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3章 酸漿 藤のバースデー
15 藤side
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※流血注意
──────────
「あの日はねぇ……」
夢で何度も見る光景を思い出す。
俺は父親と母親と三人家族だった。あの頃は特に不自由することもなく、親とも仲が悪いわけでもなく、平々凡々とした毎日を送っていた。そんな俺に起きた事件。
俺が小学六年生の頃。あの日は学校が休みだったから、家でゴロゴロしていたんだよね。勉強はまあまあ出来る方だったから宿題も苦にならず、前の日に全て終わらせていた。だからやること無くてゴロゴロしていたんだ。
平和だなあ、なんて思ってたよ。これから起こることなんて茜じゃあるまいし見ることが出来なかったから。
そんな風にのんびりしていたら、ノックもなしに父親が入ってきたんだ。
『……父さん?』
いつもとは違う緊張した雰囲気の父さんに違和感を覚えた俺は、父親の元に歩いて行った。
『父さん、何かあった?』
何か喋りかけて欲しくて色々質問してみたりしたんだ。それでも何も発さない父親におかしいと思い始めた。
『……、』
何かを小声で呟いたみたいだったけど聞き取れず、生憎俺は読唇術なんて持ってなかったから分かるわけもなく。聞き返そうとしたその瞬間、
ザクッ
隠し持っていたらしいナイフで右胸をぐさり。刺された。
『……っ、と、さん……』
苦しむ俺を見てニヤリと笑った父さんはそのまま部屋を出ていった。
俺はといえば、ナイフに父親の指紋を残そうと近くにあったハンカチを被せてナイフを抜いたっけ。痛みも凄かったけど、それよりもナイフを抜くことだけを考えていたんだよね。
カラン、とナイフを落とし、ずるりとその場に座り込んだ。するとだんだんと苦しかったのも、痛かったのも消えていったんだ。
でも、ショックでなのか知らないけど、そこで意識が途絶えたんだよ。
次に目が覚めた時は病院にいたんだ。どうやらお隣さんが異変に気づいて動いてくれたみたいでね。
結果的に言えば俺だけは助かった。そう、父親も母親ももう……皆手遅れだったらしい。母親は俺と同じように父親に刺され、父親は自害したんだ。
そして目が覚めてから色々事情聴取を受けたんだけどね。倒れていた俺は服が血で染まり、さらにナイフで刺された部分が破れていたから、母親と同じように刺されたと分かってもらえたけど……肝心の俺の右胸には全く傷跡がなかったんだ。
自分でも確認したよ。昨日刺されたはずの部分には傷跡が少しも残っていなかったのには本当にびっくりだったよ。
皆も不思議がっていたらしいけど、担当してくれた人がエートスに詳しい人でね。俺が治癒の能力を持つエートスなんじゃないかって教えてくれたんだ。この時の事件がきっかけで俺の目も元々黒色だったのが紫色になったし、多分そうだろうってね。そう言われて自分でも納得したよ。
「なるほど、それで藤さんは自分がエートスだと分かったんですね。」
「そうそう。自分のこの治癒の能力がなければきっとあの時両親と共に死んでたよ。だからこの能力に感謝かな。」
「ですね。」
「……気分悪くならない? 大丈夫?」
俺のその発言にきょとんとした藍ちゃん。そしてむっとする。
「私なんかの心配よりも藤さん自身の心配をしてください。私は大丈夫です。私も似たような経験があるので気分悪くなることもありませんから。」
自信満々にそう答える藍ちゃん。
「ああ、ハサミで刺されたんだっけ。」
「はい。でも花学入ってからは全くその人に会っていないので大丈夫です!」
「そっか。」
この時、俺がもっとちゃんと藍ちゃんの話を深掘りして聞いていれば、もう藍ちゃんは傷つかなくてもよかったのかもしれないのに。後悔してもしきれないよね。
藍side
ゴーンゴーンと授業が終わることを知らせる鐘が鳴る。時計を見るともう放課後のようだ。
「もう放課後ですね。」
「だね。帰ろっか。」
「そうしましょう。」
鞄はまだ教室に置いてあるので取りに行かなければ。しかしまだ本調子ではない藤さんを歩かせるのもなあ……
「藤さんはもう少しここで休んでてください。二人分の鞄持ってきますから。」
「え、そんないいのに。俺もう大丈夫だから。」
「倒れた人が何を言っているんですか。もう藤さんの大丈夫は信用しませんよ?」
「ええー? 少し寝たからもう元気なんだけどなあ?」
「少し寝たくらいで治るなら倒れることもありませんよね?」
「うっ……正論。」
「では行ってきますね。」
藤さんに背を向け、舘先生に一言物を取りに行くと伝えると笑顔で送り出してくれた。
保健室の扉を開けようとしたその時。
「失礼します。」
勝手に扉が開き、その向こうには山吹さんがいた。それも少し暗い表情で。山吹さんのそんな表情は初めて見たが、何かあったのだろうか。
「あ! 山吹くんじゃない! よく来たわね!」
テンションがさらに高くなる舘先生。小声で「きゃー! この空間にエートスが三人も!」などと叫んでいる。楽しそうで何よりです。
「花蘇芳さん、藤、鞄持ってきましたから帰りましょう。」
「ありがとうね。」
「すみません。ありがとうございます。」
鞄を受け取る。私が取りに行かなければいけなかったのに……申し訳ない。
「いえ、気にしないでください。それでは舘先生、私達帰りますので。」
「ああ、はいはい。藤、今度は倒れる前に来なさいよ。」
「はーい。じゃあたっちゃん先生またねー。」
「はいよー。」
山吹さんと藤さんはさっさと保健室を後にする。私もそれに倣って一度会釈して出て行こうとしたが、そういえばお礼をしていなかったことに気がついた。もう一度保健室に戻り、舘先生に笑ってお礼する。
「舘先生、私のことを怖がらないでくださりありがとうございます。ああ言っていただいて嬉しかったです。」
「そう言ってくれるとこっちも嬉しいわ! あ、そうだ。花蘇芳ちゃん、いつでもここにおいでね。もっとお喋りしましょ?」
「はい!」
また近々ここに来よう。決めた。そして色々お話しよう。
ほくほくとした気持ちで保健室を出る。
「二人とも、帰りましょうか。」
山吹さんはいつも通りを装った笑顔でそう促した。
────
ホオズキ
「偽り」
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「あの日はねぇ……」
夢で何度も見る光景を思い出す。
俺は父親と母親と三人家族だった。あの頃は特に不自由することもなく、親とも仲が悪いわけでもなく、平々凡々とした毎日を送っていた。そんな俺に起きた事件。
俺が小学六年生の頃。あの日は学校が休みだったから、家でゴロゴロしていたんだよね。勉強はまあまあ出来る方だったから宿題も苦にならず、前の日に全て終わらせていた。だからやること無くてゴロゴロしていたんだ。
平和だなあ、なんて思ってたよ。これから起こることなんて茜じゃあるまいし見ることが出来なかったから。
そんな風にのんびりしていたら、ノックもなしに父親が入ってきたんだ。
『……父さん?』
いつもとは違う緊張した雰囲気の父さんに違和感を覚えた俺は、父親の元に歩いて行った。
『父さん、何かあった?』
何か喋りかけて欲しくて色々質問してみたりしたんだ。それでも何も発さない父親におかしいと思い始めた。
『……、』
何かを小声で呟いたみたいだったけど聞き取れず、生憎俺は読唇術なんて持ってなかったから分かるわけもなく。聞き返そうとしたその瞬間、
ザクッ
隠し持っていたらしいナイフで右胸をぐさり。刺された。
『……っ、と、さん……』
苦しむ俺を見てニヤリと笑った父さんはそのまま部屋を出ていった。
俺はといえば、ナイフに父親の指紋を残そうと近くにあったハンカチを被せてナイフを抜いたっけ。痛みも凄かったけど、それよりもナイフを抜くことだけを考えていたんだよね。
カラン、とナイフを落とし、ずるりとその場に座り込んだ。するとだんだんと苦しかったのも、痛かったのも消えていったんだ。
でも、ショックでなのか知らないけど、そこで意識が途絶えたんだよ。
次に目が覚めた時は病院にいたんだ。どうやらお隣さんが異変に気づいて動いてくれたみたいでね。
結果的に言えば俺だけは助かった。そう、父親も母親ももう……皆手遅れだったらしい。母親は俺と同じように父親に刺され、父親は自害したんだ。
そして目が覚めてから色々事情聴取を受けたんだけどね。倒れていた俺は服が血で染まり、さらにナイフで刺された部分が破れていたから、母親と同じように刺されたと分かってもらえたけど……肝心の俺の右胸には全く傷跡がなかったんだ。
自分でも確認したよ。昨日刺されたはずの部分には傷跡が少しも残っていなかったのには本当にびっくりだったよ。
皆も不思議がっていたらしいけど、担当してくれた人がエートスに詳しい人でね。俺が治癒の能力を持つエートスなんじゃないかって教えてくれたんだ。この時の事件がきっかけで俺の目も元々黒色だったのが紫色になったし、多分そうだろうってね。そう言われて自分でも納得したよ。
「なるほど、それで藤さんは自分がエートスだと分かったんですね。」
「そうそう。自分のこの治癒の能力がなければきっとあの時両親と共に死んでたよ。だからこの能力に感謝かな。」
「ですね。」
「……気分悪くならない? 大丈夫?」
俺のその発言にきょとんとした藍ちゃん。そしてむっとする。
「私なんかの心配よりも藤さん自身の心配をしてください。私は大丈夫です。私も似たような経験があるので気分悪くなることもありませんから。」
自信満々にそう答える藍ちゃん。
「ああ、ハサミで刺されたんだっけ。」
「はい。でも花学入ってからは全くその人に会っていないので大丈夫です!」
「そっか。」
この時、俺がもっとちゃんと藍ちゃんの話を深掘りして聞いていれば、もう藍ちゃんは傷つかなくてもよかったのかもしれないのに。後悔してもしきれないよね。
藍side
ゴーンゴーンと授業が終わることを知らせる鐘が鳴る。時計を見るともう放課後のようだ。
「もう放課後ですね。」
「だね。帰ろっか。」
「そうしましょう。」
鞄はまだ教室に置いてあるので取りに行かなければ。しかしまだ本調子ではない藤さんを歩かせるのもなあ……
「藤さんはもう少しここで休んでてください。二人分の鞄持ってきますから。」
「え、そんないいのに。俺もう大丈夫だから。」
「倒れた人が何を言っているんですか。もう藤さんの大丈夫は信用しませんよ?」
「ええー? 少し寝たからもう元気なんだけどなあ?」
「少し寝たくらいで治るなら倒れることもありませんよね?」
「うっ……正論。」
「では行ってきますね。」
藤さんに背を向け、舘先生に一言物を取りに行くと伝えると笑顔で送り出してくれた。
保健室の扉を開けようとしたその時。
「失礼します。」
勝手に扉が開き、その向こうには山吹さんがいた。それも少し暗い表情で。山吹さんのそんな表情は初めて見たが、何かあったのだろうか。
「あ! 山吹くんじゃない! よく来たわね!」
テンションがさらに高くなる舘先生。小声で「きゃー! この空間にエートスが三人も!」などと叫んでいる。楽しそうで何よりです。
「花蘇芳さん、藤、鞄持ってきましたから帰りましょう。」
「ありがとうね。」
「すみません。ありがとうございます。」
鞄を受け取る。私が取りに行かなければいけなかったのに……申し訳ない。
「いえ、気にしないでください。それでは舘先生、私達帰りますので。」
「ああ、はいはい。藤、今度は倒れる前に来なさいよ。」
「はーい。じゃあたっちゃん先生またねー。」
「はいよー。」
山吹さんと藤さんはさっさと保健室を後にする。私もそれに倣って一度会釈して出て行こうとしたが、そういえばお礼をしていなかったことに気がついた。もう一度保健室に戻り、舘先生に笑ってお礼する。
「舘先生、私のことを怖がらないでくださりありがとうございます。ああ言っていただいて嬉しかったです。」
「そう言ってくれるとこっちも嬉しいわ! あ、そうだ。花蘇芳ちゃん、いつでもここにおいでね。もっとお喋りしましょ?」
「はい!」
また近々ここに来よう。決めた。そして色々お話しよう。
ほくほくとした気持ちで保健室を出る。
「二人とも、帰りましょうか。」
山吹さんはいつも通りを装った笑顔でそう促した。
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ホオズキ
「偽り」
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