28 / 63
事例 壱 『コウシュ村』
弍拾捌
しおりを挟む
チィーーィィーーーン……
「っ……!!」
思わず……というか反射的に音が聞こえた方、つまり墓地の方へと目を向けてしまう。するとそこいたのは俯いている人影。
黒い髪は腰よりも長くボサボサ、雪が積もっているにも関わらず赤黒いワンピース一枚だけを着ていて、墓と墓の間からチラッと見えた下は素足。
明らかにこの季節をガン無視したような、如何にも幽霊であるような様相に、僕は無意識的に足を止めてしまった。
僕のそんな動揺を悟ったかのように、その『如何にも幽霊』はグルンと音が聞こえそうなほど勢いよく僕の方に振り向いた。
「っ……!」
悲鳴を上げないように手で口を塞いでいて良かった。『如何にも幽霊』はそう思わせるような風貌だったのだ。
長い髪の隙間から見えるギョロギョロした目は死人のように濁っていて、でも少しブレながらもジィッとこちらを凝視していて……
そしてかろうじて見える肌の部分は何故か赤黒い色で全面が染まっている。今も尚ポタポタと顎の辺りからその液体がこぼれ落ちていた。
「っ……、」
……そうだ、あれはペンキに違いない。赤いペンキを被ったんだ。そうだそうだ。それ以外に何がある。
そう思い込むしか己の精神の宥め方が分からなかった。だってあれ、言いたくはないけれども、絶対、血……
あ、違う違う。ペンキだ。そうだそうだペンキだった。そうだそうだ。ペンキペンキ。
そう自己暗示を掛けながら──あまり上手くいってないが、それは言わないお約束だ──どうにかアレから逃げる算段をつけていく。
と言っても恐怖に怯えパニックを起こしている僕の頭がそう上手く働いてくれるわけもなく。今は声を上げないことだけで精一杯だった。
「……、……、……、……、」
その幽霊はどうやら僕を見て何か呟いているようで。何か情報を得られないかと耳を澄ませたら、途切れ途切れながら言葉が聞こえてきた。
「オま、のせ……デ……マえの、せイで……おまエノせイデ……」
まるで僕に憎悪をぶつけてきているような言葉の羅列に、僕は理不尽を感じた。何故何もしていない僕が恨まれなければならないのだ、と。
「オマエが、ナけれ、ノ子、苦シまな……オマえ、おマエ、オマエガオマエがァァァァアアアアア!!!」
何故こんなところで犯していない罪に対して非難されなければならないのだ。理解に苦しむ。
こんな訳分からない悪霊(仮)からは逃げるに限る。少し冷えた頭で冷静にそう答えを導き出した僕は、それまで氷っていたように動かなかった足を無理やりにでも動かしていく。
「ァァァアアアアアァァアアァアアア!!!」
ベチョ、ベチョ、と足音を立てながら、そして意味もない音を口から発しながら女は追いかけてきた。
どこまで追いかけてくるのかは分からないが、短期的に振り切らないと体力のない僕はアッサリ捕まるだろう。
今は女がいた墓地から僕がいた道路までのアドバンテージのおかげで捕まっていないだけに過ぎないのだから。アレ、相当足速い。
どこか隠れられる場所を探しつつ、とにかく全力疾走で村を走り抜けるのだった。
「っ……!!」
思わず……というか反射的に音が聞こえた方、つまり墓地の方へと目を向けてしまう。するとそこいたのは俯いている人影。
黒い髪は腰よりも長くボサボサ、雪が積もっているにも関わらず赤黒いワンピース一枚だけを着ていて、墓と墓の間からチラッと見えた下は素足。
明らかにこの季節をガン無視したような、如何にも幽霊であるような様相に、僕は無意識的に足を止めてしまった。
僕のそんな動揺を悟ったかのように、その『如何にも幽霊』はグルンと音が聞こえそうなほど勢いよく僕の方に振り向いた。
「っ……!」
悲鳴を上げないように手で口を塞いでいて良かった。『如何にも幽霊』はそう思わせるような風貌だったのだ。
長い髪の隙間から見えるギョロギョロした目は死人のように濁っていて、でも少しブレながらもジィッとこちらを凝視していて……
そしてかろうじて見える肌の部分は何故か赤黒い色で全面が染まっている。今も尚ポタポタと顎の辺りからその液体がこぼれ落ちていた。
「っ……、」
……そうだ、あれはペンキに違いない。赤いペンキを被ったんだ。そうだそうだ。それ以外に何がある。
そう思い込むしか己の精神の宥め方が分からなかった。だってあれ、言いたくはないけれども、絶対、血……
あ、違う違う。ペンキだ。そうだそうだペンキだった。そうだそうだ。ペンキペンキ。
そう自己暗示を掛けながら──あまり上手くいってないが、それは言わないお約束だ──どうにかアレから逃げる算段をつけていく。
と言っても恐怖に怯えパニックを起こしている僕の頭がそう上手く働いてくれるわけもなく。今は声を上げないことだけで精一杯だった。
「……、……、……、……、」
その幽霊はどうやら僕を見て何か呟いているようで。何か情報を得られないかと耳を澄ませたら、途切れ途切れながら言葉が聞こえてきた。
「オま、のせ……デ……マえの、せイで……おまエノせイデ……」
まるで僕に憎悪をぶつけてきているような言葉の羅列に、僕は理不尽を感じた。何故何もしていない僕が恨まれなければならないのだ、と。
「オマエが、ナけれ、ノ子、苦シまな……オマえ、おマエ、オマエガオマエがァァァァアアアアア!!!」
何故こんなところで犯していない罪に対して非難されなければならないのだ。理解に苦しむ。
こんな訳分からない悪霊(仮)からは逃げるに限る。少し冷えた頭で冷静にそう答えを導き出した僕は、それまで氷っていたように動かなかった足を無理やりにでも動かしていく。
「ァァァアアアアアァァアアァアアア!!!」
ベチョ、ベチョ、と足音を立てながら、そして意味もない音を口から発しながら女は追いかけてきた。
どこまで追いかけてくるのかは分からないが、短期的に振り切らないと体力のない僕はアッサリ捕まるだろう。
今は女がいた墓地から僕がいた道路までのアドバンテージのおかげで捕まっていないだけに過ぎないのだから。アレ、相当足速い。
どこか隠れられる場所を探しつつ、とにかく全力疾走で村を走り抜けるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/7:『かわぞいのみち』の章を追加。2026/1/14の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/6:『まどのそと』の章を追加。2026/1/13の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/5:『おちゃ』の章を追加。2026/1/12の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/4:『かみ』の章を追加。2026/1/11の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる