生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

文字の大きさ
上 下
77 / 471

切望

しおりを挟む
sideリラ


「リラ!」


私の幻聴だろうか。

ルシアス様の声が聞こえた気がする。


「リラ!どこだ!」

いや、幻聴じゃない!


「ルシアス様!!」


私がルシアス様の名前を呼ぶと…


「おい、お前ら何やってんだ!」


ルシアス様がいきなり目の前に現れた。


「だ、団長!すみません!かなり暴れるので少し拘束を…。」


ルシアス様のことを団長と呼んだ。


え??

じゃあこの人たちはルドベキア騎士団の人たち??


「手錠までするな、怖がってるだろ。早く離してやれ。」

ルシアス様の一言で男は私を地面に優しく下ろし網から出してくれた。


「それからそっちも出してやれ。」

ルシアス様はダリアちゃんのことも忘れない。


「ありがとうございます!ルシアス様!」


ダリアちゃんは可愛い笑顔でルシアス様にお礼を言ってる。

でも私はそれどころじゃない。


泣きすぎて目はパンパンで見れたものじゃない。


私は網の中で膝を抱えて顔を隠した。


「どうした?リラ、どこか痛いのか?」


こんな顔見せたくない。

それに、迎えに行くと言われていたのに泥酔してこんな状態で見つかるなんて。


安心したけど、本当に恥ずかしい。


「ルシアス様……ごめんなさい。」


この謝罪には色々な意味が込められてる。


待ち合わせ場所にいなかったこと、探しにきてくれたこと、一昨日キスしたこと、ルシアス様を好きになってしまったこと。


たくさんの意味がある。


「いつまでビービー泣いてんだ、さっさと帰るぞ。」


ルシアス様は私を網から出さずに、さっきの男の人と全く同じような持ち方をする。


私は今ルシアス様にサンタクロースの荷物のように持たれていた。

「お前らも手伝わせて悪かったな。埋め合わせは今度必ずする。今日は解散!」


男の人たちの返事が聞こえる。


ルシアス様が文句を言われないのは、ちゃんと謝るし埋め合わせも絶対にするってみんなわかってるからだ。


「団長、この子は俺が送って行くんで、あとは任せてください。」


キジャさんの声に顔を上げた。


「1人で帰れます。」


ダリアちゃんはキジャさんに網から出してもらい、手錠を外してもらっていた。


「いや、でも」
「私、ヴァンパイアですよ?」


ダリアちゃんはキジャさんにピシャリと釘を刺す。


「いやー、そう言われてもこれも仕事。アイス買ってあげるから大人しくついて来てほしいねー。」


「アイス?それなら送ってもらいましょうか。」


この2人、きっと仲良くなれると思うのは私だけ?


「なら任せたぞ。」


ルシアス様はそれだけ言ってこの場を去った。











「着いたぞ。」


ルシアス様はそう言って私を網ごとソファーに下ろす。


「とりあえず、手錠外してやるから出ろ。」


ルシアスは網を解いて私を抱っこして出してくれた。


言葉通り、手錠も外してくれる。


「ありがとうございます…。」


手錠を近くのテーブルに置いたルシアス様。


なぜか私のことをじっと見ている。


何だろう?

やっぱり怒られるのかな…?


「お前…。」


絶対怒られるよね、これ。


俯いたらルシアス様に両頬を包まれて上をむかされた。


「何でそんなに泣いてんだ?誰かになんかされたんじゃないのか?裸足で、あんな辺鄙な森にいたなんて…。」


昨日の事は一切覚えていない。


「多分、誰にも何もされてません、お酒を飲みすぎて昨日から迷子になってただけです。」


「じゃあ何でそんなに泣いてるんだ?」


心配そうにしているルシアス様。


好きでもない女にそんな顔してくれるなんて。

ルシアス様は恐ろしい人だ。


「不甲斐なくて…情けなくて、ただそれだけです。」


私がそう言うと、ルシアス様が優しく頭を撫でてくれる。


「酒を飲むなとは言わないが自分の限界くらい把握しておけ。こんな事が再々あるようじゃ俺も身が持たない。」


身が持たない?


「そんなに心配したんですか?」


胸の奥がくすぐったい。

ルシアス様はなんて答えてくれるの?


「あぁ、見て分からないか?」


疑問に疑問で返すなんて。


「とりあえず、風呂入れてきてやるからゆっくりしとけ。」


ルシアス様の手がまた私の両頬に触れた。


そして…

「っ//////」


ルシアス様は私の腫れた左右の瞼にキスを落とす。


私が放心していると、ルシアス様は何も言う事なくバスルームへ一瞬で消えてしまった。


本当に、本当に恐ろしい人だ。


私はこんなにも顔を赤くしてドキドキしているのに。


こんなにも恋焦がれているのに。


ルシアス様にその気は一つもない。


優しいだけ、なんて1番残酷だ。


あぁ、あの人はいいなぁ。

昨日、アクセサリーのお店で出会ったあのカレン嬢。


綺麗で、優雅で、お金持ちで、ルシアス様に女として見られているあの人。

羨ましくて仕方ない。

こんな気持ち、抱く事も罪深いのに。


立ち聞きした話ではルシアス様から声をかけたと言っていた。


さらにはあんなに嫌がっていたお茶会にも参加すると。


胸が苦しい。


2人はきっと誰からも祝福される。


美男美女だし、悪く言う人なんて誰もいない。


私は?

その時私はどうなるの?


ルシアス様の側にいられなくなる。


そうなった時、孤独で胸が潰れないだろうか。


いつか来るが怖くて仕方がない。


涙が出そうになった私はそっとソファーに腰掛けた。






しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

前世の因縁は断ち切ります~二度目の人生は幸せに~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:103,223pt お気に入り:2,261

自由に語ろう!「みりおた」集まれ!

エッセイ・ノンフィクション / 連載中 24h.ポイント:461pt お気に入り:22

あなたならどう生きますか?両想いを確認した直後の「余命半年」宣告

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:2,286pt お気に入り:37

処理中です...