田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと

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第6章 老紳士とギャルと、時を超えた約束

第47話 町を挙げろ!初恋の人、大捜索!

 ダンジョンから民宿に戻った俺たちは、囲炉裏の間に集まり、緊急作戦会議を開いていた。
 議題はもちろん「佐々木小夜子さんを探せ!大作戦」である。

「手がかりは……50年以上前に、町の食堂で働いていたこと。苗字が佐々木で、下の名前が小夜子さん……。うーん、あまりにも情報が少ないですね」

 リサがノートに書き出した情報を眺めながら腕を組んで唸る。

「本当に、無理を言ってすまないね……。見つからなくても、仕方がないと覚悟はできておるんじゃ」

 篠田さんは、申し訳なさそうに、そう言って肩を落とす。

 その時だった。
 今まで黙って話を聞いていたアカリさんが、おもむろに口を開いた。

「……ねえ、あんたたち」

 彼女は、俺とリサの顔をまっすぐに見つめた。

「じいじが、ずっと、この日のことを夢見てたの知ってんだ。だから……マジでお願い。じいじの初恋の人、見つけてやってよ」

 その瞳は、気だるげなものではなく、真剣そのものだった。

 俺は、この機会に、ずっと気になっていたことを尋ねてみた。

「アカリちゃんは、どうして、そこまで篠田さんのために……? 失礼だけど、二人は本当の家族、ではないんだろう?」

 すると、アカリさんは、少しだけ照れくさそうに視線を逸らしながら、ぽつりぽつりと話してくれた。
 彼女は、篠田さんが若い頃に世話になった、恩人の孫娘なのだという。幼い頃に両親を亡くした彼女にとって、ずっと親代わりとなって面倒を見てくれたのが、篠田さんだったのだ。

「だから、じいじは、あたしにとって、本物のおじいちゃんみたいなもん。その、たった一人のじいじがさ、人生でやり残したこと、あるって言うなら……。孫として、叶えてやりたいって思うじゃん。普通」

 パパ活だなんて、とんでもない勘違いをしていた自分たちが、心底恥ずかしくなった。
 俺とリサは目に見えないくらいの速さでアイコンタクトを交わし、『全力で協力しよう!』という熱い誓いを立てた。


 翌日。
 俺たちの町を挙げた大捜索が始まった。
 まず向かったのは、町で一番の情報が集まる場所――魚屋の市場だ。
 俺たちが、魚屋の大将に事情を話すと、彼は鼻で笑った。

「ああん? 佐々木小夜子ぉ? 50年以上も前の話だろ? そんな昔のこと、知るかよ!」

 最初は取り付く島もなかった。
 だが、篠田さんが自ら深々と頭を下げ、「どうか、お願いします」と懇願し、アカリさんも、「お願い、おじさん! 力、貸してよ!」と普段の彼女からは想像もできないくらい、素直に頼み込んだ。

 その姿にさすがの大将も心を動かされたらしい。

「……ったく、しょうがねえなあ!」

 彼はガシガシと頭をかくと、市場の同業者たちに向かって野太い声を張り上げた。

「おーい、おめえら! ちょっと耳貸せ! 50年くれえ前に、この町にいた佐々木小夜子って女、知ってるやつはいねえかー!」

 次に訪れた八百屋では、おばちゃんが目をキラキラさせて話を聞いてくれた。

「まあ! 50年越しの初恋! なんてロマンチックなの!」

 彼女は井戸端会議ネットワークの総帥として、その情報網を駆使し、町中の主婦たちに聞き込みをしてくれると、力強く約束してくれた。

 隣の鈴木さんも、家の押し入れから、卒業アルバムや昔の町内会の名簿といった、貴重な資料を引っ張り出してきて、一緒に名前を探してくれた。

 そして、リサが「最終手段です!」と連絡を取ったのが役場の佐藤さんだった。

「個人情報の観点から、非常に難しい案件ですが……」

 佐藤さんは、最初こそ公務員として慎重な姿勢だった。しかし、篠田さんの切実な物語と、

「これが成功すれば、うちの町が『ロマンスの聖地』として、ピクニコ動画でバズるかもしれませんよ!」

 というリサの悪魔の囁きに、心が揺らいだらしい。

「……分かりました。職権濫用はできませんので、個人的に――あくまで個人的に探してみます」

 小さな民宿から始まった捜索は、漁師ネットワーク、主婦ネットワーク、老人会ネットワーク、そしてついには行政までを巻き込んだかもしれない、町ぐるみの一大プロジェクトへと発展していった。

 だが、捜索は困難を極めた。

「佐々木」という苗字は、この町にも決して少なくない。何より50年という歳月は、あまりにも長い。結婚して、苗字が変わっている可能性が非常に高かった。
 様々な情報が寄せられるものの、なかなか決定的なものには、たどり着かない。


 捜索開始から半日が過ぎた頃。
 篠田さんの顔にも、少しずつ諦めの色が浮かび始めていた。

 もう、無理なのかもしれない。
 誰もが、そう思い始めた、その時だった。

 俺のスマホが、けたたましく鳴った。
 表示された名前は「役場 佐藤美咲」。
 俺が緊張しながら電話に出ると、スピーカーの向こうから、今まで聞いたこともないくらい興奮した佐藤さんの声が聞こえてきた。

「た、田中さん! 見つかったかもしれません!」

 彼女は息を切らしながら叫ぶように言った。

「一人だけ……一人だけ、該当しそうな方が、いらっしゃいました! 旧姓が、佐々木小夜子さん。ご結婚されて、今は、別のお名前になっていますが……間違いありません! 確かに、今もこの町にお住まいです!」

 その言葉にその場にいた、俺とリサ、アカリさんも、そして篠田さんも、ただ息をのんだ。
 50年という長すぎた時を超えて。
 運命の歯車が、今、再び、ゆっくりと、動き出そうとしていた。
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