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第6章 老紳士とギャルと、時を超えた約束
第45話 ギャルとダンジョンと、優しい本音
翌朝。
俺とリサは、これから始まるであろうダンジョン探検に、いつもとは違う種類の緊張感を覚えていた。
上品な老紳士と、派手なギャル。このミスマッチな二人をどうエスコートすればいいのか。 正解が全く分からない。
「さあ、アカリちゃん、行こうか」
篠田さんは、探検に備えて品の良いツイードのジャケットを羽織っている。紳士のダンジョン探検スタイル、とでも言うのだろうか。
一方、アカリさんは、篠田さんが用意したという真新しいスニーカーを履いてはいるものの服装は体のラインにフィットした都会的なファッションのままだ。
「まじ、こんな格好で洞窟とかありえないんだけど。てか、普通に考えて、圏外っしょ? ストーリーあげられないじゃん」
彼女は朝から少し不機嫌そうに、スマホの電波表示を気にしている。
「中は少し肌寒いかもしれませんから、これをどうぞ」
俺が予備で持っていたフリースの上着を差し出すと、アカリさんは一瞬きょとんとした。
「……え、気が利くじゃん。サンキュ」
少しだけ素直にそれを受け取った。
こうして俺たちの奇妙な探検隊は、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。
ひんやりとした空気に、アカリさんは「うわ、寒っ!」と大げさに身を震わせ、俺から借りたフリースに顔をうずめる。
そして壁一面の光る苔が織りなす、幻想的な光景が目の前に広がった瞬間。
「……え、なにこれ」
彼女の動きが、ぴたりと止まった。
「これ、ガチで光ってんの? やば……。超チルいじゃん……」
彼女は、今どきの若者言葉で、しかし、紛れもない本心からの感動を呟いた。そして、すかさずスマホを取り出すと、その光景を何枚も写真に収め始める。
「#ダンジョンなう #ガチ秘境 #光る苔しか勝たん」
そんなハッシュタグを付けて投稿しようとしているが、案の定、電波は圏外だった。
通路の脇から、プルン、とスライムが姿を現す。
「あ、ぷにぷにじゃん」
昨日、少しだけ触れ合ったからか、アカリさんはもう怖がる様子はない。
自分から近づいていくと、その派手なネイルが施された長い指先で、プルの体をぷにぷにと突つき始めた。
「この感触、マジ神。超かわちい……」
すっかり、スライムの魅力の虜になったらしい。
次に礼儀正しいゴブリンが、ぺこりとお辞儀をしながら登場した。
「出た、お辞儀ゴブリン!」
アカリさんは、面白くてたまらないといった様子でスマホの動画モードを起動する。
「ちょ、ゴブリン! もっかい、もっかいやって!」
彼女の無茶振りに、ゴブリンは少し困惑しながらも、もう一度、律儀にぺこりとお辞儀をしてみせた。
「アハハハ! ウケる! 礼儀正しすぎでしょ、あんた!」
彼女の屈託のない笑い声が、静かなダンジョンの中に響き渡った。
そんな風に、アカリさんがモンスターたちと無邪気に戯れている間、篠田さんは、ただ静かに、どこか遠い目をして、ダンジョンの景色を眺めていた。
それは単に珍しい光景を眺めている者の目ではなかった。
この場所の、一つ一つの岩肌や、苔の光の中に、遠い過去の、誰かの面影を探している。
そんな切ない表情だった。
探検の途中、少しだけ足場が悪く、ぬかるんだ場所があった。
篠田さんが革靴の底を滑らせ、おっと、と体勢を崩しかけた、その瞬間。
「――じいじ!」
それまでスマホに夢中だったアカリさんが、弾かれたように顔を上げ、さっと篠田さんの腕を掴んで、その体を力強く支えた。
「危ないって! 足元、ちゃんと見てよ!」
その声は、いつものような気だるげなものではなく、本気で心配している焦った声だった。
「すまん、すまん。ありがとうよ、アカリちゃん」
「もー、マジでしっかりしてよね!」
憎まれ口を叩きながらも、彼女は篠田さんが通り過ぎるまで、その腕をしっかりと支え続けていた。
その姿は、パパ活相手に見せる顔ではない。
血の繋がった大切な家族を、心から気遣う孫娘の優しい顔だった。
俺とリサは、その光景を見て確信した。
俺たちの、あの下世話な勘違いは、本当にただの勘違いだったのだと。
やがて、一行は泉の広場へと到着した。
篠田さんは、その幻想的な光景をしばらくの間、ただ黙って、じっと見つめていた。
そして、ゆっくりと俺の方を振り返った。
「ご主人。少し昔話をさせてもらってもいいかな」
このダンジョン探検の本当の目的。
物語の核心に触れる時が、いよいよ、やってきたのだ。
俺とリサは、これから始まるであろうダンジョン探検に、いつもとは違う種類の緊張感を覚えていた。
上品な老紳士と、派手なギャル。このミスマッチな二人をどうエスコートすればいいのか。 正解が全く分からない。
「さあ、アカリちゃん、行こうか」
篠田さんは、探検に備えて品の良いツイードのジャケットを羽織っている。紳士のダンジョン探検スタイル、とでも言うのだろうか。
一方、アカリさんは、篠田さんが用意したという真新しいスニーカーを履いてはいるものの服装は体のラインにフィットした都会的なファッションのままだ。
「まじ、こんな格好で洞窟とかありえないんだけど。てか、普通に考えて、圏外っしょ? ストーリーあげられないじゃん」
彼女は朝から少し不機嫌そうに、スマホの電波表示を気にしている。
「中は少し肌寒いかもしれませんから、これをどうぞ」
俺が予備で持っていたフリースの上着を差し出すと、アカリさんは一瞬きょとんとした。
「……え、気が利くじゃん。サンキュ」
少しだけ素直にそれを受け取った。
こうして俺たちの奇妙な探検隊は、ダンジョンの中へと足を踏み入れた。
ひんやりとした空気に、アカリさんは「うわ、寒っ!」と大げさに身を震わせ、俺から借りたフリースに顔をうずめる。
そして壁一面の光る苔が織りなす、幻想的な光景が目の前に広がった瞬間。
「……え、なにこれ」
彼女の動きが、ぴたりと止まった。
「これ、ガチで光ってんの? やば……。超チルいじゃん……」
彼女は、今どきの若者言葉で、しかし、紛れもない本心からの感動を呟いた。そして、すかさずスマホを取り出すと、その光景を何枚も写真に収め始める。
「#ダンジョンなう #ガチ秘境 #光る苔しか勝たん」
そんなハッシュタグを付けて投稿しようとしているが、案の定、電波は圏外だった。
通路の脇から、プルン、とスライムが姿を現す。
「あ、ぷにぷにじゃん」
昨日、少しだけ触れ合ったからか、アカリさんはもう怖がる様子はない。
自分から近づいていくと、その派手なネイルが施された長い指先で、プルの体をぷにぷにと突つき始めた。
「この感触、マジ神。超かわちい……」
すっかり、スライムの魅力の虜になったらしい。
次に礼儀正しいゴブリンが、ぺこりとお辞儀をしながら登場した。
「出た、お辞儀ゴブリン!」
アカリさんは、面白くてたまらないといった様子でスマホの動画モードを起動する。
「ちょ、ゴブリン! もっかい、もっかいやって!」
彼女の無茶振りに、ゴブリンは少し困惑しながらも、もう一度、律儀にぺこりとお辞儀をしてみせた。
「アハハハ! ウケる! 礼儀正しすぎでしょ、あんた!」
彼女の屈託のない笑い声が、静かなダンジョンの中に響き渡った。
そんな風に、アカリさんがモンスターたちと無邪気に戯れている間、篠田さんは、ただ静かに、どこか遠い目をして、ダンジョンの景色を眺めていた。
それは単に珍しい光景を眺めている者の目ではなかった。
この場所の、一つ一つの岩肌や、苔の光の中に、遠い過去の、誰かの面影を探している。
そんな切ない表情だった。
探検の途中、少しだけ足場が悪く、ぬかるんだ場所があった。
篠田さんが革靴の底を滑らせ、おっと、と体勢を崩しかけた、その瞬間。
「――じいじ!」
それまでスマホに夢中だったアカリさんが、弾かれたように顔を上げ、さっと篠田さんの腕を掴んで、その体を力強く支えた。
「危ないって! 足元、ちゃんと見てよ!」
その声は、いつものような気だるげなものではなく、本気で心配している焦った声だった。
「すまん、すまん。ありがとうよ、アカリちゃん」
「もー、マジでしっかりしてよね!」
憎まれ口を叩きながらも、彼女は篠田さんが通り過ぎるまで、その腕をしっかりと支え続けていた。
その姿は、パパ活相手に見せる顔ではない。
血の繋がった大切な家族を、心から気遣う孫娘の優しい顔だった。
俺とリサは、その光景を見て確信した。
俺たちの、あの下世話な勘違いは、本当にただの勘違いだったのだと。
やがて、一行は泉の広場へと到着した。
篠田さんは、その幻想的な光景をしばらくの間、ただ黙って、じっと見つめていた。
そして、ゆっくりと俺の方を振り返った。
「ご主人。少し昔話をさせてもらってもいいかな」
このダンジョン探検の本当の目的。
物語の核心に触れる時が、いよいよ、やってきたのだ。
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