生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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sideリラ

ルシアス様がいきなり現れたことはびっくりだった。


だけど、もっとびっくりしたのはあの令嬢がいたことだ。

さらにその隣にはライアスと知らない令嬢までいた。

アクセサリーのお店で会った例のカレン嬢。

私が心の底から嫉妬する人だ。

そしてその後ろには、キジャさんルルドさんがいて、さらにその後ろには数人の令息たち。

それぞれ隣には豪華なドレスを着た女の人たちがいた。

あのアクセサリーのお店で見たことのある顔も揃ってる。

私が放心していると…


「何て無礼な女なの!!」
「ルシアス様のお体に触れるなんて!」
「卑しい人間の分際で!!」


カレン嬢以外が次々と私に罵声を浴びせた。

咄嗟に後ろに下がると…


「きゃあっ!!」

 誰かに髪を掴まれた。


「人間の分際でルシアス様に触れるとは!!」


キジャさんとルルドさん達の後ろにいた男の1人が私の髪を掴んでいた。


「ちょっと!やめなさいよ!!玉なし!!!」


とんでもない言葉で令息をなじって止めに入ったダリアちゃん。


「お前、口の聞き方がなってないな!」

もちろん、他の令息達に目をつけられる。

ダリアちゃんも令息数人に押さえられて髪を掴まれていた。


「お前、ヴァンパイアか?ヴァンパイアのくせに家畜を庇うなんて反逆行為も同じだ。」 


ダリアちゃんの髪を掴み上げている令息はさらに手の力を強くした。


「いっ」


ダリアちゃんはよほど痛かったのか涙目になっていた。


「ダリアちゃんに触らないで!!」


私は涙が出た。

ダリアちゃんを傷つけられて泣くほど腹が立つ。


それでももっと腹が立ったことがあった。

ライアスもルルドさんもキジャさんもルシアス様も、誰一人として私たちを助けようとしなかったこと。


所詮、私はルシアス様やライアスにとってその程度だ。


貴族とか王族とかそんな人たちに囲まれたら結局、私なんか選ばない。

これでよくわかった。

期待した私が馬鹿だったのよ、勘違いした私が全部悪い。


そもそも人間を受け入れられるわけない。


吸血鬼あなたたちからしたら私は下等生物なんだから。


吸血鬼あんたたちが大嫌いよ、その醜い獣のような牙を見たらゾッとするわ。」


人間は怒りが頂点に達すると、余計な一言を言う。


気が付けば、私は誰かに叩かれて頬から血を流していた。


「その人間の喉を潰して!」
「人間の分際で私たちを侮辱するなんて!」
「先に目玉をえぐってやれ!」


私を憎む声がもっと強くなった。

ルシアス様は拳を握りしめているだけ。


いいよ、そこで見ていれば。


私はもう、ルシアス様に助けなんか求めない。

その隣にいる人と幸せになればいい。

私のことなんか見捨てればいいよ。


今度は近くにいた令息が拳を振り上げた。


「やめて!!リラちゃん逃げて!!」


ダリアちゃんの悲鳴が聞こえた。


私はもちろん逃げることなんて出来ずに固まるだけ。


殴られる寸前で、何かは分からないけど物凄いスピードで目の前をが通り過ぎた。

唸りを上げながらその茶色い何かは、私を殴ろうとした令息の左上半身に噛み付いていた。


「なんだ!!この狼!離せ!!ぎゃぁぁぁぁぁあ!!!」
「キャァァアア!!」
「逃げて!!早く逃げて!!」



茶色い毛の大きな狼、綺麗なオッドアイは怒りに燃えていた。


ルディは最後にもう一度、強くその男に牙を食い込ませた。


生まれてから一度も痛みを味わったことのないであろう令息は白目を向いて悶絶、令嬢の悲鳴はもっと大きなものとなった。


ルディは次は私の髪を掴んでいる男に向かって唸る。

腰抜けの令息はすぐに私を離して、私をルディの方に突き飛ばした。


「その女でも食ってろ!」


ルディは突き飛ばされた私を大きな体で受け止めた。


もちろん食べられることはなく、私の頬の傷を舐めてくれる。


全員が呆気にとられていたらもっと呆気にとられる人物が登場した。


「こらー、ショコラー。」

棒読みで現れたのはラルフだった。


「ショコラ、散歩中に玉なしを見つけても噛んだらダメって言っただろ?おや、大変だ、怪我人じゃないか。」


お世辞にも演技が上手いとは言えない。


「皆さんどうもすみません、うちのショコラは玉なしに反応するんですよ、玉なしに。」

バキッ!!

ラルフはそう言いながら、ダリアちゃんの頭を掴んでいる令息を1発殴って気絶させた。

ダリアちゃんはその隙を完璧に活かす。

押さえていた男たちを払い除け…

「うっ!!」
「ぐはっ!」

見事に急所を蹴り上げた。

ルディが素早く体勢を低くしたから私はそれに乗っかる。


ダリアちゃんがラルフの腕を取り猛スピードで走って行ったのを確認して、ルディも走り出した。


まだ胸の辺りが痛い。


何があってもルシアス様なら助けてくれると思ってた。


絶対守ってくれると思ってた。


全部人任せな私が悪いのはわかってる。


それでも傷付いたのは事実だ。


あの、カレン嬢の前ではルシアス様もただの男になるらしい。


面倒事は避けて、無難な方を選ぶただの男に。


ルシアス様がカレン嬢を好きなことはわかっていたのに。


どうしてこんなにも涙が止まらないんだろう。




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