生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

文字の大きさ
上 下
36 / 471

欲しいもの

しおりを挟む
sideルシアス


雨か。

朝は降ってなかったのに。


そう言えば、アイツ傘持ってなかったな。


そろそろ迎えに行ってやらねぇと。


「やっぱりいい、悪いな。」


断りを入れた女は怒って俺の側を通り過ぎた。


そりゃそうなるよな。


俺から引っ掛けたんだもんな。


確かに腹は減ってる、ここしばらく体の関係も持ってない。


今絶好のチャンスだったよな?


俺が声をかければ簡単に着いてくる女だった。


きっと腹も満たせて、それ以上のことも満たせたはずだ。


それなのに俺はが全く起きない。


少し前まで誰でもよかった。


適当に飢えを凌げて、適当に抱けて、後腐れがなければそれでいい。


そう思っていたのに…


どうして1人しか頭の中に浮かばない?


俺は誰で飢えと体を満たしたい?


このまま帰って大丈夫か?


このまま帰ったらきっと好き勝手してしまう。


簡単なことだ。


あんな華奢な体、簡単に抑えて奪える。


首筋に牙を突き立てて俺の毒が体中に回った瞬間、抱き潰してしまいたい。


きっと泣くだろう。


泣いて、真っ赤な顔して、そそる顔をするに違いない。



って…


お前の言う通りだよ、リラ。



「俺はとんでもない変態だ。」


************************

sideリラ


遠い、ひたすらに遠い。


考え事が尽きるほど遠い。


ルシアス様がいれば一瞬なのに…。


そう思いながら歩いてると、少し離れたところに誰か立ってる。


誰??


そう思い目を凝らすけど一瞬傘で姿が隠れた瞬間、その人影は消えていた。


私の見間違い??


それにしてははっきり人だと分かったけど……。


疲れてるのかな?


雨だから目が霞んでるとか?


「おい。」
「きゃあ!!」


体がビクついて大きな声を出してしまった。


「何驚いてんだよ。」


驚くに決まってるでしょ!


「ルシアス様が急に出てくるからです!」


絶対寿命が縮んだ!ルシアス様のせいで!!


「悪かったな、一応謝ってやるよ。一応な。」


一言多いのよ!この人はいつも!!


「一応、私も許してあげます!一応ですけど!」


生意気だって頬をつねられるかも。


それでもいい!ルシアス様が悪い!


「それよりお前、この傘どうした?」


心臓が少し跳ねた。


なんで??

ライアス様に会うことは別に悪いことじゃないのに。


「えっと……。」

嘘つく必要はないよね…?多分?


「ライアス様にばったり会って、それで…。」


なんで私こんなに挙動不審なんだろう…。


「お前には本当にお優しいな、アイツは。」


お前には?


「ライアス様は多分みんなに優しいですよ?」


私にだけあんなに優しくするなんて、そんな器用なこと出来るはずない。


「お前、この間の俺とアイツ見てもそんなこと言うのか?」


ルシアス様が呆れ切った目でこっちを見てきた。


「それは……ちょっと違いますね。」


だいぶ違うかな。

だって、あの時ライアス様がルシアス様に向けていた視線は恐ろしかった。


敵意と殺意の滲む視線だった。


「ちょっと?お前は呑気だな。」


また私のこと馬鹿にして!


「い、いいんですよ!呑気で!!呑気は心の余裕がある人にしか「わかったわかった。帰るぞ。」


ちょっと!人が喋ってる時に!!


「あ!!」


急に抱き上げられた私はライアス様の傘を落としてしまった。


「ルシアス様、ま」


待ってくださいを言う前に、ルシアス様の家に着いてしまう。


本当、ヴァンパイアの動きには着いていけない。


速すぎる。


「ルシアス様!傘が!」

あれライアス様のなのに!


「大丈夫だ、アイツは傘くらい買える。」


そう言う問題!?


「リラ、タオル取ってきてくれ。」


そういえば、ルシアス様びしょ濡れだ。


「ぷっ…傘忘れたんですね、いい大人が…!」


可愛いとこあるじゃないですか、ルシアス様。


「傘忘れた挙句に恵んでもらった奴には言われたくないな。ご主人様の命令は絶対だ。さっさと取ってこい。」

「あだっ!!!」


おでこを指で弾かれた私はルシアス様をキッ!と睨みつけた。


「ほら、犬っころ。取ってこい。ご主人様が濡れて風邪でも引いたら今度は首が飛ぶぞ?」


くそ~っ!!!!!


「ルシアス様の意地悪!!!」


けど首が飛ぶのは嫌!!

あれでも一応王子様だし、風邪をこじらせてそれが王様の耳に届きでもしたら私の首は保証できない!!


私はバタバタと走りルシアス様のタオルを取りに行った。



もう!!このお屋敷広いのよ!


1人で住むならこんなに広さいらないでしょ!?


私がタオルを取って戻ると息が切れる広さだ。



「はぁはぁはぁ…もう!!」
「あ?」


ルシアス様の頭にタオルをバサッとかけた。


いつもの意地悪の仕返しとして背伸びして力いっぱいルシアス様の頭をわしゃわしゃする。


「このっ、このっ、このっ!!!」


どうだー!!ルシアス様!


痛いでしょ!!降参か!!!

ルシアス様の頭からバサッと激しくタオルを取る。


悔しいことに、ルシアス様は顔一つ歪めない。


それどころか…


「えらいな、犬っころ。今日は役に立ってるぞ。」


この男はっ…!!!!


「誰が!犬っころ!!ですか!!」


持っていたタオルでルシアス様を叩くとルシアス様は大きな声で笑い、子供みたいに顔をくしゃっとする。


こんな顔に騙されたらダメ!!


少年の心は生まれた瞬間に捨てた男よ!この人は!!


「分かった、犬っころ。少し落ち着け、餌ならちゃんと食わせてやるから。」


この期に及んでまだ餌だなんて……


「ルシアス様許しません!!!」


いつか絶対仕返ししてやるー!!!


「おー、怖い怖い。」


ルシアス様はそう言いながら私の頭をポンポンと撫でて私の横を通り過ぎた。


いつか必ず、ギャフンと言わせる!!!



ギャフンってね!!!ギャフンッ!!って!!
(↑大切なことは2回言いましょう。)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:97,260pt お気に入り:2,214

自由に語ろう!「みりおた」集まれ!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:355pt お気に入り:22

あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,087pt お気に入り:37

処理中です...