生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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sideルシアス


風呂から上がり、部屋に行けばリラがいない。


いつもはベッドに座っているか、ソファーにいるのに。


どこに行った?こんな夜中に。


俺と部屋に2人になるのが嫌で出て行ったのか?


まさかライアスの所に?


そんな嫌な考えが何度も交差した。


だけど、そのすべての考えは大間違いだった。


よく見るとリラはベランダにいる。


言葉にならないほどの安心感が俺を包んだ。


「風邪引くから中入れ。」


人間は夜風にずっと当たっていると風邪をひく。    


俺らヴァンパイアには考えられないことだが実際にあるのが人間だ。   
 

「はーい。」


リラは素直に俺の元へ来た。


頬に触れたら案の定、冷たくなっている。


「ルシアス様、暖かいですね。」


リラは俺が触れている手を冷たい手で包み顔を傾けた。


こうやって触れても嫌がらない、むしろ俺の手を包んでくれる。


嫌だとか、気持ち悪いとかは思われてなさそうだ。

よかった、お前に嫌われなくて。


「寝るか?」

明日も仕事があるだろ?

もちろん俺も仕事だ。


「はい!…あの、一緒に寝ていいんですか?」

それ普通俺が聞くことだろ。

「お前の好きにしていい。」


強制はできないだろう、このことに関しては。


1番の被害者はお前なんだから。


「じゃあいつも通り一緒に寝ます!」

 
キスしていい関係なら、俺はとっくにキスしてる。


ただ単にキスしたいとか抱きたいとかそんな単純なことじゃない。

本当に欲しいものがわかってしまった。


俺は、リラの気持ちごと全部欲しいらしい。


リラの気持ち以外を全て奪った俺が全部欲しいなんて欲張りすぎるな、俺は。

*******************
 
sideリラ

ルシアス様、もう寝たのかな?

私に背を向けて寝るなんて初めてだ。

いつもは腕枕してくれてたのに。

私の呪いを解いたことで距離が縮まるどころか避けられている気がする。

ルシアス様は自分に負い目を感じてる。

ルシアス様は何一つ悪くないのに。

むしろ、好きな人がいるのに私なんかの相手をさせられて可哀想。


ルシアス様本人から好きな人がいると聞いたわけじゃないけど、あの日の朝の反応からしているのは明白。


実際否定はしなかった。


……誰なんだろう。

ルシアス様の好きな人。

どんな人なの?

羨ましくて仕方ない。

私このままで大丈夫かな?

ルシアス様とその人が結ばれたときに、素直に祝福できる?

幸せになってくださいって言える?

嫉妬に溺れないだろうか。

そこだけが怖い。


ルシアス様に恋人とかができたら私は1人ぼっちだ。


そうなれば私はきっとルシアス様の近くにはいない。


つらすぎて、そんなの見ていられないから。


今だけかもしれない、こうして一緒に眠れるのも、一緒にご飯を食べれるのも、一緒の家にいられるのも。


私はルシアス様の背に額をつけた。


ルシアス様がなんと言おうと状況は変わるかもしれない。

私もそうだったけど、恋に落ちるのは突然。

誰も教えてくれないし、気づいたときには戻れなくなる。 


私も同じ気持ちを知っているくせに、ルシアス様にそんな相手ができたら諦めることはできる?


この人から離れることはできる?


「おい、俺の脇腹ちぎる気か?」


おっと、いけない。

考え事をしていたら手に力が入ってた。


「ごめんなさい…ちぎらないです。」


私1人で考えてルシアス様の脇腹を握りしめて何してるんだろう。


私は手を離し再びルシアス様に背を向けた。


すると今度はルシアス様が私の背中にぴったりくっついてきた。


いきなり上がる心拍数はきっとルシアス様に聞こえているはず。


変だと思われないといいけど。


「お前いい匂いするな。」


???


「お風呂…入ったからだと思います。」


これは珍しく褒められてるの??


「石鹸の匂いじゃない、甘い匂いがする。」


甘い匂い?


「血の匂いとかですか??」

こればっかりはヴァンパイアにしかわからない香りだ。


「ちょっと違うな。……何にしても落ち着く。」


臭いと言われるより全然いい。

むしろ嬉しい、そんな風に言ってもらえて。


「…………」

あれ?急にしゃべらなくなった。


私の背後から寝息が聞こえる。


私に抱きついた瞬間眠ってしまったらしい。


大きい男のくせにそんなとこばかり可愛いから本当にずるい。


ルシアス様とくっ付いていると安心する。

私もこの後すぐに眠りに落ちてしまった。

*******************

sideキジャ

「団長~。まだですか~?」

早くしないと遅刻する。


俺たちが大嫌いなお茶会と言う名の地獄に。


「今準備してる!先行ってろ!」


家の中からドタバタ聞こえる。

ちなみに俺は玄関で突っ立って団長の支度を待っていた。


「リラ!急げ!」

「もう!何で貴族のお茶会があるって教えてくれなかったんですか!知ってたら早起きしたのに!」

「興味ねぇから忘れてたんだよ!」


あいも変わらず仲がよろしいことで。


それより…


「いやー、先には行きませんよ。団長連れて行かないと俺が怒られるんですよ、いろいろ。」


それに何時間もお嬢様のお話を聞くのはごめんだ。


「ルシアス様!今日は髪上げて!髪!そっちの方が格好いいです!あぁ!今上げないでください/////」

「あ?今上げたら困るのか?」

「い、いえ////」


俺待ってるんですけど?


「イチャコラすんのは後にしてください、遅れますよー。」


いやー、しかし面倒な集まりだ。

本当に行きたくない。

 










リラをカトレアに送り届けて、俺と団長は王宮まで全力疾走した。


もちろん、王宮には一瞬で着く。


「あー、疲れた。」


いやいや、団長。


「早いですよ、こらからもっと疲れますからね。」


作り笑いにテーブルマナー、もううんざりしてきた。


「また鼻が曲がるな。」


団長は香水が嫌いだ。


匂いのキツいものはそもそも嫌いだと昔言ってたのが記憶にある。


「香水の甘い匂いはダメでリラの甘い香りはいいんですか?」


全くの別物だと分かっているけど聞いてみようか。


「アイツはいい匂いだからいいんだよ、キツくも変に甘ったるくもない。落ち着く匂いしてんだよ。」


これは相当、惚れてるな。


「ノロケは今度にしてください、って、団長。なんで前髪下ろしてんですか?」


リラに上げた方が似合うと言われていたのに。


「これなら目つきが悪くなって女が寄ってこない。」


なるほど、リラに見せるためだけにわざわざ髪上げたんですね。


「そうですかねー?」


団長の顔の良さは異常だ。


「あぁ、この作戦はうまくいく。」


目つきを悪くしたところで女は集ってくる。


本人は気付いてないけどまぁいい。


そう言うことにしておいてあげよう。





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