生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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少ない望み

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sideリラ

ルシアス様は私を抱きしめて眠ってくれた。


その胸の中で永遠の眠りにつけたらどれほど幸せか。


想像もできない幸福感に包まれるに違いない。



少し肌寒い。


毛布か何かないかな?


寝ぼけながらベッドの中で毛布を探す。


モフモフの何かがあるけど、毛布じゃないしすごく暖かい。


「ん?」


私が目を覚ますと……

「へ!?」


大好きな狼が私の隣にいた。


「ナイト??何で??」


私がナイトに聞くと、ナイトはチラッとベッドの隣の小さな棚を見た。


そこには……


「綺麗な字……」


すごく綺麗な字の置き手紙が。



ー仕事で遅くなる、ナイトの世話は頼んだ。ー




短文で簡潔で何ともルシアス様らしい。




今日、遅くなるのか…。


私はもう、今日の夜死んじゃうんだけどな……


最期くらい会いたいな…。


死体で会うのは嫌だよ、ルシアス様。


やっぱり、どこかルシアス様の知らないところで夜を過ごそう。


一緒に生きようと言ってくれた人に死体で会うのは嫌だ。


いっそ、真剣な言葉をぶつけたルシアス様から逃げた卑怯な女で終わらせて。


私を嫌いになってくれた方が都合がいい。


私が悲しみに暮れていたら、ナイトが私の脇の下に鼻を突っ込んできた。


「ナイト…」


会えてすごく嬉しいよ。


「ナイトは本当に可愛いね。」


体が怠い。


思うように動いてくれない。


「ナイト、もう少しゆっくりしようよ。」


私が横になるとナイトもその隣に伏せる。


「ナイト……今日の夜…いつもの海に私を連れて行って?………そこで私とずっと一緒にいてほしい…。」



震えと涙が止まらなかった。


「嫌な役を押し付けてごめんね?でも…もうナイトにしか頼れないの。」


私が泣いていたらナイトが私の涙を舐めてくれた。


「ごめんね。夜には泣き止むから……」


だから、今日はしばらくこうさせて。


*******************

sideルシアス


リラはしばらく泣くと疲れたのか眠ってしまった。


リラが眠ってから俺は姿を元に戻した。


真っ赤に腫らした目が痛々しい。


「リラ………。」


海なんか見に行ってどうするんだよ。


それに、嫌な役って何だ?


まさかナイトに噛み殺せとでも言うのか?


勘弁してくれ。



俺がうつ伏せで寝たまま頭を撫でていたら、リラがほんの少しだけ目を開けた。


まだ寝ぼけているらしい。


「リラ……。」


弱りきってる。


死ぬ前の顔色と体温だ。


これまで何人も死人を見てきたからよく分かる。


リラは、持って今夜だ。


「リラ………」



言葉が悲しみで詰まって出てこない。



絶対に死なせたくない。



リラの弱々しい手が俺の頬に触れた。


「ルシアス様……」


もう遅い。


遅すぎる。


どうして俺はもっと早く言えなかったんだ。



「リラ………誰よりも愛してる。」



俺の心からの言葉にリラは幸せそうに笑う。



「ルシアス様……」


そして泣いた。


「ルシアス様……嬉しい…嬉しいです。」



俺は起き上がり、リラを寝かせたまま膝の上に乗せた。


「夜、連れて行ってやるよ。海。」


きっとリラの最期の願いになる。


「ふふっ…いつナイトに会ったんですか?」


まだ気付いてないのか。

相変わらず鈍いな。


「俺とナイトは通じ合ってんだ。」


冗談だと思っているらしく、リラは弱々しく笑った。



「また起こしてやるから、寝とけ。」



リラが再び目を閉じて深い眠りにつく。


その瞬間、俺の目からは驚くほど涙が溢れてきた。


受け入れられない感情が涙になってボロボロと落ちていく。


無理だ、こんなの耐えられない。


何で?いつ?どうしてこんなことに?


俺がもっと早く気付いていれば………


「ルシアス。」



いきなりライアスが現れた。


そう言えば、今日来るって言ってたな。


「今は、お前の相手をしていられる状態じゃない。帰れ。」


リラが死ぬ。


この腕から消えてしまう。



「もう一度僕にチャンスをくれない?僕はまだ諦めたくない。」


諦めたくない?


「リラはもう今夜持つかどうかも分からない、もう何をやっても無駄だ!!何もかも遅かったんだよ!!俺がもっと早く気付いていれば…」


きっとこんな事にはなっていない。


「泣き喚くのは後からでもできる。今は…」


ライアスが俺の髪を掴んで無理矢理顔を上げさせた。


「この子を救うのが優先だ。泣くことしかできないような子供に用はない。」


ライアスは俺の想像以上に怒っていた。


「リラより先にあの世に送られたくなければ僕を手伝え。」


ライアスはそう言って俺の髪を強めに離した。


「手伝うって何を…」


もうここまできたらどうしようもないだろう。


「何でも、できる事は全てやる。早く行くよ。この時間が惜しい。」



ライアスはまだあきらめていないのか?


もう取り返しがつかないのに?


「そこで泣いていたいなら僕は無理には誘わないけどね。」


ライアスはそれだけ言ってこの部屋を出た。


情けない。


俺は泣くことしかできないなんて。


そんなのは間違ってる。


まさかライアスに諭される日が来るとは。



そうだ、リラはまだ生きてる。



泣いている暇なんて1秒もない。
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