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5章 体育祭
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中庭に着くと桃さん、福寿さん、いちごちゃんが既にいた。
「四人ともどこ行ってたの? 全員リレーの時いなかったよね?」
「藍ちゃんどうかしたの?」
「……。」
中庭に遅れてやってきた私達に気がついた三人は詰め寄ってきた。
でもあまり言いたくないからなあ……濁しておこう。
「ちょっと……用事がありまして……」
「……嘘つくな。」
ひいいっ! 福寿さん何故分かっ……能力使ったからか。嘘を見破られないようにしたかったのに。
どうしよう、なんて言えば良いかな……。
「花蘇芳さんが連れ去られてまして。まあ、音霧だからという理由でしょうけど。」
山吹さん。真顔で怖いのだが。
「藍ちゃん怪我したよー。」
藤さん!? それはいらない情報ですよ! 藤さんの口を手で塞ごうとしたが、既に遅し。言葉はこぼれ落ちていった。
「俺達で対処しておいたからな。」
柊木さんまで……。
「へえ……誰? あいさん傷つけたの。ボクもそいつらに用事が出来た。」
「俺がお前達の分までやっといた。だから落ち着け。」
桃さんは背負っていた黒い袋に手を置いて笑っていた。ちなみに目は笑っていない。なんか怖いぞ。
いちごちゃんが皆の雰囲気に怯えてしまっているから柊木さんの言う通りちょっと落ち着いて欲しい。
「……。」
横にいる福寿さんの無言の圧力がすごいです。目つきがいつもより悪いです。初めてかも、福寿さんが怖いと思うの。
何を言われるんだろう。怒られなければいいな。
「……大丈夫か?」
あれ、怒らないのね。良かった。
「大丈夫です。藤さんに治してもらいました。」
「そうか。……守れなくてすまない。」
「そんな……私が悪いので……」
「花蘇芳さん? それは無しですよ。」
「はいぃっ!」
山吹さんの真顔も怖いけど、にっこり笑顔で言われるとそれもそれでなんか怖い。びくりと肩を震わせる。
「さ、時間も有限ですし、お昼ご飯食べてしまいましょう。」
茜side
それにしても寮長、よく藍が消えたことに気づいたな。寮長が気がつかなかったら俺も気がつけなかったぞ。流石だな。
藍が出るという玉入れ。それが終わり、少しして。
『あかね、花蘇芳さん戻ってきてないよね。』
周りを見ると玉入れに出ていたクラスメイトが戻ってきている。
『たしかに遅えな。』
『あかね。』
寮長は腕を差し出してくる。未来を見ろということか。
『……分かった。』
その腕を掴み、未来を見る。
すると藍が腕を縛られ、数人に蹴られている場面が浮かんでくる。
『おいおい、やべえやつだぞ、これ。』
『どこ?』
一気に俺達の間の雰囲気が変わる。
この場所はどこだ? この壁で、あの用具が置かれているから……。
『……体育館倉庫。』
『他は?』
俺達と藤だけで乗り込んでいる場面が見える。
『……藤だけ連れてくぞ。一年は置いてく。全員集合する時間が惜しい。』
『分かった。』
救護用のテントにいる藤を呼び三人で体育館倉庫へ。
くそっ、こうならないようにいつも誰かしらと一緒に行動させていたのに。一人にするんじゃなかった。
男八人を倒した後、残った女に近づく。
『おい女。もう一度藍を傷つけてみろ。今度はお前も容赦しねえぞ。』
ここ最近で一番怒っていることを自分で理解している。何せ大事な仲間が傷つけられたんだ。そりゃあ怒るよな。
『私もこれでも結構怒ってますからね。何するか分かりませんよ?』
笑顔で言い切ったぞ、寮長。これは相当だな。こいつは本当に怒っている時は笑顔になるから。
……大きな声では言えないが、こうなった寮長は俺でも少し怖い。昔一回だけここまで怒らせたことがあったが、その時は悲惨だった。思い出したくもない。
『分かったな?』
『ひっ! は、はいっ!』
『じゃあさっさと消えろ。』
バタバタと出て行く。
俺も寮長も出て行ったやつのことなんか忘れ、藍の様子を見に行く。
『お前の感覚狂ってんじゃねえの?』
藍side
「優勝は……C組団です!おめでとうございまーす!」
「やったあー!」
全ての競技が終わり、結果発表された。A組は二位。惜しかったなあ。
C組の桃さんは一人でぴょんこぴょんこと飛び跳ねて嬉しさを表現している。なんか可愛い。
「まあ確かに桃の活躍ぶりは凄かったものね。」
「そうですね、桃さんすごかったです。」
「そーお?」
「だって徒競走一位だったじゃないですか。すごいですよ!」
見知らぬ人に連れられて徒競走くらいしか見られなかったけど、それでも一位はすごい。それも二位以下を突き放しての一位なのだ。すごいと思う。
「えへへ、やっぱり音霧寮の皆はちゃんと評価してくれるんだね。」
「……?」
その言い方は正当な評価を受けられなかった時があったということ……?
少し陰りを帯びた笑顔で桃さんは話し始めた。
「あのね、僕の家ではね、一番評価されるのは可愛さなんだ。」
「可愛さ……」
「そう。だからいつも僕よりも可愛い弟の方が優先される。」
ふっと自嘲気味に笑う桃さん。いつもより少し大人びて見えるのは気のせいではないだろう。いつもの可愛さは作っているのかな。家族に愛されるために。
「やっぱりたまに疲れちゃうなー。でも嫌われたくないし。どうしようねー。」
そう考えつくときゅっと胸が苦しくなる。桃さんの辛さは本人じゃないから完全に理解することは出来ないけど、それでも……
素の自分がどこでも出せないのは辛い。気を張り続けなければならないのだから。そうし続けていると心身共に疲弊してしまう。
「私はどんな桃さんでも嫌いにはなれませんよ。どんなに仮面を被り続けていても、やっぱり桃さんは桃さんだから。」
「そうかなあ。僕は僕……なのかな?」
「そうですよ、きっと。どんな性格だとしても桃さんという存在は変わらないのではないかと私は考えます。」
「うーん。そうだねえ……。ねえあいさん、僕が可愛くなくても、仲良くしてくれる?」
「もちろん。」
「そっか。……そっか。」
少し吹っ切れたような声だった。ちら、と桃さんを見るといつもよりも綺麗な笑顔を浮かべていた。
「これで体育祭の一切を終わります。」
人生初の体育祭は色々あったけど、楽しかったと思う。
今度の行事は秋の文化祭かな?
────
ユキヤナギ
「愛らしさ」
「四人ともどこ行ってたの? 全員リレーの時いなかったよね?」
「藍ちゃんどうかしたの?」
「……。」
中庭に遅れてやってきた私達に気がついた三人は詰め寄ってきた。
でもあまり言いたくないからなあ……濁しておこう。
「ちょっと……用事がありまして……」
「……嘘つくな。」
ひいいっ! 福寿さん何故分かっ……能力使ったからか。嘘を見破られないようにしたかったのに。
どうしよう、なんて言えば良いかな……。
「花蘇芳さんが連れ去られてまして。まあ、音霧だからという理由でしょうけど。」
山吹さん。真顔で怖いのだが。
「藍ちゃん怪我したよー。」
藤さん!? それはいらない情報ですよ! 藤さんの口を手で塞ごうとしたが、既に遅し。言葉はこぼれ落ちていった。
「俺達で対処しておいたからな。」
柊木さんまで……。
「へえ……誰? あいさん傷つけたの。ボクもそいつらに用事が出来た。」
「俺がお前達の分までやっといた。だから落ち着け。」
桃さんは背負っていた黒い袋に手を置いて笑っていた。ちなみに目は笑っていない。なんか怖いぞ。
いちごちゃんが皆の雰囲気に怯えてしまっているから柊木さんの言う通りちょっと落ち着いて欲しい。
「……。」
横にいる福寿さんの無言の圧力がすごいです。目つきがいつもより悪いです。初めてかも、福寿さんが怖いと思うの。
何を言われるんだろう。怒られなければいいな。
「……大丈夫か?」
あれ、怒らないのね。良かった。
「大丈夫です。藤さんに治してもらいました。」
「そうか。……守れなくてすまない。」
「そんな……私が悪いので……」
「花蘇芳さん? それは無しですよ。」
「はいぃっ!」
山吹さんの真顔も怖いけど、にっこり笑顔で言われるとそれもそれでなんか怖い。びくりと肩を震わせる。
「さ、時間も有限ですし、お昼ご飯食べてしまいましょう。」
茜side
それにしても寮長、よく藍が消えたことに気づいたな。寮長が気がつかなかったら俺も気がつけなかったぞ。流石だな。
藍が出るという玉入れ。それが終わり、少しして。
『あかね、花蘇芳さん戻ってきてないよね。』
周りを見ると玉入れに出ていたクラスメイトが戻ってきている。
『たしかに遅えな。』
『あかね。』
寮長は腕を差し出してくる。未来を見ろということか。
『……分かった。』
その腕を掴み、未来を見る。
すると藍が腕を縛られ、数人に蹴られている場面が浮かんでくる。
『おいおい、やべえやつだぞ、これ。』
『どこ?』
一気に俺達の間の雰囲気が変わる。
この場所はどこだ? この壁で、あの用具が置かれているから……。
『……体育館倉庫。』
『他は?』
俺達と藤だけで乗り込んでいる場面が見える。
『……藤だけ連れてくぞ。一年は置いてく。全員集合する時間が惜しい。』
『分かった。』
救護用のテントにいる藤を呼び三人で体育館倉庫へ。
くそっ、こうならないようにいつも誰かしらと一緒に行動させていたのに。一人にするんじゃなかった。
男八人を倒した後、残った女に近づく。
『おい女。もう一度藍を傷つけてみろ。今度はお前も容赦しねえぞ。』
ここ最近で一番怒っていることを自分で理解している。何せ大事な仲間が傷つけられたんだ。そりゃあ怒るよな。
『私もこれでも結構怒ってますからね。何するか分かりませんよ?』
笑顔で言い切ったぞ、寮長。これは相当だな。こいつは本当に怒っている時は笑顔になるから。
……大きな声では言えないが、こうなった寮長は俺でも少し怖い。昔一回だけここまで怒らせたことがあったが、その時は悲惨だった。思い出したくもない。
『分かったな?』
『ひっ! は、はいっ!』
『じゃあさっさと消えろ。』
バタバタと出て行く。
俺も寮長も出て行ったやつのことなんか忘れ、藍の様子を見に行く。
『お前の感覚狂ってんじゃねえの?』
藍side
「優勝は……C組団です!おめでとうございまーす!」
「やったあー!」
全ての競技が終わり、結果発表された。A組は二位。惜しかったなあ。
C組の桃さんは一人でぴょんこぴょんこと飛び跳ねて嬉しさを表現している。なんか可愛い。
「まあ確かに桃の活躍ぶりは凄かったものね。」
「そうですね、桃さんすごかったです。」
「そーお?」
「だって徒競走一位だったじゃないですか。すごいですよ!」
見知らぬ人に連れられて徒競走くらいしか見られなかったけど、それでも一位はすごい。それも二位以下を突き放しての一位なのだ。すごいと思う。
「えへへ、やっぱり音霧寮の皆はちゃんと評価してくれるんだね。」
「……?」
その言い方は正当な評価を受けられなかった時があったということ……?
少し陰りを帯びた笑顔で桃さんは話し始めた。
「あのね、僕の家ではね、一番評価されるのは可愛さなんだ。」
「可愛さ……」
「そう。だからいつも僕よりも可愛い弟の方が優先される。」
ふっと自嘲気味に笑う桃さん。いつもより少し大人びて見えるのは気のせいではないだろう。いつもの可愛さは作っているのかな。家族に愛されるために。
「やっぱりたまに疲れちゃうなー。でも嫌われたくないし。どうしようねー。」
そう考えつくときゅっと胸が苦しくなる。桃さんの辛さは本人じゃないから完全に理解することは出来ないけど、それでも……
素の自分がどこでも出せないのは辛い。気を張り続けなければならないのだから。そうし続けていると心身共に疲弊してしまう。
「私はどんな桃さんでも嫌いにはなれませんよ。どんなに仮面を被り続けていても、やっぱり桃さんは桃さんだから。」
「そうかなあ。僕は僕……なのかな?」
「そうですよ、きっと。どんな性格だとしても桃さんという存在は変わらないのではないかと私は考えます。」
「うーん。そうだねえ……。ねえあいさん、僕が可愛くなくても、仲良くしてくれる?」
「もちろん。」
「そっか。……そっか。」
少し吹っ切れたような声だった。ちら、と桃さんを見るといつもよりも綺麗な笑顔を浮かべていた。
「これで体育祭の一切を終わります。」
人生初の体育祭は色々あったけど、楽しかったと思う。
今度の行事は秋の文化祭かな?
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ユキヤナギ
「愛らしさ」
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