『あなた次第』 【本編は完結】

君影 ルナ

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6章 テスト

36 竜胆side

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 空木さんの友人も含めた勉強会を初めて行った次の日。学校に着くなり藍さんの様子がおかしくなった。

 どうやら辺りをキョロキョロと見回して何かを警戒しているようだが……どうしたのだろうか。

自分の席につき、ほっと一息ついたところで聞いてみよう。

「藍さん、どうされましたか?」
「いえ、なんでもないです。」

 と言いながら周りを警戒し続けている。その様子を、頬杖をつきながら眺めてみる。

 昨日は名前を呼んだだけで顔を赤くしていたのに、今日は全く気にする余裕がないようだ。少し面白くない。あの反応をもっと見たいのに。

「藍さん、手、出してください。」
「はい。」

 周りを警戒しすぎて私のすることまで考えが及ばないらしい。躊躇なく手を差し出す。……まあ、見やすくていいけど。

 出された左手を掴み、過去を見る。


 これは……昨日の勉強会の時だ。パラパラと教科書を捲っている藍さん。すると封筒が一通落ちる。それの中身を見て……これは……

 入っていた物を見た私はくっと眉間に皺を寄せる。何故こんなものが……? それに加えて藍さんを名指ししている文章。誰だ、こんなことをしたのは。

 確かにこれを見れば私達に何かが及ぶと考えても不思議ではない。だから辺りを警戒しているのか。そうかそうか。

 しかし、誰だか知らない送り主のいいようにはさせるわけがない。私達には力があるのだから。有効活用しなければ。

「藍さん、気にしないでください。」
「……へ?」
「有言実行する人はなかなかいませんから。それに私達には力があるんです。大丈夫です。」

 後で茜に未来を見てもらおうか。そうすれば対策も出来る。

「……、……ああ、見られてしまいました。」

 繋がれた手を見て納得する藍さん。

「はい。藍さんの様子がおかしかったので。」
「あはは……分かりやすいですか?」
「それはもう。」

 警戒心を剥き出しにした兎のような感じだった。

「うーん、誰が送り主なのかが分かれば私にも対応出来そうですが……」
「藍さんは送り主の心当たりはありますか?」
「そうですね……」

 そう言って考え込む藍さん。さて、私も少し考えてみましょうか。

 送り主はきっと私達音霧を目の敵にしている人物。さらに危害を加えようと企んでいる、ということは一般生徒というよりかは……

「体育祭の時のような……。もしかしたら同じ人かもしれませんね。」

 とは言ってみたものの……何かが引っかかる。釈然としないような……。そもそもそうならば藍さんだけを名指しする意味がない。

「……藍さん、手紙貰ったのは今回が初めてじゃないですよね?」

 手紙、手紙と過去を振り返ってみると、そういえばこの前もう一通藍さんの机の中に入っていたような。

 とにかく今は情報が欲しい。なんでもいいから手掛かりを……

「……確かに以前一通貰いましたね。忘れてました。体育祭の準備をしていた時でしたね。」
「はい。それは今回のとは関係ないですか?」
「……どうでしょう。この前のには一言『ミツケタ』としか書かれていませんでした。」
「見つけた……ですか?」
「はい。」

 ということは藍さんは誰かに探されている? そして藍さんが花学にいるとその人は知った。知った……

「花学に入る前から、花学の生徒と交流はありましたか?」
「いえ、全く。」

「ふむ……おかしいですね。手紙を机に置くことが出来るということは花学の内部の人間の仕業。しかし花学に入る前から花学の知り合いはいない。となると藍さんだけに手紙を送る理由がある人間は花学にいない……と思いますが。」

 音霧に用があるなら藍さんだけを名指しするのはおかしい。しかし実際藍さんだけに送られているということは『音霧』に用があるわけではない……?

「……ここだけの話にせず、皆に聞いてみてもいいでしょうか?」

 三人寄れば文殊の知恵とも言うし、皆の意見を聞いてみよう。

「……お願いします。私だけの問題ならば私一人で対処すればいいですが、音霧の皆さんの写真が入っていたとなると私一人では……」
「そうですね。ではお昼休みに皆にも話してみましょう。」
「はい。」












 昼休み。A組で音霧メンバー全員が集まりお弁当を食べていたその時。

「藍ちゃん教えて!」

 バーンとA組に駆け込んできたのは空木さんだった。とても切羽詰まった様子だった。

「あたしも同じところ分かんなかったから教えて!」

 板前さんも駆け込んできた。冴木さんはいないようだ。

「食べながらでもいい?」
「もちろん!」

 藍さんは花学に来てから少しずつ食べる量を増やしていき、お昼ご飯もしっかり食べられるようになった。

 来たばかりの頃はオムライスを四分の一程食べてお腹いっぱいだと言っていたから、それを考えると相当な進歩だ。

「どこが分からないの?」
「ええっとね……」

 空木さん達が来てからクラス内がざわつく。昨日の勉強会の様子を知らないクラスメイト達が主に驚いているようだ。

 私達音霧は今まで他生徒と関わることがほぼなかったので、その反応が起きても仕方がない。

「うおー! 私分かったよ! ね!」
「すごい……あたしでも理解出来た……!」

 空木さん達は目をキラキラさせて感動しているようだ。理解出来たならよかった。

 その二人の反応を見たクラスメイトはまたざわつく。

 一々私達の様子を伺ってひそひそ話すの、楽しいのだろうか。まあ、あまり考えても仕方がないので、考えることを放棄する。

「あ、そういえば皆、少し周りに気をつけてください。藍さん宛に『お手紙』が届きました。」

 少し声を落として皆に伝える。

「りんどうくん、どんな手紙だったの?」
「『ハナズオウ アイ、待っててネ』という文章と、藍さん以外の私達の顔が写った写真が入ってました。それも赤ペンで顔部分にバツ印が書かれています。……誰か送り主に心当たりはありませんか?」

「なんで藍ちゃん以外の写真? 音霧に対してなら藍ちゃんも入るよね?」
「そうだな。なんかおかしい。狙いは音霧じゃなく藍か?」

「……ミルクティー。」

 その時思いついたと言うように空木さんが呟く。何故この話の流れでミルクティー? 飲みたいのだろうか。

「まさか……?」

 藍さんの顔色が変わる。この二人にしか分からない暗号を使われると私達はどうしようもない。話の続きを待つ。

「そんな……だってあの人は花学生じゃない……敷地に入るのも無理でしょう……?」
「でも、藍ちゃん個人に宛ててるって考えるとミルクティーじゃない? 他にいる?」
「……思いつかない、かな。確かにあの人かもしれない……でも……」
「可能性の一つかな、くらいだけどね。気をつけるに越したことはないんじゃない?」
「……。」

 そっと左肩を掴んで苦しそうな表情を浮かべる藍さん。左肩……

「大丈夫。私が藍ちゃんを守る。と言っても花学の敷地内にいる限りは心配要らないんじゃないかな? 音霧の皆さんもいるし。」
「……うん。」
「ってことで音霧の皆さん、藍ちゃんをよろしくお願いしますね!」
「それはもちろんだよ。」

 藤の言う通りだ。藍さんに限らず、誰かがピンチなら助けに行くつもりだ。

 だって仲間だからね。
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