『あなた次第』 【本編は完結】

番外編（続）

14 諦め

茜side

「……えーと……？」

　藍は俺の言わんとすることを理解していないらしい。困惑した表情で目を泳がせ、言葉の意味を考えようとしている。

「……」

　というかそもそも俺は藍に聞くつもりなど無かった。『りんが好きなのか』など。そうだと肯定されたら俺、ショック受けるし。それでも聞いてしまった。衝動的に。

　まあ、藍の様子を見ると言外に肯定されたようなもんだったがな。本人は自覚しているのかしていないのかまでは分からないが。

　そうと分かってしまったからこそ、言ってしまった。『俺では駄目か』と。りんとの違いだなんてほぼないから、と。もしかしたらワンチャンあるのではとも思ったが、まあ、そんなことあるはずもなく。

　それならもうこのまま唇でも奪ってやれ、とどこか投げやりで藍に顔を近付けたのだが、

「あかねさん！」

　それ以降声を出さなかった。いや、出せなかった。

　……俺が。

　既の所で俺の口は塞がれたのだ。藍の手で。

「な、何を……するんですか？」
「……」

　藍はぐぐーっと腕を突っ張って顔を背けて俺と少しでも距離を取ろうと頑張る。なんだそれ……拒否されているってのに小動物のようで可愛く見えた。これが惚れた弱みとかいうやつか。

　もう少し意地悪してもいいだろうか。俺の口を塞ぐ藍の手をペロッと舐めてみる。

「んぎゃっ！？」

　手は離してくれたが、物理的に距離を取られた。あー、こりゃあ警戒されたなー。

「まぁ、今はこれくらいにしておくわ。」
「……」

　部屋の隅まで後ずさり、疑いの目で俺を睨む藍。しかし顔が真っ赤なので全然睨まれた気にならない。

「あ、そうだ藍。安易に男を部屋に招き入れるなよ。」
「……」
「逆も然り。じゃないとまた……」

　今度は止められる前に素早く藍の額に唇を落とす。

「なぁっ！！？」
「こうなるからな。んじゃ、取り敢えず今日は休んどけ。」

　藍に何か言われる前に部屋を出る。あくまでも藍にはヘラヘラした態度を見せながら。





　パタン……

　自室に戻って閉まった扉にもたれかかるように座り込む。

「はぁ……」

　現時点、藍の反応を見る限りでは失恋したようなもの。だが……

「俺は諦めの悪い人間だからナァ……」

　ニィ、と意地悪く笑う。

　りん、俺は負けないからな。心の中で宣戦布告する。