あなたの犬になりたい

ゆずみそ

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わん

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 少し跳ねた艶やかなブラウンの髪。タイを緩める筋張った長い指。適度に筋肉のついたしなやかな身体。細い腰。そして何よりも太陽の様なその笑顔!

「ああ、今日もケント様はステキですわぁ」

「目の前で夢見る様に言われると、不思議な感じがするね」

 只今ガーデンテラスにて、ケント様と二人きりのお茶会の最中です。テーブルが小さく、私も身を乗り出しているので、メッチャ近い距離でご尊顔を拝しております。
 こんな幸せな距離感も、我がモリソン公爵家とケント様のロッド伯爵家の領地が隣り合っておりまして、幼い頃から交流があるからですの。所謂幼馴染みというものですわ。

 連日ケント様に会えて匂いも嗅げちゃう、うっかり鼻血と共に昇天してしまいそうな幸せな日々を過ごしております。

 ただ最近、その幸せにも翳りが見えてきましたの。

「ん? マギー、どうしたの? 可愛い顔が曇ってるけど」

 下から覗き込まれお顔がっ、上目遣いいただきました!

「やっぱり嘘です! 今日も曇りなき晴天です! 私の些細な変化も見逃さぬ程見てくださるなんて、幸せ真っ只中ですわー!!」

 思い余って胸元で手を握り締めようとしたら、指がテーブルにぶつかりました。あ、お茶がこぼれちゃいます。

「おっと」

 ケント様が素早くテーブルを押さえてくれました。はあん、頼りになる……!

「あの、ありがとうございますケント様。とんだ粗相をしてしまい申し訳ありません」

 レディとして失格でしたわ。恥ずかしくなって俯いていると、膝の上に置いた私の手がそっと握られました。
 顔を上げると、ケント様の麗しきご尊顔が目の前に……その男らしい唇を私に差し出していらっしゃるの?! 食べちゃいますわよ。

「怪我はない? この手は私のものだろう? 駄目だよマギー、勝手に傷つけちゃ」

 好きに出来るのは私だけだよ――そう言って、目を合わせたまま私の指先に唇を落とすのでした。

 即、鼻血ブーで倒れましたわ!!





「はあ、今日も幸せでした……」

「鼻血出してましたけどね」

 専属侍女のシーラが私の髪を纏めながらも毒を吐きます。これがあるから私は日々の反省を得られると感謝しておりますの。

「マーガレットお嬢様のお気持ちは重々存じておりますけど、大体ケント様そんなに良い人ですかね」

 こっちの毒は頂けませんね。

「勿論よ! 殆ど毎回血塗れになる私を非難する事なく会いに来てくださるのよ。海より広い、大空並みの心の広さとしか言いようがないわ!」

「うーん、その鼻血がそもそも彼の方のせいというか」

 ドレッサーの上を片付けながらもまだ認めない発言をするなんて! どんな時も仕事の手は休めない、やはり有能ね。有難いことだわ!
 そんな彼女には早く休んで欲しいので、彼の布教は今日は諦めましょう。毎日してますしね。

 寝支度を終え、シーラが挨拶をして出て行きます。

 夜一人になって、ほんの少しの寂しさを感じながら1日を振り返ります。

 ケント様、今日も爽やかだったわ。少し日に焼けられたようだったし、ほんのりと香る汗と香水の匂いがまた良かった……。そう言えばここに来る前、学校の準備がある為街に買い物に――――

「あ、ケント様の学校について聞くの忘れてしまいました……」





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