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第17章 聖奈の完全敗北と喜べない女子団体優勝
暴かれた真実~でも復讐は何も残らない~
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恭介が差し出した一本の飲料水を見て、早乙女は一瞬驚いたような表情を浮かべた。だがすぐに、何のことだと言わんばかりの態度で言い返してくる。
「それは確かに、うちの会社の飲料水ですが……それが、何か?」
恭介は静かに、しかし怒りを抑えた声で応じた。
「ええ、そうです。これはあなたの会社が製造したものです。そして、その中から――大量の精神作用物質が検出されました。」
一瞬、会議室の空気が凍りついた。
「しかもそれは、旭日中学の剣術部の控室に置かれていたものです。そして最も濃度が高かったのが……うちの娘――綾野聖奈の専用ドリンクでした。」
恭介の目が、怒りで鋭く光る。しかし、早乙女は涼しい顔で肩をすくめる。
「それで? どんな成分が出たというんですか。その成分が、どんな作用を及ぼすと? それに私が直接、あなたの娘さんに飲ませたとでも?」
堂々とした態度で、逆に恭介を睨み返してきた。
「はい。先ほど、娘本人から聞きました。本大会の前日、あなたは剣術部を訪れていましたね? 選手たちにアンケートを取り、心境を丁寧に聞いて回ったとか。」
恭介の問いに、早乙女はむしろ得意げに頷いた。
「ええ、そうですよ。選手の緊張を和らげようとね。効果的なものをご用意しました。でもあれは、国の基準を通過した安全な飲料です。量が多い? それは心外ですね。基準値内で出してますよ。データを見せましょうか?」
そう言って書類を出し、早乙女は勝ち誇ったように笑った。
「ね、ここにもあるでしょう? 正常値です。何も問題ないはずですよ。」
その時、背後から低く、落ち着いた声が聞こえた。
「それについては、私が説明します。」
現れたのは――つぐみの夫、霞優悟だった。
「たしかに、成分自体は基準値内です。だがこれは、強い不安や緊張を抱えている者が摂取すると、逆に過敏反応を起こすものです。本来は、注意喚起が必要な成分。あなたの提供した飲料には、それが明示されていなかった。」
早乙女が言い返す。
「ええ、ちゃんと書いてありますとも。ラベルに。読めば分かるはずです。それくらい理解してもらわないと。それに、あなたはどちら様?」
その問いに、つぐみがふっと微笑む。
「この人は、私の夫よ。医科大学病院の最高責任者、霞優悟。日本で三本の指に入る、名医中の名医よ。」
優悟は一礼しながら名乗った。
「霞優悟と申します。」
その名前に、会議室内はざわついた。名を聞いただけで、空気が変わる。
「そ、そんな大先生が……なぜ?」
早乙女の額に、汗が滲む。
「実は――聖奈ちゃんは、私にとっても娘のような存在でね。そんな子が、精神的に追い詰められていたと知って、黙ってはいられなかったんですよ。」
優悟が歩み寄る。
「あなたは、聖奈ちゃんにこの飲料を渡した時、ちゃんと“これは薬的効果のあるものです”と、説明しましたか? していなければ、薬剤法違反です。」
「し、しましたよ! もちろん……!」
早乙女がしどろもどろに答えたその時、恭介がスマホを取り出し、録音を再生した。
『聖奈、そんなに不安だったのなら、もっと早く相談してくれれば良かったのに……。』
『大会の前日、OBの人が来てアンケートを取っていったの。それで、不安が消えるって言って飲み物をくれたの。』
『その飲み物って……これか?』
『うん。飲んだら、本当にすっきりして。不安が消えたの。』
『それ、薬だって説明された?』
『ううん。言われてない。でも、楽になったなら良かったって……笑ってた。』
そこで、音声は止まった。
優悟の目が鋭く光る。
「――説明、してませんね。」
詰め寄られた早乙女は、なおも抗おうとした。
「そ、その子が嘘を言っているんだ! 私はちゃんと伝えた!」
だが、優悟は静かに問いかけた。
「それを証明できる証拠は?」
返答は――なかった。早乙女は膝をついた。
「……なぜ、こんなことを?」
つぐみが、淡々と問いかける。
すると早乙女は、憎しみのこもった声で叫んだ。
「娘だ……! 俺の娘、楓花を追い出したのはあいつらだ! 姫柊咲と、綾野聖奈! 二人がうちの子を剣術部から追い出し、息子の悪次も、綾野恭弥に完膚なきまでに叩き潰された! 転校して、今は家から一歩も出てこない……! だから……だから仕返ししてやったんだ!」
その告白に、恭介の拳が震える。だが――。
「恭介、やめなさい。」
つぐみが、その拳を静かに制した。
「あなたが手を出すまでもないわ。これからこの男は、もっと過酷な罰を受けることになる。」
つぐみは早乙女を真っすぐ見据えて言い放った。
「壊されたって? それは、あなたがちゃんと子どもたちを導いてこなかったからよ。うちの子たちは――恭介も、奏ちゃんも、聖歌ちゃんも――親の責任を果たしてきたの。」
そして、早乙女の胸元から大会主催者のバッジを引きちぎる。
「連れて行きなさい。これで、あなたはもう“日の当たる場所”には戻れないわ。」
早乙女は、うなだれたまま連行されていった。
静寂が戻った会議室で、つぐみが大会委員に向き直る。
「さて、試合は予定通り続行してください。余計な混乱は、選手たちに関係のない話です。」
そして、恭介の肩にそっと手を置き、微笑む。
「これで良かった? 聖奈ちゃんの件は解決よ。じゃあ、あなたの今日の任務はここまで。あとは、しっかり“お父さん”をやりなさい。」
恭介は小さく頷くと、優悟に一礼し、会場へと向かった。
その背を見送って、優悟がふっと笑う。
「いい男が、行ってしまったな。」
「ふふっ。でも今日は――私は“優悟の妻”よ。だから、あなたと一緒にいさせて。」
つぐみはそう言って、霞優悟とともに特別観覧席へと向かった。
「それは確かに、うちの会社の飲料水ですが……それが、何か?」
恭介は静かに、しかし怒りを抑えた声で応じた。
「ええ、そうです。これはあなたの会社が製造したものです。そして、その中から――大量の精神作用物質が検出されました。」
一瞬、会議室の空気が凍りついた。
「しかもそれは、旭日中学の剣術部の控室に置かれていたものです。そして最も濃度が高かったのが……うちの娘――綾野聖奈の専用ドリンクでした。」
恭介の目が、怒りで鋭く光る。しかし、早乙女は涼しい顔で肩をすくめる。
「それで? どんな成分が出たというんですか。その成分が、どんな作用を及ぼすと? それに私が直接、あなたの娘さんに飲ませたとでも?」
堂々とした態度で、逆に恭介を睨み返してきた。
「はい。先ほど、娘本人から聞きました。本大会の前日、あなたは剣術部を訪れていましたね? 選手たちにアンケートを取り、心境を丁寧に聞いて回ったとか。」
恭介の問いに、早乙女はむしろ得意げに頷いた。
「ええ、そうですよ。選手の緊張を和らげようとね。効果的なものをご用意しました。でもあれは、国の基準を通過した安全な飲料です。量が多い? それは心外ですね。基準値内で出してますよ。データを見せましょうか?」
そう言って書類を出し、早乙女は勝ち誇ったように笑った。
「ね、ここにもあるでしょう? 正常値です。何も問題ないはずですよ。」
その時、背後から低く、落ち着いた声が聞こえた。
「それについては、私が説明します。」
現れたのは――つぐみの夫、霞優悟だった。
「たしかに、成分自体は基準値内です。だがこれは、強い不安や緊張を抱えている者が摂取すると、逆に過敏反応を起こすものです。本来は、注意喚起が必要な成分。あなたの提供した飲料には、それが明示されていなかった。」
早乙女が言い返す。
「ええ、ちゃんと書いてありますとも。ラベルに。読めば分かるはずです。それくらい理解してもらわないと。それに、あなたはどちら様?」
その問いに、つぐみがふっと微笑む。
「この人は、私の夫よ。医科大学病院の最高責任者、霞優悟。日本で三本の指に入る、名医中の名医よ。」
優悟は一礼しながら名乗った。
「霞優悟と申します。」
その名前に、会議室内はざわついた。名を聞いただけで、空気が変わる。
「そ、そんな大先生が……なぜ?」
早乙女の額に、汗が滲む。
「実は――聖奈ちゃんは、私にとっても娘のような存在でね。そんな子が、精神的に追い詰められていたと知って、黙ってはいられなかったんですよ。」
優悟が歩み寄る。
「あなたは、聖奈ちゃんにこの飲料を渡した時、ちゃんと“これは薬的効果のあるものです”と、説明しましたか? していなければ、薬剤法違反です。」
「し、しましたよ! もちろん……!」
早乙女がしどろもどろに答えたその時、恭介がスマホを取り出し、録音を再生した。
『聖奈、そんなに不安だったのなら、もっと早く相談してくれれば良かったのに……。』
『大会の前日、OBの人が来てアンケートを取っていったの。それで、不安が消えるって言って飲み物をくれたの。』
『その飲み物って……これか?』
『うん。飲んだら、本当にすっきりして。不安が消えたの。』
『それ、薬だって説明された?』
『ううん。言われてない。でも、楽になったなら良かったって……笑ってた。』
そこで、音声は止まった。
優悟の目が鋭く光る。
「――説明、してませんね。」
詰め寄られた早乙女は、なおも抗おうとした。
「そ、その子が嘘を言っているんだ! 私はちゃんと伝えた!」
だが、優悟は静かに問いかけた。
「それを証明できる証拠は?」
返答は――なかった。早乙女は膝をついた。
「……なぜ、こんなことを?」
つぐみが、淡々と問いかける。
すると早乙女は、憎しみのこもった声で叫んだ。
「娘だ……! 俺の娘、楓花を追い出したのはあいつらだ! 姫柊咲と、綾野聖奈! 二人がうちの子を剣術部から追い出し、息子の悪次も、綾野恭弥に完膚なきまでに叩き潰された! 転校して、今は家から一歩も出てこない……! だから……だから仕返ししてやったんだ!」
その告白に、恭介の拳が震える。だが――。
「恭介、やめなさい。」
つぐみが、その拳を静かに制した。
「あなたが手を出すまでもないわ。これからこの男は、もっと過酷な罰を受けることになる。」
つぐみは早乙女を真っすぐ見据えて言い放った。
「壊されたって? それは、あなたがちゃんと子どもたちを導いてこなかったからよ。うちの子たちは――恭介も、奏ちゃんも、聖歌ちゃんも――親の責任を果たしてきたの。」
そして、早乙女の胸元から大会主催者のバッジを引きちぎる。
「連れて行きなさい。これで、あなたはもう“日の当たる場所”には戻れないわ。」
早乙女は、うなだれたまま連行されていった。
静寂が戻った会議室で、つぐみが大会委員に向き直る。
「さて、試合は予定通り続行してください。余計な混乱は、選手たちに関係のない話です。」
そして、恭介の肩にそっと手を置き、微笑む。
「これで良かった? 聖奈ちゃんの件は解決よ。じゃあ、あなたの今日の任務はここまで。あとは、しっかり“お父さん”をやりなさい。」
恭介は小さく頷くと、優悟に一礼し、会場へと向かった。
その背を見送って、優悟がふっと笑う。
「いい男が、行ってしまったな。」
「ふふっ。でも今日は――私は“優悟の妻”よ。だから、あなたと一緒にいさせて。」
つぐみはそう言って、霞優悟とともに特別観覧席へと向かった。
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