生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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災難

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sideルシアス

ギチギチと服と拳が軋み合う音がする。

それも周りの喧騒でかき消され誤魔化されていた。


今俺はライアスに背中の服を掴まれている。

リラが叩かれ傷つけられる瞬間を見て飛び出しそうになった俺をライアスが止めた。


今飛び出せば今日やったことが水の泡になるからだ。

それはわかっている。

でも、見ているだけなんてあり得ない選択だった。


何もかもバレても助けてやるべきだったのに。

バレるも何も情報自体手に入らなかった。

泳がせようとしている相手に少しでも不審がられたらこれから先が行き詰まる。

全部解ってはいるが納得ができない。


「人狼…でしたよね?」


カレンが俺に声をかけた。


「あぁ、そうだな。」


敬語を忘れる程、作り笑いができない程頭に来ていた。


「ルシアス様、それよりも…。」

カレンは懐からハンカチを取り出して俺の服をパタパタと払う。


「人間に触れられたところを綺麗にしませんと。人間がルシアス様に触れるなんて言語道断、あの人間は処刑台に送られても文句は言えませんわ。」


この女も周りで騒いでいる連中と同じ類か。


通りでこれっぽっちも好感を抱けないわけだ。


「ひとまずはこれで。災難でしたわね、ルシアス様。」


災難?


「はい…本当に。」


お前なんかを泳がせるためにリラを傷つけられてしまった。

それだけが本当の災難だ。


*******************

sideリラ

「リラちゃん血が出てる…。」

「友達は食うなよ?」

「ちょ!ラルフ!服!服とってくれって!」


私たちの逃亡先は少し離れた丘の上。

私は木陰に座らされて、ダリアちゃんとラルフは心配そうに私の顔を覗き込む。

ルディは人間の姿に戻り、木の後ろで服を催促していた。


「助けてくれてありがとう、ルディにラルフ。ダリアちゃんも、庇ってくれてありがとうね。」


私にはこんなにも心強い友達が3人もいる。

それなのに…


「あぁ、リラちゃん。よしよし。」

どうしてこんなに涙が止まらないんだろう。


「リラ、もう大丈夫だ。俺とルディもいるから安全だ。」

安全なのは十分解ってるよ、ラルフ。


「バッカじゃないの!?そんな事でリラちゃんがこんなに泣くわけないでしょ!本当に女心が分かってないんだから!!」


ダリアちゃんは怒りながらラルフをバシバシ叩いた。


「ラルフ!服取って!本当に取ってください!!」

「ラルフ!もうあの馬鹿うるさいから服でも骨でもあげてきて!」


ダリアちゃんはそう言ってラルフをルディの元へやると、私の隣にくっつくように座った。


「リラちゃん。あの嫌な女がルシアス様の隣にいたのが嫌だった?それとも助けてくれないことが嫌だった?」


ダリアちゃんは私が悲しんでいる理由を明確に聞いてくる。


「両方かな…。」


ダリアちゃんは本当に私をよく理解してくれる最高の友達だ。


「ルシアス様、今日仕事だって言ってたのに。」


嘘をつかれたこともショックだ。

恋人でもなんでもないのに。

これが思い上がっていた証拠かな。


「ルシアス様は嘘ついてないと思うよ?本当に、なんだと思う。」


そうかな…?


「女の人と一緒に街に行く仕事って何?」

訳がわからないよ。


「絶対仕事だって!ルシアス様の目死んでたし(笑)」

ダリアちゃんはルシアス様の目を思い出したのかクスクス笑い出した。



「助けてくれなかったのもきっと仕事だからだよ。もしかしたら私やリラちゃんと知り合いだってあそこでバレたら私達が不利なことになったのかもしれない。
そこは帰ってルシアス様にちゃんと聞いてみないとね。」


ダリアちゃんは私よりも遥かに大人だ。


「でも、もし仕事じゃなくてただ助けるのが面倒だったって言われたら?」


メソメソなく私に対してリラちゃんは不敵に笑う。


「そしたら、私がルシアス様をぶっ飛ばそうかな!」

ちょっと想像がついて笑いが出た。

「いいね。それ俺も手伝う!」

ルディは服を着終わってダリアちゃんの真横にしゃがみ込んだ。


「リラ、俺たちは何があってもリラの味方だからそんなに泣かないで。」

ルディはそう言って私の涙を大きな手で拭ってくれた。


「うん、ありがとう。」

ダリアちゃんはまた頭を撫でてくれる。


私たちがほのぼのとしていたらその空気が突然一変した。

今までみんなの優しい顔を見ていたはずなんだけど、3人はいきなり戦闘態勢になる。

ルディが私の目の前で背を向けていて左隣にはラルフ、右隣はダリアちゃんが構えた。


私は焦って立ち上がる。


この雰囲気は私は知ってる。


重くて息が詰まるようなこの雰囲気は嫌いだ。


「リラ、絶対その木から離れるなよ?いいね?」


ルディの声は真剣そのものだ。


「うん。」


私は言われた通りに行動しよう。

恐らくこの3人にしか分からない敵がいるんだ。

私はひたすら足手まといにならないようにしないと。

私が何歩か後ろに下がって、木に体をつけた瞬間3人が物凄いスピードで飛び出していった。
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