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第5章 わんぱくキッズと、夏休みの自由研究
第38話 嵐を呼ぶ自由研究
桜井さんが、希望と共に旅立っていってから、しばらくの時が流れた。
俺のダンジョン民宿には、燃えるように暑い、北海道の夏が訪れていた。
縁側に吊るした風鈴が、ちりん、と涼しげな音を立てる。食卓には、キンキンに冷えた麦茶と、近所の農家さんからおすそ分けしてもらった甘いスイカが並ぶ。
夏の日差しを浴びて、プルはいつもより少しだけ体が温かくなっているが、それでも触るとひんやりとして気持ちがいい。
近所の子供たちが遊びに来ては、プルを保冷剤代わりに額や首筋に当てて涼んでいるのが、最近の日常の光景だ。
「はー、夏ですねぇ」
リサが縁側でうちわを仰ぎながら、だらけた声を出す。
彼女はつい先日、「夏休み特別企画!」と銘打って、ピクニコ動画に一本の動画を投稿したばかりだった。それは、「小学生でも安心! 親子で楽しむ、ダンジョン探検入門ツアー!」という、なんとも楽しげな告知動画だ。
「本当に子供なんて来るのかね、こんな辺鄙な場所に」
俺がスイカにかぶりつきながら言うと、リサは「来ますって!」と自信満々に胸を張った。
「今の小学生は、ゲームや動画でダンジョンやモンスターには慣れ親しんでるんです! 本物を見たいっていう、知的好奇心旺盛な子がいるはずですよ!」
そしてリサの予言は驚くほど早く的中した。
その日の午後、民宿の予約フォームに、一件のメッセージが届いたのだ。
予約者名は木村陽子さん。
メッセージには、こう書かれていた。
『はじめまして。リサさんの動画、いつも親子で楽しく拝見しております。突然のご連絡失礼いたします。小学4年生の息子が、夏休みの自由研究で、どうしても、そちらのダンジョンのモンスターの生態を観察したい、と申しておりまして……。もしご迷惑でなければ、宿泊させていただくことは可能でしょうか。息子の親友の鈴木さん親子も、ご一緒させていただければと存じます』
「自由研究、か……。懐かしいな」
俺はカブトムシの観察日記をつけた、遠い昔の夏休みを思い出して、思わず目を細めた。
「面白くなりそうじゃないですか、ご主人! これはもう、全力で子供たちの夢を応援するしかないでしょう!」
リサは目をキラキラさせて、すでにやる気満々だ。
俺たちは、早速、小さな冒険者たちを迎える準備を始めた。
子供向けの夕食は、やっぱりカレーライスと鶏の唐揚げで決まりだろう。アレルギーの有無を事前に木村さんに確認するのも忘れない。
リサは「自由研究お助けセット」なるものを作り始めた。中には、モンスター観察用の虫かご。もちろん捕まえないように注意書き付きだ。
スケッチブックと色鉛筆、そして、彼女がお手製で描いた、プルやゴブ吉のイラスト付き「モンスターカード」。
その情熱には、もはや脱帽するしかない。
そして約束の週末。
民宿の前に一台の大きなミニバンが停まり、元気な声が夏の静けさを突き破った。
「うおおお! ここか! ダンジョンのある宿は!」
「ママー! 本当にモンスターいるのー!?」
車から飛び出してきたのは、肌が日に焼けて、いかにもわんぱくそうな少年と、彼より少しだけ大人しそうで、本を小脇に抱えた少年の二人組だった。
その後ろから、対照的な雰囲気の母親二人が降りてくる。
「こら、大輝! 騒がしくしないの!」
おおらかに笑うのが木村陽子さん。
「翔太、危ないから、ママのそばにいてね」
心配そうに眉をひそめるのが、鈴木恵美さんだろう。
民宿に着くなり、リーダー格らしい大輝くんが目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
「ここの宿屋がおじさんの!? スライムはどこ!? ゴブリンは!? もう戦える!?」
「ま、まあ、落ち着けって。戦ったりはしないぞ」
一方、翔太くんは、母親の恵美さんの後ろに隠れながら、好奇心に満ちた目で、そろり、と俺たちの様子をうかがっている。
恵美さんは、そんな息子を守るようにしながら不安げに尋ねてきた。
「あ、あの……モンスターと言っても、本当に安全なんでしょうか……?」
これは賑やかで、そして、とんでもなく波乱万丈な夏休みになりそうだ。
俺が苦笑いを浮かべた、その時だった。
庭の掃除をしていたゴブ吉の姿を、大輝くんが発見した。
「ゴブリンだーーーっ!!」
大輝くんはヒーローショーの主人公にでもなったかのような雄叫びを上げると、どこから取り出したのか、巨大な虫あみを振りかざし、ゴブ吉に向かって猛然とダッシュしていった。
「よーし、捕まえて、観察するぞー!」
「キ、キィィィーーッ!?」
突然の襲撃に、ゴブ吉が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「こらーっ! 待てーっ!」
俺とリサの慌てふためく声が、北海道の夏の青空に高々と響き渡った。
わんぱくキッズたちによる、予測不能な自由研究は、その開始ゴングを高らかに鳴らしたのだった。
俺のダンジョン民宿には、燃えるように暑い、北海道の夏が訪れていた。
縁側に吊るした風鈴が、ちりん、と涼しげな音を立てる。食卓には、キンキンに冷えた麦茶と、近所の農家さんからおすそ分けしてもらった甘いスイカが並ぶ。
夏の日差しを浴びて、プルはいつもより少しだけ体が温かくなっているが、それでも触るとひんやりとして気持ちがいい。
近所の子供たちが遊びに来ては、プルを保冷剤代わりに額や首筋に当てて涼んでいるのが、最近の日常の光景だ。
「はー、夏ですねぇ」
リサが縁側でうちわを仰ぎながら、だらけた声を出す。
彼女はつい先日、「夏休み特別企画!」と銘打って、ピクニコ動画に一本の動画を投稿したばかりだった。それは、「小学生でも安心! 親子で楽しむ、ダンジョン探検入門ツアー!」という、なんとも楽しげな告知動画だ。
「本当に子供なんて来るのかね、こんな辺鄙な場所に」
俺がスイカにかぶりつきながら言うと、リサは「来ますって!」と自信満々に胸を張った。
「今の小学生は、ゲームや動画でダンジョンやモンスターには慣れ親しんでるんです! 本物を見たいっていう、知的好奇心旺盛な子がいるはずですよ!」
そしてリサの予言は驚くほど早く的中した。
その日の午後、民宿の予約フォームに、一件のメッセージが届いたのだ。
予約者名は木村陽子さん。
メッセージには、こう書かれていた。
『はじめまして。リサさんの動画、いつも親子で楽しく拝見しております。突然のご連絡失礼いたします。小学4年生の息子が、夏休みの自由研究で、どうしても、そちらのダンジョンのモンスターの生態を観察したい、と申しておりまして……。もしご迷惑でなければ、宿泊させていただくことは可能でしょうか。息子の親友の鈴木さん親子も、ご一緒させていただければと存じます』
「自由研究、か……。懐かしいな」
俺はカブトムシの観察日記をつけた、遠い昔の夏休みを思い出して、思わず目を細めた。
「面白くなりそうじゃないですか、ご主人! これはもう、全力で子供たちの夢を応援するしかないでしょう!」
リサは目をキラキラさせて、すでにやる気満々だ。
俺たちは、早速、小さな冒険者たちを迎える準備を始めた。
子供向けの夕食は、やっぱりカレーライスと鶏の唐揚げで決まりだろう。アレルギーの有無を事前に木村さんに確認するのも忘れない。
リサは「自由研究お助けセット」なるものを作り始めた。中には、モンスター観察用の虫かご。もちろん捕まえないように注意書き付きだ。
スケッチブックと色鉛筆、そして、彼女がお手製で描いた、プルやゴブ吉のイラスト付き「モンスターカード」。
その情熱には、もはや脱帽するしかない。
そして約束の週末。
民宿の前に一台の大きなミニバンが停まり、元気な声が夏の静けさを突き破った。
「うおおお! ここか! ダンジョンのある宿は!」
「ママー! 本当にモンスターいるのー!?」
車から飛び出してきたのは、肌が日に焼けて、いかにもわんぱくそうな少年と、彼より少しだけ大人しそうで、本を小脇に抱えた少年の二人組だった。
その後ろから、対照的な雰囲気の母親二人が降りてくる。
「こら、大輝! 騒がしくしないの!」
おおらかに笑うのが木村陽子さん。
「翔太、危ないから、ママのそばにいてね」
心配そうに眉をひそめるのが、鈴木恵美さんだろう。
民宿に着くなり、リーダー格らしい大輝くんが目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
「ここの宿屋がおじさんの!? スライムはどこ!? ゴブリンは!? もう戦える!?」
「ま、まあ、落ち着けって。戦ったりはしないぞ」
一方、翔太くんは、母親の恵美さんの後ろに隠れながら、好奇心に満ちた目で、そろり、と俺たちの様子をうかがっている。
恵美さんは、そんな息子を守るようにしながら不安げに尋ねてきた。
「あ、あの……モンスターと言っても、本当に安全なんでしょうか……?」
これは賑やかで、そして、とんでもなく波乱万丈な夏休みになりそうだ。
俺が苦笑いを浮かべた、その時だった。
庭の掃除をしていたゴブ吉の姿を、大輝くんが発見した。
「ゴブリンだーーーっ!!」
大輝くんはヒーローショーの主人公にでもなったかのような雄叫びを上げると、どこから取り出したのか、巨大な虫あみを振りかざし、ゴブ吉に向かって猛然とダッシュしていった。
「よーし、捕まえて、観察するぞー!」
「キ、キィィィーーッ!?」
突然の襲撃に、ゴブ吉が悲鳴を上げて逃げ惑う。
「こらーっ! 待てーっ!」
俺とリサの慌てふためく声が、北海道の夏の青空に高々と響き渡った。
わんぱくキッズたちによる、予測不能な自由研究は、その開始ゴングを高らかに鳴らしたのだった。
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