生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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笑顔の裏

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sideリラ

目が覚めたらルシアス様は隣にいなかった。

さらには外は真っ暗だ。

大きなベッドに私1人だけ。

まだルシアス様の匂いが残る毛布をぎゅっと抱きしめた。

ルシアス様、どこにいるんだろう。

お風呂に入ってるのかな?

今日は疲れたなぁ。

かなり激しかったし。

激しいのはいつものことだけどね。

私何してるんだろう。


お別れを言わなくちゃいけないんだよ?


それなのにこんな情が移るような事をして…


もう黙って消えるしかないのかな?

確かにそれが一番早くて楽だ。

でも、ルシアス様はどう思うかな?


私がいきなり消えて、死んでしまっていたら。

ルシアス様はどんな顔をするんだろう。


泣くかな?

いや…ルシアス様に限って泣くなんて。

あんな男らしいルシアス様が涙なんか見せるわけない。


どっちかと言うと怒るかも。

怒ったら怖いからなぁ、ルシアス様。


私が寝返りを打ち、枕に顔を埋めたらベッドが小さく揺れた。


「まだ寝るのか?」


ルシアス様だ。


顔をあげたら、濡れた髪を拭くルシアス様とご対面。

「服着ないと風邪引きますよ。」

「お前だって今着てないだろ。」


まさか屁理屈で返ってくるなんて。


「私はいいんです…毛布かけてますから。」


私が仏頂面で言い返すとルシアス様は笑って私の鼻先にキスをした。


「まぁいい。それより聞きたい事がある。」


表情からしてすごく真剣な内容ではないと思う。


「何ですか?」


ニコニコ笑ってるし、何が食べたいとか聞いてきそう。


「記憶が戻ったことはいつ俺に話すつもりだ?」


頭が真っ白になった。

「…………はい?」


え??え??

そんなナチュラルな笑顔でそんなこと聞く??

そもそもルシアス様のナチュラルな笑顔って逆に胡散臭いよね?


何でもっと構えてなかったの!


「…何の話ですか。」


大丈夫、今の私なら嘘を突き通せる。


前の私とは違う。


「嘘をつくのが上手くなったな。別人になったみたいだ。」


ルシアス様はもうすでに怒ってる。


私の頬を片手で掴んでそのままベッドに押し倒してきた。


「リラ、お前の口からちゃんと話せ。」


ルシアス様の頭からは悪魔の角が生えそうな勢いだ。


そんなに怒らなくても。


甘い寝起きが台無しだわ。


「嫌です。」

「あ?」

ルシアス様は角を生やす前に、額に筋を入れた。


もうブチ切れ寸前ってやつだ。


「ルシアス様には関係ありません、私がどこの何者でも別にいいでしょ。」


ルシアス様は額に筋を入れたまま口角を上げる。

大魔王の顔、と言ったら一番わかりやすいかもしれない。


「あぁ、別にお前がどこの誰でも俺には関係ない。興味すらねぇな。だけどこれから一緒にいる上で話しておくのが筋だろうが。」


これから一緒にいる上で?


「何ですか、それ。結婚でもするつもりでしたか?」
「あぁ。」



……………?



「え…?」


私の如くルシアス様も冗談だよね?


「いや…あの……」


冗談に冗談で返すところはルシアス様らしいけど…。


「なんだ?文句でもあるのか?」

確実にわかる事が一つ。

文句を言えばこのまま顎を粉砕させられる。

「い、いえ。何も。」

「あぁ、そうだよな?文句なんてないな。で?式はいつにする?お前が全てのことを洗いざらい話した後ってのはどうだ?」


圧が強い…強すぎる。


「式…?」


「あぁ、結婚式だ。準備に時間がかかるから早く話してくれ、俺は気が短い。」


もうどこから何の指摘をしたらいいのか…。


「記憶が戻ったというか…えっと、全部戻ったわけじゃなくて、少しずつなのでもう少し待ってもらえませんか?自分の中で纏まったら話しますから。」


私にしては上手い切り返し。


「纏まればちゃんと話す…約束できるか?」


ごめんなさい。


「はい。」


あなたに大嘘をついた。


「約束破ったら……分かってるな?」


もちろん分かってる。

「はい…」


ルシアス様は激怒してきっと私を血祭りに上げる。


「あの……分かったので、離してください。私もお風呂入りたいです。」



早くこの人から逃れなければ。


嘘をつくのがつらい。


二度と会えなくなると思うと苦しくて死にそうになる。


「あぁ、入ってこい。それより晩飯は食えるか?食えそうなら何か用意しておく。」


嫌だな…ルシアス様優しい。


大好き。


「はい!お腹ぺこぺこです!」


さっきまで私の顎を砕こうとしていた手は…


「じゃあ上手いもの作っといてやる。ゆっくり入って来い。」


今度は私の頭を優しく撫でてくれた。


泣き出しそうになった私は、その手から逃れるようにバスルームへ走った。


ルシアス様は狡い。


優しくて意地悪で甘くて苦い。



私を本当にかき乱す。


結婚とか言ってたけど…



冗談でも嬉しかった。


私、あんな冗談でも喜べるほど単純なんだ。


昔誰かが言っていたけど、惚れた方が負け。


本当にその通りだわ。


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