生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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sideリラ

これはまずい。


さすがにバレてる。


「ゲホッ…」


だけど、まさか血を吐くなんて思いもしなかった。


寝起きに吐き出すような物じゃない。


口の中も気持ち悪いし、体も怠い。

今までの"具合が悪い"なんて可愛い物だと思える程。


「リラ、僕らならリラを助けられる。………あのキャンディー、ただのキャンディーじゃないでしょ?」


ライアスの言葉にギョッとした。


どうしてそれを知っているの?


あの時は私しかいなかったし、ルシアス様だって眠らされていたのに。


動揺した私をライアスが逃すはずがない。


「喋らせる方法なんていくらでもあるよ。…だけど、リラは僕にそんな事させないよね?ちゃんと話してくれるよね?」


ライアスは頭を撫でながら私に聞いた。


「それは…」


できない。


いくらライアスでも絶対にできない。


「やってみてよ、ライアス。私に、、してみて?」


ライアスが私にひどい事をするわけがない。


増してや無理矢理暴こうなんて思うはずもない。


「記憶が戻った途端、随分と頭が良くなったね?」


私はこの言葉に微笑んだ。


都合の悪い事は下手に言わない方がいい。


「これは、僕も苦労しそうだなぁ…」


ライアスやルシアス様みたいな鋭い人には特に。


「今日は疲れてるだろうからもう休んだ方がいいね。また明日くるから話をまとめておいてね?」


ライアスは私に優しく笑いかけたら立ち上がった。


私が口を割る前提で話しているけど、きっと私の命がなくなる方が早い。



明日の今頃私はもうこの世にはいない。


だから覚えておいてほしい。

 
「ライアス、誰も悪くないの。…これだけは忘れないで。」


誰も…?


いや、ちがう。


誰も悪く無い、の間違いだ。


この血がいけないのよ。


この血さえなければ殺戮なんか起きなかった。


お父さんとお母さんは死ななかった。


友達も故郷もきっとまだあったはずなのに。


この血は呪われた血だ。


「………また明日ね、リラ。」


ライアスは私の目には見えない速さで消えてしまった。


ルシアス様と暗い部屋に2人きり。


沈黙が流れた。


「リラ。」 


ルシアス様はベッドに座っている私に視線を合わせるために、床に膝をついた。


そこはさっき、私が吐血した場所だ。


「ルシアス様!汚れますよ!」


汚いからそんなところに膝をつかないで。


「汚いものなんて一つもない。……それより、何でこんな事になってんだ?……こんな状態になってまで話せない事って何なんだよ?」



ルシアス様の目には怒りと悲しみが交差してる。



「まさか長くないのか?どこが悪いんだ?なぁ…答えてくれよ。」


ルシアス様をこんなにしてしまうなんて。


「薬でも何でも手に入れてやるから、教えてくれ。」



私を優しい力で抱きしめたルシアス様は、私の額にルシアス様の額をくっつけた。



「長生きしてくれなきゃ困る。」


ルシアス様、やめてよ。


いつもならそんな事言わないじゃない。


「大丈夫ですよ、ルシアス様。」


あなたの周りにはたくさんの人がいる。


1人になんかならない。


だから寂しくないよ。


私のことなんてきっとすぐに忘れられるから。



だから…


「心配しないでください。」


私の大好きなルシアス様。



******************

sideルシアス


嫌だ、絶対に嫌だ、耐えられない。


「リラ…」


失いたくない、この腕からいなくなるなんてありえない。


「俺が絶対にどうにかしてやる。…約束するから教えてくれ。」


何の病気だ?


それとも何かの呪いか?


「大丈夫ですよ。」


リラは弱々しい手で俺を撫でた。

この手は知っている。


もう時間があまりない手だ。


服越しでも分かる低い体温と、覇気のない声。


ただの体調不良でこんな事にはならない。


「リラ…俺と生きてくれ。」


こんなタイミングで言うのはおかしい。


もっと他にあるだろうが。


こんな、土壇場で言うなんて。


「ルシアス様にそんな事を言われる日が来るなんて。」



リラは笑っていた。


俺が冗談を言っていると思ってるらしい。


「すごく幸せです。」


リラの涙が俺の頬に流れた。


「もっと幸せにしてやるから…ちゃんと言ってくれ。」


リラは俺に抱きついてきた。


そして……



「っ。」


俺の唇に優しくキスをした。



「内緒です。」


顔色が悪くても、笑った顔が世界一可愛い。



それからリラに何を聞いてもリラは答えてくれなかった。


まるでリラが大きな壁の向こうにいるようだ。


その壁はあまりに大きくて超えられる自信がない。


だったら1にその壁を越えてもらうか。


もうしかない。
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