分の気の抜けた顔に照れくささを感じながらも、その写真から目を離すことができなかった。これが今の俺……偽りのない姿なのだ。 

「私……」

 斉藤さんが嬉しそうに言った。

「私、この写真、すごく好きです」

 その横顔は、人を撮るのが怖いと怯えていた、彼女とは別人だった。
 自分の撮ったものに、確かな愛情と自信を取り戻した一人の「職人」の顔がそこにあった。 



 翌朝。
 食卓に現れた斉藤さんは、昨日までとは見違えるように晴れやかで明るい表情をしていた。

「このお味噌、すごく香りがいいですね。どこのお味噌なんですか?」

「えっと……」

「田中さんは、どうしてそんなに料理が上手になったんですか? 昔から得意だったんですか?」

 これまではモノにしか興味を示さなかった彼女が、積極的に俺やリサに質問をしてくる。
 その一つ一つの会話を心から楽しんでいるのが伝わってきた。彼女の中で、閉ざされていた扉が確かに開いたのだ。

 やがてチェックアウトの時間がやってきた。
 斉藤さんは、名残惜しそうに、最後に一度だけ、あの柱の傷をそっと指でなぞっていた。
 彼女は、俺に宿泊費の入った封筒を渡しながら、もう一つ、クリアファイルに挟んだL判の写真を差し出した。それは昨夜撮った、あの「家族写真」だった。
 聞けば、こういう時のために、いつもポータブルプリンターを持ち歩いているらしい。さすが、プロだ。

「これ、お礼です。私にとって、本当に宝物のような一枚になりました」

 彼女はまっすぐな目で俺を見た。

「この写真があれば、私、また東京で頑張れる気がします。今度は、モノだけじゃなく……その先にいる人の、正直な顔を撮れるカメラマンになりたい。そう、思えるようになりました」

 その言葉は、力強く希望に満ちていた。
 最後に彼女はプルやゴブ吉たちにも、一人一人しゃがんで目線を合わせ、「またね。次のモデル料は、とびきり甘いトマトでいいかな?」なんて、優しい冗談を言って、別れを告げた。

 自分の車に乗り込んだ斉藤さんは、窓から元気よく顔を出した。

「田中さん、リサさん! 私、いつか絶対に、この民宿の公式パンフレTシャツ、撮らせてくださいね! 仕事として、正式に依頼が来るのを待ってますから!」

「ええ、その時はぜひ。日本一のカメラマンにお願いしますよ」

 俺が笑顔でそう返すと、彼女は「はい!」と最高の笑顔で頷いた。
 走り去っていく車を見送りながら、俺とリサは、また一人、この場所で何かを見つけて帰っていった客人の背中に、温かい気持ちで手を振り続けた。

 縁側に戻り、斉藤さんが残してくれた「家族写真」を、そっと柱に立てかける。

 山田さん一家がくれた笑顔、アキラさんが見つけた希望、高橋さんカップルが確かめ合った愛。そして、斉藤さんが取り戻した夢。

 この民宿の宝物が、また一つ増えた。

「さて、ご主人!」

 リサが、パンと手を叩いて、いつもの調子で言った。

「私たちのピクニコ動画の撮影も、再開しますか!」

 俺は、柱に立てかけた写真の中の、自分の笑顔を見た。
 以前のような強い抵抗感はもうなかった。

「まあ、ぼちぼち、な」

 俺がそう言って笑うと、リサも嬉しそうに笑い返した。

 平和な日常が、また戻ってきた。
 だが、このダンジョン民宿の物語は、訪れた人々の口コミや、動画のコメントを通じて、静かに広がり続けている。

 次は一体、どんな物語が、この民宿の少しだけ歪んだ玄関の扉を叩くのだろうか。
 北の果ての小さな町で、元社畜おじさんと、その仲間たちが紡ぐ物語は、これからも続いていく。
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。