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第6章 老紳士とギャルと、時を超えた約束
第43話 ちぐはぐな二人組
あれだけ賑やかだった子供たちの声が聞こえなくなり、留咲萌町の短い夏は、あっという間に過ぎ去っていった。
俺のダンジョン民宿の周りでは、山々の木々が赤や黄色に色づき始め、吹く風は、秋鮭の到来を告げるように、少しだけ冷たさを増している。
「ご主人、見てください! ゴブ吉が焼き芋始めましたよ!」
リサが縁側から楽しそうな声を上げる。
庭の隅を見ると、ゴブ吉が、どこからか集めてきた大量の落ち葉で器用に焚き火をしている。その中には、俺が先日おすそ分けしてやったサツマイモが、数本埋められていた。
どうやら、すっかり秋の味覚の虜になったらしい。
そんな平和で食欲をそそる匂いに満ちた午後。
民宿の予約フォームに、一件の通知が届いた。
予約者名は「篠田幸太郎」。
その名前からして、なんだか品の良い人物像が思い浮かぶ。メッセージの文面も流麗な筆跡を思わせる、非常に丁寧なものだった。
備考欄には、こう書かれていた。
『当日は、付き添いの者と二人で伺います。静かな場所だと伺い、楽しみにしております』
「付き添い、か。奥様か、あるいは息子さんかな」
「上品な感じの素敵なご夫婦だったりして! よーし、今度は大人のための、しっとりとしたおもてなしを考えなくちゃ!」
リサは、すっかりその気だ。
俺も、これまでの賑やかなお客さんたちとは違う、穏やかな時間を過ごせそうだと、少しだけ期待していた。
そして約束の週末。
俺たちの、その淡い期待は、良い意味と、そして、とんでもなく予想外な意味で裏切られることになる。
民宿の前に静かに滑り込んできたのは、ピカピカに磨き上げられた、一台の黒塗りのハイヤーだった。
「……ハイヤー?」
「え、うちに来るお客さんで、ハイヤーで来た人、初めてじゃないですか!?」
俺とリサが呆気に取られていると、運転手が恭しく後部座席のドアを開けた。
最初に降りてきたのは、俺たちの想像通りの人物だった。
上質なグレーのスーツを、少しも着崩すことなく着こなした白髪の老紳士。歳の頃は70代前半だろうか。その物腰は柔らかく、穏やかな笑顔には、育ちの良さと知性が滲み出ている。
彼が篠田幸太郎さんだろう。
「やあ、こんにちは。君が、ここのご主人かな? 篠田です、今日からお世話になります」
その声は、落ち着いていて、どこまでも紳士的だった。
俺は、緊張しながらも「よ、ようこそお越しくださいました!」と、深々とお辞儀をした。
問題は、その次に助手席から降りてきた人物だった。
金色に染められた長い髪。指先には、キラキラと宝石のような飾りがついた、派手なネイル。体のラインがくっきりと出る、流行の最先端を行くようなファッション。
年の頃は、20歳そこそこだろうか。
絵に描いたような「ギャル」風の若い女性は、少しだけ不機嫌そうに、スマホの画面から顔を上げると、俺たちを値踏みするように、ちらりと一瞥した。
「……どーも」
その、たった一言の挨拶。
老紳士とギャル。
あまりにも、ミスマッチな二人組。
俺の頭の中で情報処理が完全に追いついていなかった。
(え? 付き添いって、この子? 孫……にしちゃ、雰囲気が違いすぎる。親子、ではないよな。一体、どういう関係なんだ?)
その時、俺の脳裏にリサがたまに読んでいる週刊誌の見出しで見た、ある現代社会の闇を示す言葉が不謹慎にも浮かび上がってきてしまった。
(……パ、パパ活……!?)
隣に立つリサの方を、そっと盗み見る。
彼女も口を半開きにしたまま、目を白黒させて完全にフリーズしていた。その顔には、俺と全く同じ言葉が、デカデカと書かれている。
俺とリサは、内心の激しい動揺を悟られるわけにはいかない。
プロ(仮)として、どんなお客様も平等に最高の笑顔でお迎えするのだ。
「さ、ささ、どうぞ、中へ! 長旅でお疲れでしょう!」
俺は、人生で一番、ぎこちない笑顔を顔面に貼り付け、奇妙で、とてつもなく波乱の匂いがする二人組を民宿の中へと案内するのだった。
秋の穏やかな空気は、どこかへ吹き飛んでしまっていた。
俺のダンジョン民宿の周りでは、山々の木々が赤や黄色に色づき始め、吹く風は、秋鮭の到来を告げるように、少しだけ冷たさを増している。
「ご主人、見てください! ゴブ吉が焼き芋始めましたよ!」
リサが縁側から楽しそうな声を上げる。
庭の隅を見ると、ゴブ吉が、どこからか集めてきた大量の落ち葉で器用に焚き火をしている。その中には、俺が先日おすそ分けしてやったサツマイモが、数本埋められていた。
どうやら、すっかり秋の味覚の虜になったらしい。
そんな平和で食欲をそそる匂いに満ちた午後。
民宿の予約フォームに、一件の通知が届いた。
予約者名は「篠田幸太郎」。
その名前からして、なんだか品の良い人物像が思い浮かぶ。メッセージの文面も流麗な筆跡を思わせる、非常に丁寧なものだった。
備考欄には、こう書かれていた。
『当日は、付き添いの者と二人で伺います。静かな場所だと伺い、楽しみにしております』
「付き添い、か。奥様か、あるいは息子さんかな」
「上品な感じの素敵なご夫婦だったりして! よーし、今度は大人のための、しっとりとしたおもてなしを考えなくちゃ!」
リサは、すっかりその気だ。
俺も、これまでの賑やかなお客さんたちとは違う、穏やかな時間を過ごせそうだと、少しだけ期待していた。
そして約束の週末。
俺たちの、その淡い期待は、良い意味と、そして、とんでもなく予想外な意味で裏切られることになる。
民宿の前に静かに滑り込んできたのは、ピカピカに磨き上げられた、一台の黒塗りのハイヤーだった。
「……ハイヤー?」
「え、うちに来るお客さんで、ハイヤーで来た人、初めてじゃないですか!?」
俺とリサが呆気に取られていると、運転手が恭しく後部座席のドアを開けた。
最初に降りてきたのは、俺たちの想像通りの人物だった。
上質なグレーのスーツを、少しも着崩すことなく着こなした白髪の老紳士。歳の頃は70代前半だろうか。その物腰は柔らかく、穏やかな笑顔には、育ちの良さと知性が滲み出ている。
彼が篠田幸太郎さんだろう。
「やあ、こんにちは。君が、ここのご主人かな? 篠田です、今日からお世話になります」
その声は、落ち着いていて、どこまでも紳士的だった。
俺は、緊張しながらも「よ、ようこそお越しくださいました!」と、深々とお辞儀をした。
問題は、その次に助手席から降りてきた人物だった。
金色に染められた長い髪。指先には、キラキラと宝石のような飾りがついた、派手なネイル。体のラインがくっきりと出る、流行の最先端を行くようなファッション。
年の頃は、20歳そこそこだろうか。
絵に描いたような「ギャル」風の若い女性は、少しだけ不機嫌そうに、スマホの画面から顔を上げると、俺たちを値踏みするように、ちらりと一瞥した。
「……どーも」
その、たった一言の挨拶。
老紳士とギャル。
あまりにも、ミスマッチな二人組。
俺の頭の中で情報処理が完全に追いついていなかった。
(え? 付き添いって、この子? 孫……にしちゃ、雰囲気が違いすぎる。親子、ではないよな。一体、どういう関係なんだ?)
その時、俺の脳裏にリサがたまに読んでいる週刊誌の見出しで見た、ある現代社会の闇を示す言葉が不謹慎にも浮かび上がってきてしまった。
(……パ、パパ活……!?)
隣に立つリサの方を、そっと盗み見る。
彼女も口を半開きにしたまま、目を白黒させて完全にフリーズしていた。その顔には、俺と全く同じ言葉が、デカデカと書かれている。
俺とリサは、内心の激しい動揺を悟られるわけにはいかない。
プロ(仮)として、どんなお客様も平等に最高の笑顔でお迎えするのだ。
「さ、ささ、どうぞ、中へ! 長旅でお疲れでしょう!」
俺は、人生で一番、ぎこちない笑顔を顔面に貼り付け、奇妙で、とてつもなく波乱の匂いがする二人組を民宿の中へと案内するのだった。
秋の穏やかな空気は、どこかへ吹き飛んでしまっていた。
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