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第6章 老紳士とギャルと、時を超えた約束
第50話 新しい家族と、未来への約束
民宿に戻ると、リサが「お帰りなさい!」と、満面の笑みで俺たちを迎えてくれた。彼女は多くを語らずとも、篠田さんの晴れやかな表情を見て、すべてを察したようだった。
その夜の食卓は、これまでにないほど、穏やかで、晴れやかで、そして温かい空気に満ちていた。
俺は腕によりをかけて、この町の秋の恵みをふんだんに使った料理を並べた。脂の乗った秋鮭のちゃんちゃん焼き、ゴブ吉が採ってきたキノコたっぷりのけんちん汁、炊き立ての新米。
「うまい、うまいぞ、ご主人! こんなに飯が美味いと感じたのは、何十年ぶりかのう!」
篠田さんは、憑き物が落ちたように明るい表情で、少年のような笑顔を見せながら、何度も、何度も、そう言ってくれた。
一方、アカリさんは、安心したからか、すっかりリラックスモードだ。リサと二人で、「このネイル、マジ盛れるくない?」「ピクニコ動画って、やっぱ顔出ししないとバズんないの?」などと、俺には到底理解できない、今どきのガールズトークに花を咲かせている。
その光景は、どこからどう見ても、孫娘とその新しい友達が食卓で談笑しているようにしか見えなかった。
食後、俺と篠田さんは、縁側で二人静かにお茶を飲んでいた。
夜空には冴え冴えとした月が浮かんでいる。
「ご主人。わしは、大きな勘違いをしておったよ」
篠田さんは、湯呑みを両手で包み込みながら静かに語り始めた。
「わしは、自分の過去を『清算』するために、この町へ来たつもりだった。だが、そうではなかったんじゃな。わしの過去は、清算すべきものではなく、今のわしという人間を形作る、かけがえのない、大切な宝物だったんじゃ。小夜子くんが……そして、この場所が、それを教えてくれた」
彼は、部屋の中でリサと笑い合っているアカリさんの姿に優しい眼差しを向けた。
「そして、アカリちゃんという、血の繋がらない、やかましくて、手のかかる孫も……わしにとっては、同じくらい大切な宝物じゃよ。あの子がいなければ、わしは、ここへ来る勇気さえ、持てなかっただろうからな」
その時だった。
「じいじ、夜は冷えるって、いつも言ってんじゃん。風邪ひいたら、あたしが面倒みるの大変なんだからね」
部屋の中から、アカリさんがぶっきらぼうな口調で言いながら、一枚の毛布を持ってきた。 そして、篠田さんの肩に、そっと優しくかけてやる。
その行動は、彼女の不器用な、しかし、どこまでも深い愛情に満ちていた。
アカリさんは、俺の方を見ると少しだけ照れくさそうに、そっぽを向きながら言った。
「……あんたの飯、まあまあイケんじゃん。また、じいじと二人で食べに来てやってもいいし」
それは彼女なりの、最高の賛辞と再訪の約束。
翌朝、旅立ちの時が来た。
篠田さんは、改めて俺とリサに、深く、深く頭を下げた。
「ここは、本当に不思議な場所だ。過去と向き合い、未来へ進む力をくれる。わしにとって、第二の故郷のような場所になったよ。必ず、また帰ってくる」
アカリさんは、すっかり仲良くなったモンスターたちに、一人一人別れを告げている。
「じゃーね、ぷにぷに! また遊んでよね!」
「お辞儀ゴブリンも、達者でな!」
黒塗りのハイヤーに乗り込む直前、篠田さんは、俺に一枚の名刺をすっと差し出した。
「もし、東京に出てくるようなことがあれば、いつでも連絡しなさい。君のような、誠実で腕のいい料理人の若者の力になれるなら、わしは、喜んで力を貸すつもりだ」
俺は、その名刺をありがたく両手で受け取った。やがて、ハイヤーは、紅葉が始まった美しい道を静かに走り去っていく。
俺とリサは、その姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けた。
静けさを取り戻した縁側に戻ると、テーブルの上に、キラリと光る小さな忘れ物があるのに、リサが気づいた。
それは、アカリさんが落としていったのだろう、宝石のように輝く一枚のネイルチップだ。
「忘れ物ですね」
リサが拾い上げて、くすりと笑う。
俺はどこまでも高く澄み渡った秋の空を見上げながら答えた。
「ああ。また、取りに来るだろ。あのお節介な孫が忘れん坊のじいじの手を引いてな」
血の繋がりだけが家族じゃない。
このダンジョン民宿は、また一つ、温かくて新しい絆の形を、俺たちに教えてくれた。
そして次なる季節が、また新たな出会いを運んでくるのを、静かに待ち続けているのだった。
その夜の食卓は、これまでにないほど、穏やかで、晴れやかで、そして温かい空気に満ちていた。
俺は腕によりをかけて、この町の秋の恵みをふんだんに使った料理を並べた。脂の乗った秋鮭のちゃんちゃん焼き、ゴブ吉が採ってきたキノコたっぷりのけんちん汁、炊き立ての新米。
「うまい、うまいぞ、ご主人! こんなに飯が美味いと感じたのは、何十年ぶりかのう!」
篠田さんは、憑き物が落ちたように明るい表情で、少年のような笑顔を見せながら、何度も、何度も、そう言ってくれた。
一方、アカリさんは、安心したからか、すっかりリラックスモードだ。リサと二人で、「このネイル、マジ盛れるくない?」「ピクニコ動画って、やっぱ顔出ししないとバズんないの?」などと、俺には到底理解できない、今どきのガールズトークに花を咲かせている。
その光景は、どこからどう見ても、孫娘とその新しい友達が食卓で談笑しているようにしか見えなかった。
食後、俺と篠田さんは、縁側で二人静かにお茶を飲んでいた。
夜空には冴え冴えとした月が浮かんでいる。
「ご主人。わしは、大きな勘違いをしておったよ」
篠田さんは、湯呑みを両手で包み込みながら静かに語り始めた。
「わしは、自分の過去を『清算』するために、この町へ来たつもりだった。だが、そうではなかったんじゃな。わしの過去は、清算すべきものではなく、今のわしという人間を形作る、かけがえのない、大切な宝物だったんじゃ。小夜子くんが……そして、この場所が、それを教えてくれた」
彼は、部屋の中でリサと笑い合っているアカリさんの姿に優しい眼差しを向けた。
「そして、アカリちゃんという、血の繋がらない、やかましくて、手のかかる孫も……わしにとっては、同じくらい大切な宝物じゃよ。あの子がいなければ、わしは、ここへ来る勇気さえ、持てなかっただろうからな」
その時だった。
「じいじ、夜は冷えるって、いつも言ってんじゃん。風邪ひいたら、あたしが面倒みるの大変なんだからね」
部屋の中から、アカリさんがぶっきらぼうな口調で言いながら、一枚の毛布を持ってきた。 そして、篠田さんの肩に、そっと優しくかけてやる。
その行動は、彼女の不器用な、しかし、どこまでも深い愛情に満ちていた。
アカリさんは、俺の方を見ると少しだけ照れくさそうに、そっぽを向きながら言った。
「……あんたの飯、まあまあイケんじゃん。また、じいじと二人で食べに来てやってもいいし」
それは彼女なりの、最高の賛辞と再訪の約束。
翌朝、旅立ちの時が来た。
篠田さんは、改めて俺とリサに、深く、深く頭を下げた。
「ここは、本当に不思議な場所だ。過去と向き合い、未来へ進む力をくれる。わしにとって、第二の故郷のような場所になったよ。必ず、また帰ってくる」
アカリさんは、すっかり仲良くなったモンスターたちに、一人一人別れを告げている。
「じゃーね、ぷにぷに! また遊んでよね!」
「お辞儀ゴブリンも、達者でな!」
黒塗りのハイヤーに乗り込む直前、篠田さんは、俺に一枚の名刺をすっと差し出した。
「もし、東京に出てくるようなことがあれば、いつでも連絡しなさい。君のような、誠実で腕のいい料理人の若者の力になれるなら、わしは、喜んで力を貸すつもりだ」
俺は、その名刺をありがたく両手で受け取った。やがて、ハイヤーは、紅葉が始まった美しい道を静かに走り去っていく。
俺とリサは、その姿が見えなくなるまで、いつまでも手を振り続けた。
静けさを取り戻した縁側に戻ると、テーブルの上に、キラリと光る小さな忘れ物があるのに、リサが気づいた。
それは、アカリさんが落としていったのだろう、宝石のように輝く一枚のネイルチップだ。
「忘れ物ですね」
リサが拾い上げて、くすりと笑う。
俺はどこまでも高く澄み渡った秋の空を見上げながら答えた。
「ああ。また、取りに来るだろ。あのお節介な孫が忘れん坊のじいじの手を引いてな」
血の繋がりだけが家族じゃない。
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そして次なる季節が、また新たな出会いを運んでくるのを、静かに待ち続けているのだった。
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