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3章 酸漿 藤のバースデー
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「山吹さん、どうされましたか? どこかいつもとは違うように見えます。」
歩きながら山吹さんに気になっていた事柄を聞いてみる。山吹さんの表情はまだ浮かない。
「……すみません。」
「竜胆どうしたのさー。あ、たっちゃん先生のこと?」
「……? 舘先生がどうされたんですか?」
「ああ、ね。竜胆は……というか俺以外の音霧メンバーはたっちゃん先生のあのテンションが苦手らしくてねー。保健室に寄り付かないんだよ。」
代わりに藤さんが答えてくれた。なるほど、あのテンションについていけないのね。エートスに関しての良い理解者になりそうなんだけどね。
「……花蘇芳さん、すみません。」
「どうされましたか?」
しかし暗い表情なのは舘先生のことではないようだ。何かものすごく悪いことを言われるのだろうか。静かに次の言葉を待つ。
「……体育祭の実行委員の件なのですが、私と花蘇芳さんに決まってしまいまして。……クラスメイトを止められませんでした。なのですみません。」
山吹さんがこの世の終わりのような表情だったものだから身構えていたが、はっきり言って拍子抜けする。
「なあんだ、そんなことだったんですね。」
「……え?」
「決まったことについて何か言うこともありません。その時間に抜け出していたのは私ですし。なので謝らないでください。」
「でも……」
「藍ちゃんもこう言ってるんだから気にしなきゃいいのに。」
「ううん……」
藤さんの言う通り気にしなくていいのに。私自身は全く気にしていない。むしろ……
「……実を言えば、実行委員みたいなのを一度でいいからやってみたかったんです。」
私は前の学校でも嫌われ者……というよりも存在しない人として認識されていた。だから行事に携わる仕事とかしたことないし、もっと言えば行事にも参加してこなかった。
面倒なものを私達に押し付けた結果だったとしても、行事に携わる仕事が出来るということに嬉しさを感じる。それはおかしいことなのだろうか。
「花蘇芳さん……ありがとうございます。一緒に頑張りましょう。」
「はい!」
やっといつもの柔らかい笑みを浮かべた山吹さん。藤さんもよかったよかったと笑ってくれた。よし、実行委員頑張ろう!
「実行委員の初仕事はゴールデンウィーク明けの会議だそうです。そこで仕事を割り振り、それぞれが作業する運びになります。」
「分かりました!」
「俺も救護係の仕事頑張らなきゃね。」
「一緒に頑張りましょう!」
部屋に戻り、部屋着に着替える。そして考える。藤さんのことを。
「明日……」
カレンダーを見ると明日、四月二十九日は土曜日。だから……
一つの案が頭に浮かび上がる。それを実行するには、
「……聞いてこよう。」
行動あるのみだね。藤さんは部屋にいるはずなのでそこに向かう。
藤さんの部屋の扉をノックすると、
「はいよー。」
と返事が聞こえた。ほんの少しだけ固さを含んだ声だった。やっぱり部屋に誰かが入ってくるのに抵抗があるのだろう。
「失礼します。」
「あ、藍ちゃんだったんだ。どうしたのさ。」
「あ、えと、少し提案があるのですが、その相談をと思いまして。」
「提案? ……あ、まずこっち座りな?」
「ありがとうございます。」
座布団の上に座り、先程から考えていることを提案してみる。上手く行けばいいけど……。
「で、提案ってどういうこと?」
「明日、予定ありますか?」
「え? ないけど?」
「では二人でどこかに出掛けませんか?」
「どうしたの急に。」
「四月二十九日にいい思い出がないのなら、楽しい思い出で上書きしてしまえばいいのでは、と思いついたんです。」
過去は変えられないけど、未来はどうにでも変えられると私は思う。何かしらのアクションを起こすことで辛い思い出も少し緩和されるのでは、と。
「なるほど……?」
「ですので藤さんが行きたい所などがあれば一緒に行きませんか、というお誘いです。」
「そっか。そうだねえ……行きたい所、ねえ……」
私の提案に前向きに検討してくれる藤さん。とても優しいです。
「……動物園、かな。」
何か思い入れがあるのだろう。答えてくれた時の表情は少し柔らかいものだった。
「動物園ですか。いいですね、あにまるせらぴーとか言いますし。行きましょう。ですが何故動物園か聞いても?」
「ああ……あの事件の何年か前の四月二十九日に、誕生日プレゼントとして家族三人で動物園に行ったんだけどね。その時はとても楽しかったなあって。また行けば楽しめるのかなって。そう思ってね。」
なるほど。
「そうだったんですね……ん?」
誕生日プレゼント?
「……もしかして明日は藤さんの誕生日、とかですか?」
「ん? ああ、そうだね。明日で十七歳。音霧寮のメンバーの中では一番年上だよー。多分。藍ちゃんは誕生日いつ?」
「私は九月です。」
「そうなんだ。じゃあ俺が一番年上だねー。」
自分の誕生日にそんな事件が起これば、より強く記憶に残るだろう。私が藤さんを楽しませなければ、と一層強く思った。
あの後すぐに山吹さんの元へ行き、外出届を提出するとすんなりオーケーを貰えた。
山吹さんからも楽しんできて、と言われたのでとにかく楽しんでこようと思う。
歩きながら山吹さんに気になっていた事柄を聞いてみる。山吹さんの表情はまだ浮かない。
「……すみません。」
「竜胆どうしたのさー。あ、たっちゃん先生のこと?」
「……? 舘先生がどうされたんですか?」
「ああ、ね。竜胆は……というか俺以外の音霧メンバーはたっちゃん先生のあのテンションが苦手らしくてねー。保健室に寄り付かないんだよ。」
代わりに藤さんが答えてくれた。なるほど、あのテンションについていけないのね。エートスに関しての良い理解者になりそうなんだけどね。
「……花蘇芳さん、すみません。」
「どうされましたか?」
しかし暗い表情なのは舘先生のことではないようだ。何かものすごく悪いことを言われるのだろうか。静かに次の言葉を待つ。
「……体育祭の実行委員の件なのですが、私と花蘇芳さんに決まってしまいまして。……クラスメイトを止められませんでした。なのですみません。」
山吹さんがこの世の終わりのような表情だったものだから身構えていたが、はっきり言って拍子抜けする。
「なあんだ、そんなことだったんですね。」
「……え?」
「決まったことについて何か言うこともありません。その時間に抜け出していたのは私ですし。なので謝らないでください。」
「でも……」
「藍ちゃんもこう言ってるんだから気にしなきゃいいのに。」
「ううん……」
藤さんの言う通り気にしなくていいのに。私自身は全く気にしていない。むしろ……
「……実を言えば、実行委員みたいなのを一度でいいからやってみたかったんです。」
私は前の学校でも嫌われ者……というよりも存在しない人として認識されていた。だから行事に携わる仕事とかしたことないし、もっと言えば行事にも参加してこなかった。
面倒なものを私達に押し付けた結果だったとしても、行事に携わる仕事が出来るということに嬉しさを感じる。それはおかしいことなのだろうか。
「花蘇芳さん……ありがとうございます。一緒に頑張りましょう。」
「はい!」
やっといつもの柔らかい笑みを浮かべた山吹さん。藤さんもよかったよかったと笑ってくれた。よし、実行委員頑張ろう!
「実行委員の初仕事はゴールデンウィーク明けの会議だそうです。そこで仕事を割り振り、それぞれが作業する運びになります。」
「分かりました!」
「俺も救護係の仕事頑張らなきゃね。」
「一緒に頑張りましょう!」
部屋に戻り、部屋着に着替える。そして考える。藤さんのことを。
「明日……」
カレンダーを見ると明日、四月二十九日は土曜日。だから……
一つの案が頭に浮かび上がる。それを実行するには、
「……聞いてこよう。」
行動あるのみだね。藤さんは部屋にいるはずなのでそこに向かう。
藤さんの部屋の扉をノックすると、
「はいよー。」
と返事が聞こえた。ほんの少しだけ固さを含んだ声だった。やっぱり部屋に誰かが入ってくるのに抵抗があるのだろう。
「失礼します。」
「あ、藍ちゃんだったんだ。どうしたのさ。」
「あ、えと、少し提案があるのですが、その相談をと思いまして。」
「提案? ……あ、まずこっち座りな?」
「ありがとうございます。」
座布団の上に座り、先程から考えていることを提案してみる。上手く行けばいいけど……。
「で、提案ってどういうこと?」
「明日、予定ありますか?」
「え? ないけど?」
「では二人でどこかに出掛けませんか?」
「どうしたの急に。」
「四月二十九日にいい思い出がないのなら、楽しい思い出で上書きしてしまえばいいのでは、と思いついたんです。」
過去は変えられないけど、未来はどうにでも変えられると私は思う。何かしらのアクションを起こすことで辛い思い出も少し緩和されるのでは、と。
「なるほど……?」
「ですので藤さんが行きたい所などがあれば一緒に行きませんか、というお誘いです。」
「そっか。そうだねえ……行きたい所、ねえ……」
私の提案に前向きに検討してくれる藤さん。とても優しいです。
「……動物園、かな。」
何か思い入れがあるのだろう。答えてくれた時の表情は少し柔らかいものだった。
「動物園ですか。いいですね、あにまるせらぴーとか言いますし。行きましょう。ですが何故動物園か聞いても?」
「ああ……あの事件の何年か前の四月二十九日に、誕生日プレゼントとして家族三人で動物園に行ったんだけどね。その時はとても楽しかったなあって。また行けば楽しめるのかなって。そう思ってね。」
なるほど。
「そうだったんですね……ん?」
誕生日プレゼント?
「……もしかして明日は藤さんの誕生日、とかですか?」
「ん? ああ、そうだね。明日で十七歳。音霧寮のメンバーの中では一番年上だよー。多分。藍ちゃんは誕生日いつ?」
「私は九月です。」
「そうなんだ。じゃあ俺が一番年上だねー。」
自分の誕生日にそんな事件が起これば、より強く記憶に残るだろう。私が藤さんを楽しませなければ、と一層強く思った。
あの後すぐに山吹さんの元へ行き、外出届を提出するとすんなりオーケーを貰えた。
山吹さんからも楽しんできて、と言われたのでとにかく楽しんでこようと思う。
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