28 / 33
第4部 現世にて
27
しおりを挟む
あの出会いから数週間。この人は毎日のように私に会いに来る。暇なのだろうか。
まあ、数週間も一緒にいれば私の中での心境も変わってくるもので。鈴佳と一緒にいることが次第に楽しくなってきていた。
それの一因として、私はいつの間にか鈴佳のことが……
「ねえひとみん、前からこの曲を聞かせたかったんだ。聞いてみてよ!」
屋上でお昼ご飯を食べ終えた私達はいつも通りお喋りしていたのだが、急に鈴佳は音楽を勧めてきた。
「……? 分かった。」
渡されたイヤホンを付けると音楽が流れてくる。ゆったりとしていて、落ち着く。しかし私は知らない曲。
「……これはなんて曲なの?」
「『夜明け』だよ。」
「へえ……いいね。曲調もゆったりしてて聞きやすい。」
「でしょー? ずっと聞かせたかったんだ。そう、ずっとね……」
まただ。鈴佳はたまに意識がどこかに飛んでいく。遠い昔を懐かしむように。
「鈴佳ー?」
「……、ああ、ごめんごめん。なんか昔を思い出したらちょっと寂しくなっちゃって。駄目だね、お爺ちゃんみたい。」
「……昔?」
「そ。今よりずっと昔。あの時も楽しかったなあ。」
「ふーん。」
その時を思い出しているのだろう、とても楽しそうに話す鈴佳。そこに私がいないことに酷くやきもきしてしまい、ぷぅ、と頬を膨らませる。
ああもう、こんなことで嫉妬してどうする。私以外の人と楽しく過ごしたと考えただけで……
「もしかして嫉妬してくれてるの? 可愛いなあ!」
ぷす、と頬をつつかれ、空気が抜けた。
「大丈夫、俺にはひとみんしかいないから。」
私しかいない、だなんて……どこか告白めいた言葉に一々ドキッとする。鈴佳はそんな意味を含んでいないで発言していると分かっているのに。
どこか遠くを見ている時、決まって鈴佳はいつもと違った優しい笑みを浮かべる。大切な人がいるっていう何よりの証拠だ。
だからと言って『大切な人がいるんでしょう?』だなんて聞けやしなかった。
肯定されたくなかったから。肯定されたら私が失恋してしまうから。
そう考えると悲しくなった。私はいつの間にか鈴佳のことが好きになっていたのだ。思わせぶりな言動は是非ともやめてもらいたい。
「またそんなこと言って! 私だからいいものの、他の人にそんな風に言ったら誤解されるよ!」
「えー?」
また鈴佳は否定も肯定もしない。こんな状態が続くならいっその事告白して玉砕するべきなのか……。
結局今日も結論が出ることはなかった。
まあ、数週間も一緒にいれば私の中での心境も変わってくるもので。鈴佳と一緒にいることが次第に楽しくなってきていた。
それの一因として、私はいつの間にか鈴佳のことが……
「ねえひとみん、前からこの曲を聞かせたかったんだ。聞いてみてよ!」
屋上でお昼ご飯を食べ終えた私達はいつも通りお喋りしていたのだが、急に鈴佳は音楽を勧めてきた。
「……? 分かった。」
渡されたイヤホンを付けると音楽が流れてくる。ゆったりとしていて、落ち着く。しかし私は知らない曲。
「……これはなんて曲なの?」
「『夜明け』だよ。」
「へえ……いいね。曲調もゆったりしてて聞きやすい。」
「でしょー? ずっと聞かせたかったんだ。そう、ずっとね……」
まただ。鈴佳はたまに意識がどこかに飛んでいく。遠い昔を懐かしむように。
「鈴佳ー?」
「……、ああ、ごめんごめん。なんか昔を思い出したらちょっと寂しくなっちゃって。駄目だね、お爺ちゃんみたい。」
「……昔?」
「そ。今よりずっと昔。あの時も楽しかったなあ。」
「ふーん。」
その時を思い出しているのだろう、とても楽しそうに話す鈴佳。そこに私がいないことに酷くやきもきしてしまい、ぷぅ、と頬を膨らませる。
ああもう、こんなことで嫉妬してどうする。私以外の人と楽しく過ごしたと考えただけで……
「もしかして嫉妬してくれてるの? 可愛いなあ!」
ぷす、と頬をつつかれ、空気が抜けた。
「大丈夫、俺にはひとみんしかいないから。」
私しかいない、だなんて……どこか告白めいた言葉に一々ドキッとする。鈴佳はそんな意味を含んでいないで発言していると分かっているのに。
どこか遠くを見ている時、決まって鈴佳はいつもと違った優しい笑みを浮かべる。大切な人がいるっていう何よりの証拠だ。
だからと言って『大切な人がいるんでしょう?』だなんて聞けやしなかった。
肯定されたくなかったから。肯定されたら私が失恋してしまうから。
そう考えると悲しくなった。私はいつの間にか鈴佳のことが好きになっていたのだ。思わせぶりな言動は是非ともやめてもらいたい。
「またそんなこと言って! 私だからいいものの、他の人にそんな風に言ったら誤解されるよ!」
「えー?」
また鈴佳は否定も肯定もしない。こんな状態が続くならいっその事告白して玉砕するべきなのか……。
結局今日も結論が出ることはなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる