生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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ルシアスの仕事

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sideルシアス


「団長!!!1番大きいヤツが逃げました!!」




今日はやけに魔物の数が多い。




「デカいのは俺が殺る、お前らは小物を片付けろ。」



この間、大抵は追い払ったんだけどな。




「「「「「はい!!」」」」



魔物を討伐するためだけに形成された、このルドベキア騎士団。



俺の部下に役立たずはいない。



腕のいい者しか俺がこの騎士団に迎え入れないからだ。



だからこうして仕事を任せられる。




俺が1番デカいのを始末した頃には、もうここは片付くだろう。



一気にスピードを上げて逃げた魔物の前へ立つ。



魔物は闇の力でできた名前のない生き物だった。



犬のような熊のような形をしているが、骨を覆っている肉は腐っていて異臭どころの騒ぎじゃない。




これは魔女や魔法使いが絡んだ一件に違いない。




魔物は目の前に立ちはだかる俺を見て大声で吠える。



「ギャァァァアァア!!!」



喧しい犬もどきが。




さっさと始末するか。




俺は剣を握りしめ、高く飛んだ。



そして、重力に逆らわず剣を振るう。



俺が地面についた頃には化け物の首は飛び、辺り一面が血に染まっていた。



「さっさとくたばれ、俺が遊びたい犬はお前じゃねぇんだよ。」




これを始末して、解散してあの店に行けば俺の犬っころは今日も必死な顔して仕事をしてるだろう。



さっさと行って遊んでやるか。


俺はアイツのご主人様だからな。



振り返ると、ちょうど部下の1人が最後の1匹を殺し終えた。



「さっさと片付けて帰るぞ、殺したのは全部ここに固めて燃やす。集めて来い、後は俺が灰にする。」




俺の命令を聞き、部下たちが死体を俺の目の前に積んでいった。




全員で運べば15分程度で全ての死体が揃う。




「今日はよくやった、お疲れさん、後は俺が引き受けるからお前ら帰っていいぞ。」



こんな所早く立ち去りたいだろう。



俺らヴァンパイアにはこの場所はきつい。


俺も鼻がもげそうだ。




「団長ー、こんな酷いとこで仕事させてあっさり帰るなんてなしでしょー。ご褒美くらい見せてくれないと。」



副団長のキジャが気怠そうに俺に言ってきた。



キジャの言う褒美とは俺の能力のことだった。



王族のみに受け継がれる炎の能力。



俺の炎は特に特殊だ。



「見たい奴だけ見て行け。」



数人帰るかと思うが誰も帰らない。




「ったく、お前ら本当に暇だな。」




俺が死体に炎をつけると歓声が上がる。



「おぉ!」
「さすが団長!」
「美しいです!」
「いつ見てもいいですね!」




騒ぐ部下達に比べ、キジャはボーッと俺の出した炎を眺めていた。




「本当、綺麗ですよねー。初めて見たときは本当にびっくりしましたよ。虹色の炎なんて。」





キジャの言う通り、俺の炎は虹色だ。



王族の中でもかなり珍しい。



今まで、この炎を操っていたのは1人しかいない。



例が少なすぎて、詳しい記述もなく会得するのは苦労した。


だが、今はもう完全に俺のものだ。




炎の勢いを増せば、山積みになっていた死体は完全に灰になった。




「ほら、見せ物は終わりだ。全員帰るぞ。」




俺は忙しい。


さくっと帰って犬の世話をしないといけないからな。




*********************

sideリラ


仕事前にいろいろあったけど、今は無事ステージで踊れていた。



今日、私とダリアちゃんに文句を言った2人と目が合うと恐ろしいほど睨まれる。



あぁ…怖い怖い。



1人きりになったら何をされることやら…。



そんなことを考えていたら曲が終わり、私の踊りも終わる。



そして、例の膝の上の時間が来た。



見渡しても今日はライアス様はいない。



いてくれたらすぐにでもライアス様の膝の上に行くのに…。



私が誰の膝に乗っていいかわからずに、キョロキョロしていたら知っている顔を一つ見つけた。



「…………………。」



それだけは勘弁して、お願いです。




その人は私と目が合った瞬間、意地悪な笑みを浮かべた。



人差し指をクイっと2回動かして、来いと命令してくる。




周りを見ても私を呼んでる人はいない。



無視しても感じ悪いし、もうこれは行くしかない。



私がとぼとぼその人の目の前に行き、自ら膝に座ると……



「寂しかったか?犬っころ。」



やっぱり私をいじめるらしい。


「寂しかったのは私じゃなくてルシアス様でしょう?」



私がルシアス様の名を口にした途端、昨日と全く同じことが起こった。



この場にいた全員が跪き、ルシアス様を崇めていた。



勘弁してよ、まさかこの人がどこかのお偉いさん??



また私なんか言われるじゃない。


これ分かっててここに来てるよね?



こうやってまた私をいじめに来るなんて。



どんだけ暇なんですか。




「頭下げてねぇで楽しめ、俺のことは気にするな。逆に居心地が悪いんだよ。」



ルシアス様の言葉を聞いて戸惑いながらもお客さんや踊り子達は元の席に戻り会話を続けていた。




ルシアス様がいつもあのVIPルームにいるのはこれが面倒だからかな?



でもルシアス様の気持ちもわかる。



せっかく楽しもうとしても、誰かに頭を下げられたままじゃなにも楽しめないよね。




「ルシアス様、何者ですか?」



私はあなたをまるで知らない。




ただの魔物討伐の騎士にここまで他人が頭を下げるはずはない。



「お前の飼い主様だ。」



本当に、この人は…



「違います!」



そもそも私は犬じゃないんだから。



「むくれたらまた口が曲がるぞ。」


故意に曲げたのはルシアス様でしょ!


いつまで笑い者にする気!?


そんなことより…



「どうしてここにいるって分かったんですか?」


私、ルシアス様に踊り子をやるって言ってなかったと思うけど…。



「ライに聞いた。」



ライさん…なんで言っちゃうんですか…。



一瞬、ライさんの面白がっている顔が頭に浮かんだ。



「犬っころの晴れ舞台くらい見てやらないとな。」



またそうやってからかって……。



「そうでした、ルシアス様は暇人代表でしたね。」



どうだ、参ったか、ルシアス様。



「残念ながら仕事帰りだ。俺は暇じゃない。」



仕事帰りにここに寄るって絶対暇人じゃん。



「恋人でも作ったらいいじゃないですか。性格はともかく顔はいいんだからすぐにできますよ!性格はともかく!」




大事なことは2回言わないとね。




「しつけのなってない犬っころだな。」



ルシアス様はそう言って長い指で私の唇を摘んだ。




「んん……。」



これじゃあ喋れない。



「お前のしつけが忙しくて女作る暇もねぇんだよ。覚えの良い犬なら俺ももっと有意義に過ごせるのにな。まぁ、仕方ない。お前は覚えが悪いからな。本当に、覚えが悪いからな。」



2回言ったよ、この人。



言わせておけば誰が覚えが悪いって!?



そんなにバカじゃないんだから!!



「んーっ!んー!!」



なんて指の力!


私が大きく口を開けようとしてもびくともしない。



「周りを見てみろ、こんなに騒いでるのはお前くらいだぞ。恥ずかしくないのか?」



誰のせいだと!!



「機嫌直せ、また近々ナイトに会わせてやるから。」



ナイト!?



私が黙ったらルシアス様は指を離してくれた。



「本当ですか!?」



私の食いつき方が面白かったのかルシアス様は少し笑った。



「あぁ、伝えておいてやる。」



何よ、少しは優しいところがあるじゃない。



ずっと優しかったら良いのに。



「約束ですよ!」



そしたらきっと、恋人なんてすぐにできる。


恋人ができたら私にここまで構うことはなくなるだろうから、いろいろ解決だ。



「約束、か。まぁ、してやってもいいけどな。」



素直に約束って言えないところがルシアス様だよね…。


 
「じゃあしてください!」


でもナイトに会えるんだからこれくらい多めに見てあげましょう。




「団長ー。ちょっと問題発生です。」



ん??小さな音だけど確実にそう聞こえた。



「お前まっすぐ帰ったんじゃねぇのか?」


音が聞こえたのは私の空耳ではなかったみたい。


ルシアス様は連絡用ピアスに話しかけていた。



ルシアス様、持ってるんだ…。


「いやー、俺も帰りたかったんですけどね。忘れ物取りに行ったら変な奴がいて、今とっ捕まえたんですよ。俺1人残業なんて嫌なんで今すぐ来てください。」



なんて気怠げな喋り方…




「お前1人で片付くだろう、爪でも剥がせばすぐに吐く。」



!!?


「つ…爪??」



ルシアス様、何言ってるの??



「あ、女の子の声。珍しいですね、女の子引っかけてんですか?」



引っかける??



「いや、これは躾だ。それと女の子だなんて可愛いもんじゃない、声聞けば分かるだろ。」

「いやー。わからないですねー。」



ルシアス様は大きなため息をついた。



「本当に、お前ほど扱いにくい部下はいない。」



意地悪なルシアス様をこんなに困らせる人はどんな人だろう。



是非その技を教えていただきたい。



「お褒めに預かり光栄です。」



さらにこんな皮肉までサラッと言えてしまうなんて。


これは天才に違いない。




「褒めてねぇよ。…すぐ行くから先に絞めとけ。」
「はーい。」



どうやら会話は終わったようで、もう声は聞こえない。




「仕事して来る。」



ルシアス様は私を膝から下ろして立ち上がった。




「はい………あの…。」



こんなことを言うのはシャクだけど…。




「気をつけてくださいね……いろいろと。」




なんかルシアス様相手にこんなこと言うなんて嫌だな…柄じゃない。




私がモジモジしてたらルシアス様はフッと笑う。




「ご主人様を心配できるなんて少し賢くなったな。」



ルシアス様に言い返そうとしたら驚くことに優しく頭を撫でられた。




「いい子にしてろよ、犬っころ。」




初めて見た……ルシアス様のあんな優しい顔…。




って!!!!



なんでときめいてるの!!!




私の馬鹿!!
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