田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

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第6章 老紳士とギャルと、時を超えた約束

第44話 勘違いとおかしな二人

「ど、どうぞ……。お茶でございます……」

 俺は自分の人生で最もぎこちない手つきで、囲炉裏の間のテーブルに湯呑みを置いた。
 隣に立つリサも、完璧な笑顔を顔面に貼り付けているが、その目は全く笑っていない。

 俺たちの内心の動揺は、おそらく、目の前の二人にも伝わってしまっているだろう。

「うわ、まじ古っ。てか、Wi-Fi飛んでんの? ここ」

 派手なネイルをいじり、たちばなアカリと名乗ったギャルの女性が、値踏みするように部屋を見渡す。その言葉遣いの一つ一つが、俺の心をざわつかせる。

「あ、はい……。Wi-Fi、ございます……。た、たまに、弱くなりますけど……」

 俺がどもりながら答えると、隣に座る老紳士、篠田さんが優しく彼女を窘めた。

「こら、アカリちゃん。ご主人の前で失礼なことを言うもんじゃない」

「はーい」

 アカリさんは、気のない返事をしながら、再びスマホの画面に視線を落とした。

 篠田さんは、そんな彼女の様子を、困ったように、しかしどこか楽しそうに見つめている。
 そのなんとも言えない距離感。

 俺とリサは、どういう態度で接するのが正解なのか、全く分からなくなってしまった。
 客室にご案内する際も、問題は起きた。

「お部屋は、一番広い奥の和室をご用意いたしました」

 リサがそう言って、一部屋だけを案内すると、アカリさんが「は? 一部屋? まじ?」と、あからさまに嫌な顔をした。

(まずい、配慮が足りなかったか! やはり、二部屋用意すべきだったのか!?)

 俺たちが冷や汗をかいていると、篠田さんが「はっはっは」と鷹揚に笑った。

「アカリちゃんが、わしのイビキがうるさいと、いつも文句を言うもんですからな。ご心配なく。ちゃんと、それで予約しておりますので」

 その言葉に俺とリサは、さらに混乱の渦へと叩き込まれた。

(イビキ……? 一緒の部屋で寝るのが、前提……?)

 客室からそそくさと退散した俺とリサは、台所の隅で緊急の作戦会議を開いた。

「おい、リサ……。どうするんだ、これ。完全に、アレだろ……」

「しーっ! ご主人、声が大きいです! 聞こえますよ!」

 リサは人差し指を口に当て、必死に声を潜める。

「いいですか。お客様は、お客様です。我々は、いかなるバックグラウンドをお持ちのお客様であろうと、平等に、温かく、プロフェッショナルなサービスを提供する。それが、おもてなしの心です! 見て見ぬフリを、貫き通すんですよ!」

 彼女は、なぜか誇らしげに胸を張っている。 その変なところで発揮されるプロ意識は、一体どこから来るんだ。
 しかし、そんな俺たちの決意を客室から漏れ聞こえてくる会話が容赦なく打ち砕いていく。

「ねえ、じいじ。マジでこんな田舎のボロい宿に泊まるわけ? 超ウケるんだけど」

「まあ、そう言うな。ここには、わしにとって、とても大事な用事があるんだ。アカリちゃんも、少しは我慢して、おじいちゃんに付き合ってくれんか」

「はーい、分かったってば。てかさ、お小遣い、ちょっと前借りできない? この前言ってた、新しいコスメ、マジ欲しいんだけど」

「はっはっは。しょうがない子だなあ」

 じいじ……?
 お小遣い……?
 うわー、生々しい……。

 俺とリサは顔を見合わせた。俺たちの頭の中では、様々な想像と倫理観、好奇心とが激しいバトルを繰り広げていた。

 しばらくして、二人が縁側に出てきた。
 その時、庭で日向ぼっこをしていたプルと落ち葉掃除をしていたゴブ吉が、彼らの前に姿を現した。

「ほう。これはこれは。動画で見た通り、なんとも可愛らしい子たちですな」

 篠田さんは、目を細めて、モンスターたちを優しく見つめている。

 一方、アカリさんは、

「え、キモ! なにあれ、スライム? ガチじゃん」

 と、最初はドン引きしていた。

 だが、プルが彼女の足元にすり寄ってきたり、ゴブ吉が深々と礼儀正しくお辞儀をしたりすると、彼女の反応は少しずつ変わっていった。

「え、なに……。ウケるんだけど……。意外と、カワイイかも……」

 彼女はそう呟くと、スマホを取り出し、長いネイルが映えるように、プルと一緒にパシャリと写真を撮り始めた。どうやらSNSのストーリーにでもアップするらしい。
 そんな二人を眺めながら、篠田さんがダンジョンの入り口がある裏山の方を、じっと見つめて、ぽつりと言った。

「さて……。明日あたり、あの洞窟を少し探検させてもらおうかのう」

「えー、まじで行くの? このヒールじゃ、絶対無理だって」

 アカリさんが心底嫌そうに文句を言う。

「はっはっは。大丈夫だ、アカリちゃん。お前のために、ちゃんと歩きやすいスニーカーも、持ってきてあるぞ」

「用意周到かよ! さすが!」

 そのあまりにも自然な家族のようなやり取り。

 俺たちの混乱は、もはや頂点に達していた。
 このちぐはぐな二人の、本当の関係とは、一体なんなのか。
 そして、篠田さんの言う「大事な用事」とは、一体、何なのだろうか。

 謎は深まるばかりだ。

 俺は、明日からのダンジョン探検が波乱の展開になることだけは、間違いないと確信していた。
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