生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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休日と雨と血とキス

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sideリラ

私は今この上なく暇だった。


今日、私は仕事が休みでルシアス様の家でゴロゴロしてる。


それはいいとして、ルシアス様が仕事に行ってしまってるから本当に暇だ。


話し相手もいない、しかも今日はあいにくの雨。


こんな時にナイトがいてくれたらなぁ…。


あの気まぐれ狼とはいつ会えるの?


今日、ルシアス様が帰ってきたら催促してみようかな。


それにしても……


「暇だなぁ~」


**********************

sideルシアス


「っくそ!!」

キリがない!!!

「そっちに行った!!逃すな!!」


この間の魔物より厄介だ。


この魔物は初めて見る。


二足歩行でブサイクな顔、硬い皮膚、わけのわからん言葉、武器を使う程度の知能。


あの犬もどきの時からどうもおかしい。


魔物が少しずつ変化してる。


「根絶やしにしろ!!」


こんなの、訓練を受けていない奴の前に現れたら最悪だ。


多分、対処できない。


もしも、リラの前に現れたらアイツは……


「団長!!後ろ!!」


雨の音と、剣の音と、怒声と、うめき声の間からキジャの声が聞こえた。


が、その時にはもう遅い。


「くっ!!!!」

いつもはこんなヘマしないのにな。


こんな…


「団長!!!」


背中を切られるなんて、みっともないヘマは。


さらに魔物は俺に追い討ちをかける。


「っ!!!」

左腕に、飛んできた矢が刺さった。


踏んだり蹴ったり、とはまさにこれだ。


さすがに痛い。


ライアスとやり合った時も痛かったな。

最近、痛いことばっかりだ。


「気に食わねぇな!!」


どいつもこいつも!!


腹が減ってイライラする。


腹の底が飢え続けている。


首に噛み付きたい。


白くて細い


俺の牙に溺れるアイツを見たい。


俺の毒が全身に回り、快楽に沈むどれほど可愛いんだろうか。


戦いの最中、そんなことを考えるなんて俺はどうかしている。


そりゃ、背中だって切られるわけだ。


集中しねぇとな。

うっかり死んだら会えなくなる。


さっさと終わらせて帰るか。



早く帰って相手してやらねぇと。


*********************

sideリラ

ガタッ!!
「ひっ!!」


私がバスルームでタオルを体に巻き終わったら大きな音がした。


玄関の方からだった。


ルシアス様が帰ってきた??

いや、でもルシアス様は音もなく帰ってくるのが普通。


あんな大きな音を立ててこの家に入ってくるなんて考えられない。


ルシアス様じゃないとしたら逆に誰??


いやいや、ルシアス様に決まってる。


どうせまた私を脅かそうとしてるんだ。


その手には乗りませんよ、ルシアス様。


このまま逆に私が驚かせてやろう!


もう服なんか後でいい!

どうせタオル巻いてるしね。


ふふふ……打倒、ルシアス様。

いつも驚かされている借りをここで返すわ…!


そーっとバスルームを出て玄関に向かう。


静かに静かに静かにゆっくり歩いて玄関に近づいた。


壁に沿って歩いて、いざその時が来た!


「わっ!!!」


急に現れた私に驚くがいい!!!


そんな面持ちで飛び出したけど、ルシアス様はいない。

さらにおかしい事に、家の中なのに水たまりを踏んだ。

せっかくお風呂に入ったのに足がびちゃびちゃだよ…


「え?」

私の足元には理解を超えるものが溜まっている。


床一面に、ゾッとする程の血溜まりがある。


私の踏んだ水溜りは生暖かい血溜まりだった。


その血溜まりは一ヶ所じゃない。


線を引くように、廊下に垂れている。


ルシアス様、絶対怪我したんだ………


大丈夫かな?


怖くなってきた。

こんなに血が出ていて大丈夫なわけはない。


不安に震える足を進めいていくと、血の跡は二階へ上がっている。


私の血の足跡が、印のように垂れている血溜まりの隣を汚す。


もう、そんなのどうでもいいくらい今はルシアス様が心配だった。


階段を上り切り、血の跡はライアス様の部屋へ続く。


部屋のドアは開けっぱなしで、ドアにも沢山の血がついていた。



「ル…ルシアス…様?」


ねぇ、大丈夫?生きてる?


ルシアス様の部屋は真っ暗だ。


部屋に足を踏み入れると…


「来るな。」


一言短くそう言われた。


よく見るとルシアス様は血塗れのままベッドに横たわっていた。


「ルシアス様!!」


私はすぐにルシアス様に駆け寄る。


「大丈夫ですか??」


大丈夫なわけがない。


こんなに血が出てるのに……。


「どうしよう…!こんなに血が…!すぐ手当てします!!」


心臓を誰かに掴まれているみたいだ。


生きている心地がしない。


「いい、寝とけば治る。それより違う部屋に、っ!!!」


え!?すごい苦しそう!!!


「ルシアス様!きゃっ!」
「近寄るな!!!」


ルシアス様に押された私はすごい勢いで壁に激突した。

壁からずるずると滑り落ちて床に座り込む。


背中が痛い……


「悪い…加減できなかった。」


ルシアス様はベッドを降りて、私の目の前に来ていた。


「違う部屋に行ってろ……」


*********************

sideルシアス


早く行ってくれ。


大量に出血してるせいか血が欲しくてたまらない。


斬られた傷や射抜かれた傷より、吸血欲を抑える方がよっぽど苦しかった。


「こんなボロボロなのに……1人になんかできません!」


何で泣くんだよ。


泣くなよ、今はまだお前をいじめてないだろうが。


「リラ、俺は大丈夫だか「私がここにいたいんです!!ルシアス様が心配でたまらない…。」


涙目で俺を見上げた顔は初めて見る顔だった。


心配でたまらない?


何言ってるんだよ。


俺に吹っ飛ばされたのに、まだそんなことが言えるのか?


「ここにいさせてください。」


やめろよ、そんな顔。


「私、邪魔にならないようにするから…」


そんな声もやめてくれ。


「ルシアス様の言うこと何でも聞くから…」


やめてくれよ…


「側にいさせてください。」    


小さな手が俺の服を頼りなく掴む。


この小さな手に、俺の牙を埋めたらお前はどんな顔をする?


どんな声を出す?


ルシアス様?


か弱い手を掴み、手首の内側にキスをするとリラの心臓の鼓動が一度大きく跳ねた。
 

血が流れてる。

その心臓から指先まで全部にご馳走が巡ってる。


渇きを満たしたい、噛みたい、抱きしめたい、泣かせたい、抱きたい……



キスしたい……



「ンッ/////」


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