田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

文字の大きさ
38 / 51
第5章 わんぱくキッズと、夏休みの自由研究

第38話 嵐を呼ぶ自由研究

 桜井さんが、希望と共に旅立っていってから、しばらくの時が流れた。

 俺のダンジョン民宿には、燃えるように暑い、北海道の夏が訪れていた。
 縁側に吊るした風鈴が、ちりん、と涼しげな音を立てる。食卓には、キンキンに冷えた麦茶と、近所の農家さんからおすそ分けしてもらった甘いスイカが並ぶ。

 夏の日差しを浴びて、プルはいつもより少しだけ体が温かくなっているが、それでも触るとひんやりとして気持ちがいい。
 近所の子供たちが遊びに来ては、プルを保冷剤代わりに額や首筋に当てて涼んでいるのが、最近の日常の光景だ。

「はー、夏ですねぇ」

 リサが縁側でうちわを仰ぎながら、だらけた声を出す。
 彼女はつい先日、「夏休み特別企画!」と銘打って、ピクニコ動画に一本の動画を投稿したばかりだった。それは、「小学生でも安心! 親子で楽しむ、ダンジョン探検入門ツアー!」という、なんとも楽しげな告知動画だ。

「本当に子供なんて来るのかね、こんな辺鄙へんぴな場所に」

 俺がスイカにかぶりつきながら言うと、リサは「来ますって!」と自信満々に胸を張った。

「今の小学生は、ゲームや動画でダンジョンやモンスターには慣れ親しんでるんです! 本物を見たいっていう、知的好奇心旺盛な子がいるはずですよ!」

 そしてリサの予言は驚くほど早く的中した。

 
 その日の午後、民宿の予約フォームに、一件のメッセージが届いたのだ。

 予約者名は木村陽子さん。
 メッセージには、こう書かれていた。

『はじめまして。リサさんの動画、いつも親子で楽しく拝見しております。突然のご連絡失礼いたします。小学4年生の息子が、夏休みの自由研究で、どうしても、そちらのダンジョンのモンスターの生態を観察したい、と申しておりまして……。もしご迷惑でなければ、宿泊させていただくことは可能でしょうか。息子の親友の鈴木さん親子も、ご一緒させていただければと存じます』

「自由研究、か……。懐かしいな」

 俺はカブトムシの観察日記をつけた、遠い昔の夏休みを思い出して、思わず目を細めた。

「面白くなりそうじゃないですか、ご主人! これはもう、全力で子供たちの夢を応援するしかないでしょう!」

 リサは目をキラキラさせて、すでにやる気満々だ。

 俺たちは、早速、小さな冒険者たちを迎える準備を始めた。
 子供向けの夕食は、やっぱりカレーライスと鶏の唐揚げで決まりだろう。アレルギーの有無を事前に木村さんに確認するのも忘れない。

 リサは「自由研究お助けセット」なるものを作り始めた。中には、モンスター観察用の虫かご。もちろん捕まえないように注意書き付きだ。
 スケッチブックと色鉛筆、そして、彼女がお手製で描いた、プルやゴブ吉のイラスト付き「モンスターカード」。
 その情熱には、もはや脱帽するしかない。

 そして約束の週末。
 民宿の前に一台の大きなミニバンが停まり、元気な声が夏の静けさを突き破った。

「うおおお! ここか! ダンジョンのある宿は!」

「ママー! 本当にモンスターいるのー!?」

 車から飛び出してきたのは、肌が日に焼けて、いかにもわんぱくそうな少年と、彼より少しだけ大人しそうで、本を小脇に抱えた少年の二人組だった。
 その後ろから、対照的な雰囲気の母親二人が降りてくる。

「こら、大輝! 騒がしくしないの!」

 おおらかに笑うのが木村陽子さん。

「翔太、危ないから、ママのそばにいてね」

 心配そうに眉をひそめるのが、鈴木恵美さんだろう。
 民宿に着くなり、リーダー格らしい大輝くんが目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。

「ここの宿屋がおじさんの!? スライムはどこ!? ゴブリンは!? もう戦える!?」

「ま、まあ、落ち着けって。戦ったりはしないぞ」

 一方、翔太くんは、母親の恵美さんの後ろに隠れながら、好奇心に満ちた目で、そろり、と俺たちの様子をうかがっている。
 恵美さんは、そんな息子を守るようにしながら不安げに尋ねてきた。

「あ、あの……モンスターと言っても、本当に安全なんでしょうか……?」

 これは賑やかで、そして、とんでもなく波乱万丈な夏休みになりそうだ。

 俺が苦笑いを浮かべた、その時だった。
 庭の掃除をしていたゴブ吉の姿を、大輝くんが発見した。

「ゴブリンだーーーっ!!」

 大輝くんはヒーローショーの主人公にでもなったかのような雄叫びを上げると、どこから取り出したのか、巨大な虫あみを振りかざし、ゴブ吉に向かって猛然とダッシュしていった。

「よーし、捕まえて、観察するぞー!」

「キ、キィィィーーッ!?」

 突然の襲撃に、ゴブ吉が悲鳴を上げて逃げ惑う。

「こらーっ! 待てーっ!」

 俺とリサの慌てふためく声が、北海道の夏の青空に高々と響き渡った。
 わんぱくキッズたちによる、予測不能な自由研究は、その開始ゴングを高らかに鳴らしたのだった。
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。