死神ちゃんと天使くん 【完結】

プロローグ 暗いの注意 ☆

　バサバサと制服のスカートが風に揺られ、私の髪もバサバサと風に吹かれ、視界が時々髪の色に染まる。どうやら今日は風が強いらしい。

　そっと下の方を覗くと、小さな車や小さな人が行き交っているのが見えた。



　私、如月キサラギ 瞳ヒトミは今、ビルの屋上にいた。全てを終わらせるために。

「うぅっ……」

　ああ、気を抜いてしまった。今まで堪えていた涙が溢れ落ちる。

「死ぬの……怖いよ……」

　死ぬと決めたのは自分なのに、何故こんなにも泣いてしまうんだろう。そんな自分にも嫌気がさす。

　カタカタと体も震える。もちろん、死への恐怖で。

　一瞬だけ、死ぬのを諦めて戻る選択肢も思いついたが、それは無理だ。駄目だ。耐えきれない。

　戻っても苦しいのは続く。この苦しみを終わらせるためには死ぬしかないのだ。それ以外の方法なんてあったらもうやってる。だから、だから……

　震えながらもゆっくりと屋上の端に立つ。私の足のすぐ前に道路が広がる。

　ああ、力を抜けばそのまま下に落ちていきそうだ。

　怖い、怖い、怖い。けど、これしか方法がない。だから、だから……

「うう……」

　先程よりもぼろぼろと涙を零し、嗚咽を漏らす。声を上げて泣いてしまいたいが、声を出した瞬間に誰かに気づかれてしまう可能性がある。だから手で口を押さえる。

　誰にも気づかれてはいけない。そうじゃないと中途半端に終わってしまう。それが一番辛いのを私は理解している。

「……飛ぶしか、方法は、ない。だから、だから……踏み出さないと……」

　最期くらい頑張らなきゃ。踏み出せ、私……


「さよう、なら……」


　ふわりと自分の体を投げ出す。それは重力に従ってどんどんと下に落ちていく。





　そこで私の意識はなくなった。