生贄少女とヴァンパイア

秋ノ桜

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sideルシアス


仕事が終わり、俺はライアスの屋敷に向かった。


玄関に近づけば勝手にドアが開く。


普通に入っていけば、リビングにライアスがいた。


「来たぞ。」


さっさと話を始めてくれ。


お互い、喧嘩にならないうちにな。


「そうだね。じゃあ早速始めようか。」


ライアスが軽く言った一言。


俺はこの意味をまだ理解していなかった。


何を始めるんだ?


「………あ?…あぁ。」


俺は痛い事をされるとは知らずに油断していた。


「ちょっと我慢してて。」

そのせいで簡単にライアスに後ろを取られる。


「ぐはっ!!」


あろう事か、ライアスは俺のみぞおちに蹴りを1発入れて俺の上半身を曲げさせた。


そんな痛みはよくある事だが、文句を言う前に味わった事のない痛みがうなじを走る。



「うっ!っ!!ぐっ!!!!」


痛い痛い痛い痛い!!!


コイツ何しやがる!!!


「っ!!やめろ!!!痛ぇだろうが!!!」

あまりの痛さにライアスを振り解いた。


「もう少しだから。」



何がもう少しだ。


「血塗れだろうが!俺の首に何してるんだ!」


俺がうなじを触ると、うなじの皮が逆剥けのようになってる。


「皮を剥いでるんだよ。」


コイツ正気か?


「もういい、俺は帰る。付き合ってられねぇ。そもそも呪いなんだろ?これ。首の皮剥いでどうにかなる事じゃねぇよ。」


帰ろうと振り返ると…


バキッ!!
「っ!!!」


強烈な一撃が俺の顔にめり込んだ。


俺は無様にもぶっ飛ばされて、ライアスの家の壁に穴を開ける。


「帰る?どこに?まだ半分も終わってないよ?できることはしないとね。僕には時間がないんだ。痛いとか苦しいとかそんなことはどうでもいいよ。」


コイツ、正気か?


いや、絶対に正気じゃない。


「リラを取り戻す。僕はそれ以外に興味はない。喚いていないで大人しくしててくれないかな?」


ライアスは物凄い剣幕で迫ってくる。


俺は顔面を掴まれて壁に叩きつけられた。


「動くと痛いしいつまでも終わらないよ?」


これが本当に俺と血を別けた兄弟か?


こんな化け物が?


「大丈夫、死にはしないよ。ヴァンパイアなんだから。何度皮を剥いでも再生する。傷すら残らないから。」



ライアスは表情一つ変えずに淡々と喋る。


「さて、もう一度最初からやり直そうね。」


初めて、ライアスを怖いと思った。


リラとか言ったな。

その女はライアスをここまで惚れさせてなんで俺と結婚した?


目の前の化け物は本当にどうしたらこんな事になる?


ライアスはきっと、リラを愛していた。


言動を聞いていればすぐに分かる。

でも、愛情がここまで残酷なことをさせるのか?


ライアスはまた俺のうなじに手をかけた。


「っ!!あ゛ぁ゛あ゛っ!!!」


意識が飛ぶような痛みだ。


視界がチラチラして、痛みを受け止められない体がビクビクと動く。


「やめ…!あ゛あ゛ぁ゛っ!!!」

メリッ…!!!


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛っ!!!!」


初めて自分の悲鳴を聞いた。


「うるさいよ。」


嫌だ!もうやめてくれ!!


そう叫びたいのに、言葉が出てこない。


痛みで全てが支配され動物のように喚き散らしていた。


「あ゛っ!!やめ…!!」


皮膚が剥がれていくのがわかる。


剥がされた皮膚は床に落とされて、うなじの肉が丸出しになっていた。


生理的な涙がポタポタと床に落ちて、その上に俺の血が大量に溢れる。


いろいろ混ざってもうぐちゃぐちゃだ。



「へぇ、やっぱり効果絶大だね。」


俺はもう言い返す気力もない。


皮膚が完全に再生するのに時間は全くかからなかった。


俺が深呼吸をして鼓動を鎮めていたら皮膚は勝手に治っていく。


「これを後何回かしたらきっと呪いの力も弱くなるよ。」


は?


何回かしたら?


「ふざけんな…どんだけ痛いか分かってんのか?次やったら本気で殺す。」


頭がクラクラする。


あまりの痛みに身体がついていかなかった。


「どれだけ痛いか?それを僕に言うの?本当の痛みなんて知らないくせに。」


コイツ…同じことされたいのか?


別にそれでも俺はいい。


そう何回も首の皮剥がされてたまるか。


「本当の痛みはね…」



ライアスはまた俺のうなじに手をかける。


抵抗しようとしたら物凄い力で押さえつけられた。


「もっともっと奥にあるんだよ?皮一枚で届くような浅いところじゃない。」



ライアスがわざとらしくにっこり笑って見せた。


「まぁそれはさておき……肌に染み付いた魔力が若干薄くなってる。何度も再生させて呪いを消してしまおうね。」



ライアスは悪魔のように笑った。


「そう怯えなくても、記憶が戻ればきっと僕に感謝すると思うよ?」


だめだ、完全にイカれてやがる。


なぁ、リラとやら。


お前は一体どんな女だった?


きっと物凄い魅力的な女なんだろうな。


記憶のない俺をぼろぼろと泣かせたくらいだ。

それに、ライアスを完全に狂わせる事もできている。


まさか俺はこれ以上の狂気を持ってお前に接していたか?


それならそれで顔のわからないお前が怖いよ、リラ。


仮に記憶が戻ったとして俺は感謝なんかできるのか?


感謝なんかできたら俺も相当頭がイカれてる。



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